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バイデン氏の“世界最終核戦争発言”は「無謀だ。米国民を恐ろしい危険に晒す」ポンペオ前国務長官が批判

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
ロシアによるミサイル攻撃を受けて地下鉄に非難したキーウ市民。(写真:ロイター/アフロ)

 バイデン氏が6日、ニューヨークで行われた民主党の資金集め会合で、アルマゲドン(世界最終戦争)に言及したことを元米政府高官らが批判している。

 バイデン氏はこの会合で「核兵器や生物・化学兵器の使用の可能性について、彼(プーチン氏)は冗談を言っているのではない。今の状況が続けば、我々はキューバ危機以来の核兵器使用の脅威に直面する。戦術核兵器を安易に使用して、アルマゲドン(世界最終戦争)に陥らずに済む能力など存在しない」とロシアによる核攻撃の可能性に言及し、危機感を露わにしたことが世界を動揺させた。

 これに対し、国家安全保障会議戦略広報調整官のジョン・カービー氏は「バイデン氏のコメントは新しい情報やプーチン氏が核兵器を使う決断をしたという新たな兆しには基づいていなかった。率直に言って、彼(プーチン氏)がそんな決断をしたことを指し示すものは何もない」とバイデン氏の“世界最終核戦争発言”のクール・ダウンに走った。

米国民を危険に晒す無謀な発言

 そんな中、トランプ政権下で国務長官を務めたマイク・ポンペオ氏が、9日、“Fox News Sunday” に出演し、バイデン氏の“世界最終核戦争発言”について「なんてことだ。第一に、あの発言は無謀だ。もっと重要なことに、彼らは(あの発言が)この何十年間では外交政策の最大の失敗の一つであることを証明している。その失敗とは、トランプ政権が4年間の間にした同じ方法で、プーチン氏を抑止しようとしている失敗だ。大統領が資金調達の会合でアルマゲドンについてした思いつきの発言は、米国民を恐ろしい危険に晒す。彼が本当にそう思っているのなら、我々に真剣に話すべきだ」と批判したことが注目されている。

 ポンペオ氏はまた「バイデン政権は、プーチン氏に核兵器を使ったらどんな結果になるか理解を迫ることにおいては、“静かな外交”(政策)を使えば良かったのだ。静かに交渉してくれたらと願う」とも述べている。

 ちなみに、“静かな外交”とは、ある国が慎重な交渉やアクションを通して別の国の態度に影響を与える、外交政策上の取り組みのことで、水面下で行い、トークイベントよりも裏ルートに依拠している。“静かな外交”を重視する同氏は、今回バイデン氏が“世界最終核戦争発言”をすることで行い、そしてトランプ氏も大統領時代に頻繁に行っていた、他国の指導者を公然と非難するやり方はより対立を深めると問題視しているのだ。

 ジョージ・W・ブッシュ政権とオバマ政権下で統合参謀本部議長を務めたマイケル・マレン氏も、ABCの“This Week”のインタビューで、バイデン氏は、プーチン氏をウクライナとの交渉のテーブルにつかせるために、核というレトリックを引っ込める必要があると主張した。

「バイデン氏の言葉は、言葉の尺度ではほぼ一番上だ。我々は、ちょっと(言葉を)引っ込めて、解決のテーブルにつくためにできることは全てやる必要がある」

米国は覚悟しなければならない

 もっとも、上院外交委員会のメンバーであるクリス・マーフィー上院議員は、CNNの“State of the Union”に出演し、“大統領が核の戦いになるリスクがあると言及したことは正しい”という見方を示して、バイデン氏を擁護している。

「バイデン氏が核の戦いのリスクを引き上げたことは正しいと思う。プーチン氏はどんどん角へと追い込まれているからだ。戦争はプーチン氏にとって信じられないほど悪い状況になっている。彼が行った動員が裏目に出た。我々はロシアの信じられないほど危険な人物に対処していて、戦争は悪化しており、彼が次に何をするかも予測できない。そんな事実に対して、バイデン氏がこの国に覚悟させようとしていることは正しいと思う」

 バイデン氏は、10日にも、クリミア大橋爆発の報復としてウクライナの首都キーウをミサイル攻撃したロシアを強く非難、「プーチン氏に残虐行為と戦争犯罪の責任を負わせ、侵略の代償を払わせる」と厳しい姿勢を保持し続けている。

 問題はロシアもウクライナも交渉のテーブルにつく意思がないことだ。

 カービー氏は「我々は皆この戦争を終わらせたいと思っている。あまりにも長く続いている。必要なのは、両者が交渉のテーブルにつき、平和的、外交的に解決の方法を模索することだ。プーチン氏はそうする意思を全然示していない。ゼロだ」とプーチン氏の態度を批判している。

 ゼレンスキー氏も、ウクライナの4州を一方的に併合したプーチン氏個人と交渉することは「不可能」とする法令に署名した。もっとも、同氏はロシア政府と交渉する可能性については排除していない。

 クリミア大橋の爆発、プーチン氏のキーウ攻撃とウクライナとロシアの間で報復合戦が続くことが懸念される中、ロシアとウクライナは交渉のテーブルにつくことができるのか。

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在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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