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「イーロン・マスクはプーチンのメッセージを伝えている」米元ロシア担当顧問の見解

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 イーロン・マスク氏が先日、ツイッターで、ロシアが一方的に併合したウクライナの4地域について、国連の監視下で選挙を行って住民の意思を問った上で「住民の意思が示されればロシアは立ち退く」と主張し、ロシアが2014年に強制的に併合にしたクリミア半島をロシアの一部として正式に承認し、クリミアへの水資源供給を保障した上でウクライナが中立を堅持するとした提案は「ロシア寄り和平案」と見なされて大きな非難を浴び、ゼレンスキー大統領の怒りも買った。

 このマスク氏の提案について、米トランプ政権下で国家安全保障会議のロシア担当首席顧問を務めたフィオナ・ヒル氏が、米政治ニュースサイト「ポリティコ」で、「イーロン・マスクがプーチンの代わりにメッセージを伝えているのは非常に明らかだ」と自身の見解を述べている。

マスク氏が水について言及

 ヒル氏がそう主張するのにはワケがある。それは、9月終わりにアスペンで行われた会議で、マスク氏が、非難されたツイートの内容をすでに提案しており、それは、プーチン氏がウクライナの4地域を併合する前のことだったからだ。ヒル氏はこう説明している。

「9月終わりに、アスペンで会議がありました。その時、マスクは、彼がツイートした内容、つまり、クリミアは1780年代からロシアのものだったのでロシア領として認めることや、クリミアへの水の供給を保障すべきヘルソンとザポリージャの支配については交渉すべきであることを提案していました。彼は、プーチンが9月30日に、これら2つの地域を併合する前にこの提案をしていたのです」

 ヒル氏は、また、水について知らないと思われるマスク氏が水について明確に言及したのは、同氏がプーチン氏のメッセージを伝えていることの裏づけだと考えているようだ。

「それは非常に明確な言及でした。ヘルソンとザポリージャは基本的にクリミアへの水を全て供給しています。クリミアは乾燥した半島なのです。(クリミアは)ヘルソンの運河を流れているドニプロ川の水に依存しています。マスク自身はこのことについては知らないと思われます。(マスク氏が)水に言及したことは非常に具体的なことですから、これは明らかにプーチンのメッセージです」

プーチン氏は著名人を利用する

 また、ヒル氏は、プーチン氏が自分のメッセージを伝えるために、著名人をよく利用することも指摘している。

「いくつかの理由から、マスクの介入は興味深く、重要です。まず、プーチンはこういうことをよくするのです。彼は、一般的な政治情勢を探るため、仲介者として著名人を利用するのです。人々が考えにどう反応するかテストするためです。例えば、ヘンリー・キッシンジャーも、直接、プーチンとやりとりをしてきました。そしてメッセージを伝えました。プーチンはしばしば、実業家を含めて信頼されているさまざまな仲介者を利用するのです。私も政府にいた時は、私と話し合おうとする仲介者が送り込まれていました」

 ちなみに、元米国務長官のキッシンジャー氏は5月、スイス・ダボスで開かれていた世界経済フォーラムで「容易に解決できない状況になる前に戦争を終わらせるよう、今後2カ月の間に交渉を始めるべきだ」「できれば、今回の戦争が始まる前のラインまで分割ラインを戻せれば理想的だ」「このラインを越えてロシア側に攻撃を続けることは、ウクライナの自由というよりも、ロシアそのものへの新たな戦争になる」などと指摘して批判されたが、ヒル氏はこのキッシンジャー氏の発言もプーチン氏のメッセージだと考えているのかもしれない。

 ヒル氏は、今回、プーチン氏はツイッターで多数のフォロワーを抱えるマスク氏を利用したとみている。

「マスクは、テスラやスペースX、スターリンクを通じて、ロシアでは長年にわたり評判を得てきました。ロシアの世論調査では非常に人気のある男性の1人です。同時に、彼は、ウクライナにスターリンクを提供することでウクライナを支援する非常に重要な役割を果たし、ウクライナでのテレコミュニケーションを可能にし続けています。その一部の費用はアメリカ政府が負担しています。マスクには莫大な影響力も、ものすごい名声もあります。プーチンは大物の自尊心をくすぐり、彼ら(著名人)に役割を果たしていると感じさせている。しかし、実際には、彼らは、プーチンのメッセージを直接伝える発信者にすぎないのです」

マスク氏はプーチン氏と話し合っていた?

 マスク氏のツイートは、ヒル氏が主張しているように、プーチン氏のメッセージを伝える狙いがあったのだろうか? ヒル氏の主張を証明するかのように、ロシア政府はマスク氏のメッセージを歓迎している。

 ドミトリー・ペスコフ報道官は記者団に対し「イーロン・マスクのような人が、この状況から平和的に抜け出す方法を探していることはとてもポジティブなことだ。プロの外交官とは違い、マスクは平和を達成する方法を探している。ロシアの条件を満たすことなしに平和を実現することは、絶対に不可能だ」と述べている。

 しかし、そもそも、マスク氏とプーチン氏は繋がりがあるのか? 

 それについては、米政治学者のイアン・ブレマー氏が10日に出した最新レポートで「マスク氏から2週間ほど前に、ウクライナでの戦争を終結させる上での最低要件を巡り、プーチン氏と話し合ったと聞かされた」と説明している。これに対し、マスク氏は「プーチン氏とはたった1度だけ、約18ヶ月前に話した。話題は宇宙だった」とツイート。

 ブレマー氏はまたそれに対し「マスク氏は、プーチン氏やロシア政府と直接ウクライナについて話したと私に言った。彼はまた、ロシア政府にとってレッドライン(越えてはならない一線)は何かという話もした」とツイートで反論、マスク氏はそれに対し「誰もブレマー氏を信じるべきではない」と返している。

 物議を醸したマスク氏の「ロシア寄り和平案」だが、さて、真実はどこにあるのか?

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在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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