全国のドラッグストアの店員さんに届け!欠品を責める消費者の方に非がある理由とは

(写真:アフロ)

2020年3月1日付のBuzz Feed JAPANに「コロナよりも怖いのは人間だった」。ドラッグストアの店員が語る恐怖の体験という記事が掲載された。

ドラッグストアの店員が、消費者から「(マスク)いつもないじゃない!」「病人がいていつも買えないのに、1個くらい取り置きしてよ!」などと罵倒され、疲弊しているという内容だった。

マスクばかりか、トイレットペーパーまで「無い」とのデマで買い占めが起きているが、在庫が十分にあることが3月1日付の静岡新聞で報道されている。ジャーナリストの佐々木俊尚氏も「この写真見て落ち着きましょう」とツイッターで呼びかけている。

この非常事態に、過剰なほど日用品や食品を買い占めたり、欠品するのは仕方ない状況にもかかわらず、物が置いていないことに対し、店員を罵倒したりする人がいる。

筆者がテーマとする「食品ロス」に関連することで「欠品NG」という商慣習がある。食品関連の小売業界が、消費者の「置いていない」という苦情や、購買機会ロス(売り上げ減)を気にして、絶対に欠品を起こさせないようメーカーに指示している。欠品すれば「取引停止」と言われることも多い。それを避けるために、メーカーは生産を過剰にせざるを得ない裏事情がある。そうはいっても、今回のような特殊事情があると、欠品は起こってしまう。

連日、苦情を言われるのはキツイ・・・

ドラッグストアの店員の方は、毎日、文句や苦情を言われて、つらいこととお察しする。

そのつらさとは比べものにもならないが、かつて筆者が食品メーカーに入社した後の5年間、広報・栄養業務に並行して、お客様対応業務を兼任していたことがある。お客さんから褒められることなんて、まず、年に数回しかない。毎日、苦情か問い合わせのみ。同じ顧客のご自宅に7回通い、毎回2~3時間、軟禁されたこともあったし、飛行機とタクシーで往復6時間以上かけて、苦情を言う顧客のご自宅まで飛んで行って、日帰りで帰ってきたこともあった。

そして、今回のように、自社商品が欠品してしまったこともあった。あるテレビ番組で「モデルがダイエットのために食べている」と紹介され、一部の消費者が大量に買い占めた。海外での製造が間に合わなくなり、急遽、別の国から空輸せざるを得なくなった。それでもすぐに空輸できるわけでもなく、連日、欠品への苦情が相次いだ。

中には「うちの娘は障害があって車椅子生活なので、あの製品がないと便秘になってしまう。本当に困っている」という、親御さんからの切実な訴えもあった。

今すぐ必要でない人が買い占める行為は、今どうしても必要な人に迷惑をかけるのだと、しみじみ感じた。

今回のドラッグストアの場合、電話だけでなく、直接言われるのだから、心労も大きいだろう。

なにしろ相手はお金を払う「お客様」だから、反論もできない。

ただ、ドラッグストアの店員の方には覚えておいて欲しい。

ない袖は振れないのに、無理難題を押し付けてくる消費者の方に非がある。

1982年に提唱された「消費者の8つの権利と5つの責務」

なぜか?

今回苦情を言っている消費者は、消費者の権利を主張しているわけだが、消費者には、権利だけでなく責任もあるからだ。

1982年、国際消費者機構(CI:Consumers International)という国際消費者団体が、消費者には権利だけでなく、同時に責務があるとして、「消費者の8つの権利と5つの責務」を提唱した。

そして、この「消費者の8つの権利と5つの責務」は、実は、中学校の家庭科で履修している。

消費者の5つの責務

消費者庁の公式サイトには、もちろん、この「消費者の8つの権利と5つの責務」が掲載されている。

都道府県が発行している消費者教育の教材にも、わかりやすく載っていた。

大阪府消費生活センターが平成16年度からインターネットを通じて提供しているものだ。第2回「消費者教育教材資料表彰」(行政編)ホームページ部門において”優秀賞”を受賞している、高校生からの消費者教育教材「ケーヤクにつけるクスリ」

この教材の「消費者と契約」の項には、次のように書いてある。

消費者の5つの責務

批判的意識 (Critical Awareness)

商品やサービスの用途、価格、質に対し、敏感で問題意識をもつ消費者になるという責任

自己主張と行動(Action)

自己主張し、公正な取引を得られるように行動する責任

社会的関心(Social Concern)

自らの消費生活が他者に与える影響、とりわけ弱者に及ぼす影響を自覚する責任

環境への自覚(Environmental Awareness)

自らの消費行動が環境に及ぼす影響を理解する責任

連帯(Solidarity)

消費者の利益を擁護し、促進するため、消費者として団結し、連帯する責任

出典:大阪府消費生活センター「ケーヤクにつけるクスリ」

自分の消費行動で他人、特に社会的弱者にどう影響を及ぼすかを考える責任がある

この中でも、筆者は、今回の場合、1つめの「批判的意識」、3つめの「社会的関心」、4つめの「環境への自覚」が必要で、中でも3つめが最も重要だと考える。

3つめの「社会的関心」にあるように、自分が商品を買うことで、他人にどういう影響を及ぼすか、特に社会的弱者にどういう影響を及ぼすかを考えて買わなければならない。自分だけが大量に物を買い占めてしまったら、他の人、特に買い物に行きづらい人たちにどういう影響を及ぼすかを考慮する責任が、消費者にはある。

また、4つめの「環境への自覚」にあるように、大量に物を消費すれば、環境へどういう影響を及ぼすか、考えて使わなければならない。

情報も俯瞰して判断すること

今回、コロナウイルス感染予防を巡って、様々な立場の人が情報を発信し、情報が錯綜した。

前述の「消費者の5つの責務」の1つめにある「批判的意識」は、情報に対する姿勢としても必要である。

1つの事柄に対して1つの情報だけでなく、いくつかの情報を俯瞰して、判断すること。メディアの情報もそうで、このような俯瞰して判断する姿勢は「メディアリテラシー」にも関係する。

メディアリテラシーとは

次の3つを構成要素とする、複合的な能力のこと。

メディアを主体的に読み解く能力。

メディアにアクセスし、活用する能力。

メディアを通じコミュニケーションする能力。特に、情報の読み手との相互作用的(インタラクティブ) コミュニケーション能力。

出典:総務省 放送分野におけるメディアリテラシー

スウェーデンやデンマークでは企業が消費者教育の責任を自覚している

筆者は、「消費者の8つの権利と5つの義務」が中学校の家庭科の教科書に書いてあることを、拙著(『賞味期限のウソ』)を執筆する過程で知った。今、改めて中学校の家庭科の教科書を読んでみると、消費生活や購買行動に役立つことがたくさん書いてある。たとえば「まとめ買いは食品ロスなど無駄になりやすい」ということも書いてある。

かと言って、消費者に「中学校の家庭科で習っただろう!」と叫んでもしょうがない。家庭科は受験科目ではないので、残念ながら、適当に流されてしまっているかもしれない。それに、かつて「家庭科」は男女必修科目ではなかった。男女必修になったのは、元号が平成になってからの話だ。だから、ある一定年齢以上の男性は、そもそも家庭科を履修していない。

2019年、スウェーデンやデンマークを取材してわかったことは、企業が「自分たちが消費者教育をする責務がある」と強く認識していることだった。学校教育で終わりではない。スウェーデンやデンマークでも、日本と同様に、賞味期限や消費期限の違いを理解していない消費者もいる。でも、それを仕方がないことと放置せずに、食品のパッケージにその違いや意味を刷り込むよう、政府や企業に働きかける活動家やNPOがいるし、企業自身も、その責任を自覚している。

デンマークの牛乳のパッケージ。食糧庁と企業の協力により、賞味期限を鵜呑みにせず、自身の五感を使って飲食可能かどうかを判断せよという趣旨が書いてある(デンマーク、Too Good To Go提供)
デンマークの牛乳のパッケージ。食糧庁と企業の協力により、賞味期限を鵜呑みにせず、自身の五感を使って飲食可能かどうかを判断せよという趣旨が書いてある(デンマーク、Too Good To Go提供)

消費者教育を行うのは企業だけではなく、行政も同様であろう。全国の自治体ごとに差はあるが、熱心な自治体では、消費者教育のための講座やセミナーを開催している。筆者も、これまで毎年、全国の講演会に呼んで頂いてきた。

SDGs(国連広報センターHP)
SDGs(国連広報センターHP)

SDGsの12番は「つくる責任 つかう責任」

SDGs(持続可能な開発目標)でも、消費者の責任に言及している。

17のゴールのうち、12番目のゴールは「つくる責任 つかう責任」だ。

SDGsの12番のゴール「つくる責任 つかう責任」(国連広報センターHP)
SDGsの12番のゴール「つくる責任 つかう責任」(国連広報センターHP)

千葉市長の熊谷俊人氏は、買い占め行動に対し、「一歩立ち止まって、もっと必要としている人を想像しよう」と呼びかけている。

日本の企業と行政は消費者教育を徹底すべき

今回のコロナウイルスによる買い占め騒ぎで、日本の一部の消費者が、いかに

消費者の責務

を果たしていない、稚拙な態度であるかが露呈した。

消費者だけでなく、企業や行政も、学校教育をはじめとした「消費者教育」を徹底する必要を認識すべきだろう。

いわゆるモンスタークレーマーがデフォルト(基準)ではない。それに合わせる必要などない。

赤ちゃんは、欲望のままに振る舞っても許されるが、いい歳をした大人が、自分の思うがまま、他人なんて知ったことではないという振る舞いをするものではない。

全国のドラッグストアの店員さんには、どうか、一部の自己中心的な消費者のために、精神の健康をむしばまれないでほしい。その人たちは、物理的には年齢を重ね、見かけ上は「大人」になっているかもしれないが、精神的には、自分のことしか考えられない、赤ちゃんのような未成熟な人たちなのだ。

参考情報

消費者庁 消費者教育について

文部科学省 消費者教育の推進について

消費者の基本的な権利と責任について理解を深める中学校技術・家庭科学習指導の工夫 ─ 中学生の消費行動の実態を踏まえた「家庭生活と消費」の授業設計 ─ 東広島市立松賀中学校 石本 有士氏

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン(株)青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。311食料支援で食料廃棄に憤りを覚え、誕生日を冠した(株)office3.11設立。日本初のフードバンクの広報を委託され、PRアワードグランプリソーシャルコミュニケーション部門最優秀賞へと導いた。『食品ロスをなくしたら1か月5,000円の得』『賞味期限のウソ』。食品ロス問題を全国的に注目されるレベルまで引き上げたとして2018年、第二回食生活ジャーナリスト大賞食文化部門受賞。Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018受賞

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気候変動が深刻化し、SDGs(持続可能な開発目標)が注目されていますが、対応に悩む企業も多いです。著者は企業広報に14年半、NPO広報に3年従事の後、執筆や講演を通して食品ロス問題を全国に広め、数々の賞を受賞しました。SDGsが掲げる17目標のうち、貧困や飢餓、水・衛生、生産・消費など、多くの課題に関わる食品ロスの視点から、国内外の事例を紹介し、コスト削減や働き方改革も見据え、何から取り組むべきか考えます。

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