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「ロシアは焼夷弾を使用して戦争犯罪を重ねた」米識者 ロシア軍、バフムトで焦土作戦か

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
ロシアによる焼夷弾の雨に襲われるバフムト。出典:TheDrive.com

 ウクライナによる反転攻勢が迫ると言われるなか、6日、ウクライナ東部の激戦地バフムトが焼夷弾による激しい攻撃を受けた。ロシア側は焦土作戦に出たと見られている。また、ロシアの民間軍事会社ワグネルの系列メディアは「(戦闘員が)多連装ロケット砲によりウクライナ軍の最後の地区に焼夷弾を撃ち込んだ」と伝えており、攻撃はワグネルによるものである可能性がある。

 焼夷弾による攻撃について、米シンクタンク「ランド・コーポレーション」の上級研究員ウィリアム・コートニー氏は、ロシア側は焼夷弾で最後の賭けに出たのだと米ビジネス・インサイダーで述べている。

「攻撃は、プリゴジン氏(ワグネルのトップ)がバフムトから撤退すると表明した後に起きた。ロシア政府あるいはプリゴジン氏は、ウクライナ軍をバフムトから追い出す最後の賭けとして、焼夷弾に訴えることにしたのかもしれない」

 バフムトへの大規模攻撃が起きる前、プリゴジン氏は動画を投稿して、ショイグ国防相とゲラシモフ参謀総長を名指しし、「ショイグ! ゲラシモフ! 私の弾薬はどこだ」「弾薬を渡せば、死者は5分の1ほどになったはずだ」と主張、さらには、兵士の遺体を前に「彼らは志願してここに来た。調度品の整ったオフィスにいるお前らを肥やすために死んでいく」と弾薬不足でワグネルの戦闘員が亡くなっていく惨状に対してロシア国防省が対応しないことに対し激高し、撤退表明もした。

 プリゴジン氏の怒りの動画を観た識者からは「とても感情的な暴言、とても感情的なメッセージでした。彼はこれまであれほどダイレクトに大声を上げたことはありません」との指摘もあがっていた。焼夷弾による焦土作戦がワグネルによるものなら、それは同氏の怒りと焦りの表れか?

 もっとも、ロシアによる焼夷弾の使用は、ウクライナ戦争では6日が初めてではない。米外交政策研究所の上級研究員ロブ・リー氏は画像と共に「ロシア側はバフムトで何ヶ月も焼夷弾を使用してきた」とツイートをしている。

 また、ロシアはウクライナ侵攻当初から多用し、2014年の東部ウクライナ侵攻の際にも使用されたという指摘もある。

 「焼夷弾の使用は、焼夷弾の使用の禁止・制限を取り決めた1983年発効の国際的な議定書に違反している」と前述のコートニー氏は指摘している。国際的な議定書とは、「特定通常兵器使用禁止制限条約・附属議定書3」のことで、民間人や民間施設、人口密集地域にある軍事基地を焼夷弾で攻撃することを規制しているからだ。同氏は「これは、ロシアの最初の戦争犯罪ではない。焼夷弾の使用は、ロシアへの国際社会からのリスペクトをいっそう損ない、国際戦争犯罪法廷を設置する追加の理由になる可能性がある」と述べ、焼夷弾の使用がロシアが犯した戦争犯罪に加えられる可能性があるとの見方を示している。

 戦争犯罪ということでは、3月には、国際刑事裁判所が、プーチン大統領が、孤児を救うという名目で行ってきたウクライナの子供たちの強制移送は戦争犯罪にあたると判断し、プーチン大統領に逮捕状を出している。

 また、民間人の死者が8千人を超えたとされているブチャでは、戦争犯罪が疑われるケースが7万件以上もあり、国際機関が訴追に向けて動き出したと言われている。

 ウクライナ軍の反転攻勢が迫り来るなか、バフムト制圧を目指すロシア軍はこれからも国際法に違反するやり方でウクライナ軍に対峙し、戦争犯罪を重ねていくのだろうか?

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在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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