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情報を鵜呑みにして買い占める人に欠けている3つのこととは?

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
(写真:アフロ)

2020年8月4日、大阪府知事の発言により、ドラッグストアに客が殺到し、うがい薬が売り切れているという。

マスク、トイレットペーパーに続き、うがい薬…。ここでは医学的な内容には触れないが、筆者のテーマとする食品ロスにも通ずる、消費者の買い占め・転売行動がなぜ起きるのか、そういう行動を起こす人に欠けている3つのことについて考えてみたい。

店が共有(きょうゆう)の場でなく、競争(きょうそう)の場に

2020年3月には、マスク・トイレットペーパーだけでなく、食品でも買い占める動きが起こった。世界各国で、「#買い占めやめよう」というハッシュタグを使っての投稿が相次いだ。

食品であれば、「スーパーはみんなで使う冷蔵庫」という感覚があれば、商品を独占してしまっては他の人に迷惑をかけるという気持ちが生まれる。でも、現状では、皆の共有の場というより、我先に買おうとする競争の場になってしまっている。

その1、国際消費者機構が提唱「消費者の5つの責任」

買い占めに走る人に欠けている1つめは、国際消費者機構(CI)が提唱する「消費者の5つの責任」だ。

国際消費者機構は、1982年、消費者には権利と同時に責任があるとして、8つの権利と5つの責任を挙げている。このことは、中学校の家庭科の教科書に掲載されている。

参考:

消費者の権利と責任(ながさき消費生活館)

その「5つの責任」のうちの1つめが「批判的意識を持つ責任」だ。

東京書籍の教科書『新しい技術・家庭 家庭分野』(平成28年発行)には、「ダイエット ミラクル みるみるやせる」という雑誌の広告を見た女性が「本当かな。」とつぶやくイラストが載っている。

また、開隆堂の教科書『技術・家庭 家庭分野』(平成28年発行)には、価格が安すぎるので、商品の品質はだいじょうぶか疑問に思い、調べてみた、という事例が載っている。

いずれにしても、情報を受け取ったときに、それを鵜呑みにしないで、自分の頭を働かせて考え、行動することが消費者としての責任である、ということを伝えている。

それをしないのは、消費者の責任を果たしていない。

また、「消費者の5つの責任」の中には「社会的弱者への配慮をする責任(社会的関心への責任)」というのもある。みんなが必要なものを自分だけが独占し、買い占めや転売をしたらどういうことが起こるのか、ということまで、思いを馳せて行動しなければならない。

その2、メディアリテラシー

メディアの情報を受け取ったとき、批判的に読み解く力のことを「メディアリテラシー」と呼ぶ。テレビの情報にすぐ飛びついて買いに走る人には、これがない。

ここ5年〜10年で、「○○を食べると〇〇になる」といった、食材の価値の一面的な情報だけをテレビで伝え、消費者が買いに走るという傾向は減ってきた(まだあるが)。

フードファディズムとは、食品に含まれている栄養素や食品が、体に与える影響を、過剰に評価すること、あるいは逆に、過剰に悪く評価することを指す。「これを食べると○○になる」「これを食べると病気になるから一切食べない」など、極端な食の購買行動や摂食行動につながってしまう。

参考:

フードファディズムはなぜ食品ロスを生み出すのか

今回、ドラッグストアでうがい薬の棚が空っぽになり、インターネットサイトで9,800円などの価格で転売されているのは、メディアリテラシーのない消費者が大勢いることを表している。

宮城県の新型コロナウイルス情報の公式ツイッターアカウントは、買い占め行動に釘を刺している。

その3、複数の結果を総合的に判断する「メタアナリシス」

臨床試験など、1つの実験結果だけで物事を判断せず、複数の臨床試験の結果を収集し、統計的な手法を用いて解析する「メタアナリシス」という手法がある。

たとえば、ある国の研究で「食物繊維は大腸がんの予防に効果がある」という結果が出たとする。別の国では「食物繊維は大腸がんの予防には効果がない」という結果が出ている。「効果があるともないともいえない」という結果も出ているとすると、それら複数の研究結果を総合的に判断するやり方だ。

現時点では、複数の研究結果を踏まえ、食物繊維は大腸がんの予防に効果があるとはいえない、という結論になっている。

出典:高校生「プラ過剰包装やめて」広がる署名 “個包装”にも利点、多様な視点生かすには

1つの情報だけで短絡的に判断する人には、複数の事柄を俯瞰して総合的に判断しようとする姿勢が欠如している。

食品の場合、適量摂取することで心身の健康によい効果を発揮する一方、過剰摂取すると弊害が起きるという負の側面も持っている。「なにを」摂るかだけでなく、「どのくらい」摂るかという量も重要だ。えてして、これまでのテレビの健康情報番組は、そこが抜け落ちたまま伝えていた。だから、「オレンジジュースがいい」と聞いて飲み過ぎて血糖値を上昇させたり、「ココアがいい」と聞けば飲み過ぎて血中コレステロールを上昇させたりする消費者が出てくる。糖や脂質を摂り過ぎればどうなるかという負の側面を考慮することや、「適量」の概念が欠けてしまっている。

医療に関する情報は、命や健康状態に関わるからこそ、複数の医療専門家の情報を総合的に俯瞰して判断する冷静な姿勢が必要ではないだろうか。

消費者の姿勢が食料不足や食品ロスの一因となりうる

以上、情報を鵜呑みにして買い占めに走る人に欠如している3つのことを挙げてきた。

マスクやトイレットペーパーの買い占めや転売騒動で、わたしたちは何を学んだのだろうか。

今回、買い占められたのは「うがい薬」だったが、これが生鮮食品や加工食品であれば、需要と供給の不均衡により食料不足や食品ロスといった事態を生んでしまう。

消費者の姿勢が、国のありかたを作っていく。「自分だけは」と思わず、消費者としての責任を自覚したい。

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食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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