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高校生「プラ過剰包装やめて」広がる署名 “個包装”にも利点、多様な視点生かすには

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
亀田製菓とブルボンへ包装削減を呼びかけた署名サイトの表紙にある写真(サイトより)

菓子メーカーの亀田製菓とブルボンへ、容器包装の削減を呼びかけた女子高生の署名活動が話題になっている。賛同者は1万8千人を超えた(2020年7月21日現在)。書き込まれているコメントを読むと、他の人の考え方がわかり、ためになる。

亀田製菓さん、ブルボンさん:プラスチックの過剰包装を無くしてください!

身近なことに問題意識を持ち、社会に目を向け、実践する高校生の行動力は、心から素晴らしいと感じる。自分が高校生の頃を振り返ると、恥ずかしいほど自分のことしか考えていなかった。恵方巻の食品ロス調査に協力してくれた大学生たちもそうだが、食品ロスや貧困問題といった社会的課題に目を向け、自分でできることを躊躇なく始める若い世代の姿に、いつも感銘を受けている。

若い世代の行動力あふれる姿勢に敬意を払った上で、今回の問いかけが、より社会をよく変えていくために、私たちは何を考え、どう行動していけるか、考えてみたい。

メーカーのお客様相談室への問いかけ

企画した高校生は、署名を集めてから、7月28日(火)に亀田製菓へ、7月29日(水)にブルボンへ署名を提出し、意見交換を行うそうだ(2020年7月16日付、オルタナ)。だが、署名を集める前に、メーカーのお客様相談室に直接、包装削減のことを聞いてみる方法もあったかもしれない。

亀田製菓が、今回のキャンペーンに対し、公式ツイッター上で「お声をいただいていますが・・・」と発言し、自社の容器包装削減に関する取り組みを紹介しているところをみると、事前に直接問い合わせはしていなかったのだろう。

おせんべいでECOに挑戦!? 小さなパッケージの「大きなチャレンジ」(読売新聞PR記事)

亀田製菓もブルボンも、お問い合わせ窓口を準備している。

亀田製菓株式会社 問い合わせフォーム

株式会社ブルボン お客様相談センター

筆者は食品メーカー勤務時代、5年間、お客様対応業務を兼務していた。北海道から沖縄まで、下は5歳から上は90代まで、幅広い地域から幅広い世代の方の声を直接聴いてきた。当時、多くのお客様から頂いた「商品の包装にジッパーを付けてほしい」との要望は、現在、実現している。すべてのリクエストが実現するわけではないが、誠意あるメーカーなら、必ず愛用者の声に耳を傾けてくれるはずだ。

会社は、人から構成されている。まずは直接、聞いてみてもよかったのではと思う。筆者も先日、企業の問い合わせフォームを通して取材を行った。

その上で、返事がない、納得いかない、といった反応であれば、あらためて自分の要望に耳を傾けてもらうために署名運動を始める、という流れも、選択肢として考えられたかもしれない。

容器包装により賞味期限が6倍に延長 食品ロス削減も

容器包装の過剰さが問われるのは、量の多さの場合が多いが、使用時間が短時間の場合もそうだ。先日、あるテレビ番組で、ドイツ人が、「1階のコンビニでペットボトル飲料を買ってレジ袋に入れてもらい、上階のジムに来てすぐ捨てるのはどうなのか」と問いかけていた。1階から上階まで移動する間だけしか使わないので、ほんの数分で捨てられる。

一方、食品の容器包装は、製造してから運ばれ、卸店を通って小売店まで運ばれ、商品棚に並べられてから消費者が購入し、家庭に持ち帰るまで日数がかかる。

賞味期限が3年間と長く、真空調理で外からの影響を受けにくい缶詰は、作りたてより、むしろ製造してから半年以降の方が味が染みている。しかし、鮮度が時間の経過とともに劣化しやすい食品であれば、商品が作られてから長い旅路を経てようやく消費者に届き、食べた時点でも、メーカーが自信を持って「おいしい」といえる味をお届けしたい。それが、食品メーカーの願いだ。そのために、容器包装を少しずつ改良し、製品化している。

最近では、開封後も酸素に触れづらいような形態のしょうゆの容器が登場している。これは、消費者の家庭に到着して開封されてからも、できる限り長く、おいしい状態を味わってほしいという願いを込めた容器包装だ。以前のペットボトル容器だと開封後の賞味期間が30日だったのが、これだと酸化を防ぐことができるため、開封後の賞味期間は180日。おいしく使える期間が6倍に延長している。

ヤマサ醤油株式会社の、容器包装による賞味期限延長と食品ロス削減の事例(農林水産省 食品ロスの削減に資する容器包装の高機能化事例集より)
ヤマサ醤油株式会社の、容器包装による賞味期限延長と食品ロス削減の事例(農林水産省 食品ロスの削減に資する容器包装の高機能化事例集より)

2012年10月から始まった、日本の食品ロス削減ワーキングチームには、残念ながら容器包装メーカーは参画していない。だが、世界を見渡してみると、食品ロス削減分野で容器包装技術が果たす役割は大きい。先進国だけでなく、途上国でも、この分野の技術により、賞味期限を延長し、食品ロスを減らすことができる。

キッコーマン食品株式会社の、容器包装による賞味期限延長の事例(農林水産省 食品ロスの削減に資する容器包装の高機能化事例集より)
キッコーマン食品株式会社の、容器包装による賞味期限延長の事例(農林水産省 食品ロスの削減に資する容器包装の高機能化事例集より)

直射日光や湿気防止のため高機能の特殊フィルムを使う場合も多い

農林水産省が公式サイトで発表している「食品ロスの削減に資する容器包装の高機能化事例集」には、72の事例が掲載されている。

丸彦製菓のおかき煎。フィルムは品質を保つアルミ蒸着フィルムが使われている(農林水産省 食品ロスの削減に資する容器包装の高機能化事例集より)
丸彦製菓のおかき煎。フィルムは品質を保つアルミ蒸着フィルムが使われている(農林水産省 食品ロスの削減に資する容器包装の高機能化事例集より)

日清シスコのココナッツサブレや、丸彦製菓のおかき煎で、個包装にすることで、流通段階での割れ防止や、品質劣化の防止、食品ロス削減などが実現できていることが紹介されている。食品メーカーが容器包装に使っているフィルムは、直射日光の影響をできるだけ防ぎ、中の食品が湿気ないようにするため、アルミ蒸着フィルムや三層構造のフィルムなど、品質を保つための特別な高機能性フィルムを使っている場合も多い。

日清シスコ株式会社の、容器包装改良による賞味期限延長の事例(農林水産省 食品ロスの削減に資する容器包装の高機能化事例集より)
日清シスコ株式会社の、容器包装改良による賞味期限延長の事例(農林水産省 食品ロスの削減に資する容器包装の高機能化事例集より)

かつて、菓子は不審者による異物混入の標的となった。個包装とは関係ないが、容器包装は、外から異物を入れられないという安全性を保つ意味でも必要な場合がある。また、世帯人数が平均2人強になり、日本在住者の平均年齢も上昇し、昔に比べて菓子の消費スピードが遅くなったことも、個包装化の背景として考えられる。

筆者は講演やテレビ番組の控え室へ行く機会があるが、そこでは、ブルボンや亀田製菓のような、個包装の菓子やキャンディーが置いてあることがある。出演者や登壇者が多い場所では、多くの人に別々に配ることができる個包装は便利だろう。ツイッターでは、「無菌病棟には個包装のしか持ち込めない。入院中、病院食を受け付けなかったとき、ブルボンや亀田製菓のお菓子にすごく助けられた。個包装はやめないでほしい」という、食品衛生上から必須という声もあった。

海外の事例を調べてみる

では、日本の外、海外ではどうだろうか。

海外の菓子を購入してみると、日本ほど、個包装はしていない。クッキーなども容器包装に全部入れて、湿気を防止する乾燥剤の小袋が入っている場合が多い。

だが、この背景には、日本ほど湿度が高くないことも考えられる。

デンマークのスーパーで販売されているクッキー。個包装ではなく、一括して入っている(筆者撮影)
デンマークのスーパーで販売されているクッキー。個包装ではなく、一括して入っている(筆者撮影)

筆者の勤めていた食品メーカーでも、同じ製造方法でも、日本の賞味期限は一年で、海外の賞味期限は一年半に設定しているというものがあった。これは、日本の高湿度を考慮してのことでもある(それだけではないが)。

容器重量だけでなく、開けやすさ・捨てやすさも考慮して消費者の使いやすさや食品ロス軽減

スウェーデン・カールスタッド大学のヘレンさんは、来日したこともある、容器包装から食品ロス削減を目指している研究者だ。

スウェーデン・カールスタッド大学の研究者、ヘレンさん(左)と筆者(スウェーデン大使館撮影)
スウェーデン・カールスタッド大学の研究者、ヘレンさん(左)と筆者(スウェーデン大使館撮影)

彼女は、最近もプラ容器がむしろ環境保全に貢献する場合もある趣旨の論文を発表していた。

来日したときに教えてくれたのが、ひき肉の容器包装と食品ロスの関係について、だった。

ひき肉の容器包装。左のような形態は重量が少なくて済むが、開封しにくく、処分しづらい(カールスタッド大学ヘレンさん提供)
ひき肉の容器包装。左のような形態は重量が少なくて済むが、開封しにくく、処分しづらい(カールスタッド大学ヘレンさん提供)

スウェーデンで使われている、食品トレーに入ったひき肉(上の写真、右側)。この容器包装の重量を減らすために、サラミソーセージのような容器包装にしたとする(上の写真、左側)。確かに、容器重量を比較すると、左のほうが圧倒的に少ない。しかし、開封後にひき肉を取ろうとすると、フィルムにへばりついてしまって、とれない。容器包装に残って食べられずに捨てられる食品ロスのグラム数が、むしろ右の容器包装より増えてしまう結果となった。

また、容器をリサイクルして処分する際も、フィルムにひき肉がくっついていると、消費者が洗うのが面倒。かつ、両端に金具がついているため、これもプラフィルムから切り取らなければならない。

結論としては、単純に容器包装の重量を減らすだけでなく、減らすことで起こるデメリットも考慮し、消費者がそれを使う際の開けやすさや、使った後の容器包装のリサイクルのしやすさなど、多面的に考えて商品設計をする必要がある、ということだった。

日本でも、ヨーグルトのふたにヨーグルトがくっついてしまい、それが食品ロスになるのを防ぐために、ふたのフィルムの構造を波状にし、ヨーグルトの付着を防止する取り組みが実施されている。下の図で「内容物の分離性」と書かれているのがそれにあたる。これなど、消費者は気づかないかもしれないが、メーカー努力で細かい配慮がなされている。

容器包装がはたす役割(農林水産省 食品ロスの削減に資する容器包装の高機能化事例集より)
容器包装がはたす役割(農林水産省 食品ロスの削減に資する容器包装の高機能化事例集より)

以上、個包装の利点や、国内と海外との違い、容器包装を削減した場合のデメリット、容器包装を考える上では、容器重量のみならず開封・処分のしやすさや内容物の分離性を考慮すべき点などを見てきた。個包装には鮮度保持や賞味期限延長、流通段階の割れ防止による食品ロス削減や、食の安全確保など、一定の効果があるといえる。ただ、包装のあり方についても、さまざまな意見に耳を傾け、意見を取り入れていく工夫をすることは大切だ。いろんな意見を反映していく方法を補足的に紹介したい。

「メタアナリシス」という考え方

研究の世界では「メタアナリシス(meta-analysis)」という考え方がある。一つの研究結果だけで断定するのではなく、複数の研究結果を俯瞰し、総合して判断する解析方法をいう。

たとえば、ある国の研究で「食物繊維は大腸がんの予防に効果がある」という結果が出たとする。別の国では「食物繊維は大腸がんの予防には効果がない」という結果が出ている。「効果があるともないともいえない」という結果も出ているとすると、それら複数の研究結果を総合的に判断するやり方だ。

現時点では、複数の研究結果を踏まえ、食物繊維は大腸がんの予防に効果があるとはいえない、という結論になっている。

食物繊維摂取と大腸がん罹患との関連について

研究者でなくても、この「メタアナリシス」の考え方は参考になる。

一つの側面から見るだけでなく、ほかの面からも、365度方向から見てみるという姿勢を持つということだ。

人事評価でも、直属上司の評価だけでなく、部下や他部署からの評価を受ける「365度評価」というやり方がある。

メーカー役と消費者役のロールプレイングも効果的

自分の視点からだけでなく、別の視点から眺めてみるのに役立つのが「ロールプレイング」だ。筆者は大学の非常勤講師を務めていたとき、学生をチームに分けてロールプレイングをやっていた。ロールプレイングでは、それぞれの人が、与えられた役割を演じる。

チームに分かれてのロールプレイングを準備する学生たち(石巻専修大学にて、筆者撮影)
チームに分かれてのロールプレイングを準備する学生たち(石巻専修大学にて、筆者撮影)

たとえばメーカーの営業マン役を2人にやってもらい、小売店のバイヤー役を1人にやってもらう。

メーカーPの営業マンは、容器包装のないクッキーを売る。容器包装がない分、値段は安く、値段は50円。

メーカーQの営業マンは、個包装の上にさらに容器包装があるクッキーを売る。値段は150円。

小売店のバイヤーは、自分の店のコンセプトに合わせて、PかQか、どちらか1点だけ選ぶ。

商品開発ワークショップの授業(石巻専修大学にて、筆者撮影)
商品開発ワークショップの授業(石巻専修大学にて、筆者撮影)

立場が変わると、見え方がまったく変わる。俯瞰してみることが大切だ。

商品開発ワークショップ(石巻専修大学にて、筆者撮影)
商品開発ワークショップ(石巻専修大学にて、筆者撮影)

若い世代とともに社会をよりよく変えていきたい

以上、今回の署名活動を見て、考えたこと、高校生に伝えたいことを挙げてみた。

冒頭に述べたように、環境問題に目を向け、身近なところから問題意識を持ち、社会への働きかけという行動に移す、その姿勢に感銘を受けている。これからも、より多様な視点を持ちながら、行動し続けてほしい。

関連情報

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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