「食卓から消える?」問われる報道姿勢 かえって買い占めを煽るのでは?

(写真:アフロ)

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で、「輸入バナナ食卓から消える? 比で輸出減少エクアドルも」という記事が報じられた(2020年5月3日付 日本農業新聞)。報じたのは日本農業新聞なので、一般向けではなく、主要購読者である農業関係者に知らせるための記事だと思う。これがYahoo!トピックスに掲載された(2020年5月3日午前11時現在)。「バナナが食卓から消える」可能性を一般の人たちが知れば、普段よりも、バナナを買おうとする行動につながるのではないだろうか。

ジャーナリストは「ゴールデンウィークあたりに品薄」を予測していた

バナナが品薄になる可能性について、農と食のジャーナリストである山本謙治さんは、関係者への取材に基づき、4月6日付のBLOGOS(ブロゴス)の記事で予測していた。山本さんの記事は、バナナだけにフォーカス(焦点)をあてたものではなく、広く全般的な食のことについて書かれている。

世界各国の産地から船便で届く、一般的な青果物はどうか。これも、産地国の新型コロナの状況によって不透明感が増している。船便の場合はアジアであれば直近では、フィリピンで外出禁止令が発令されたことで出荷作業に遅滞が発生。多くの家庭で朝食に並ぶバナナの入荷が不確実になり、ゴールデンウィークあたりで顕著に品薄になるのではないかと言われている。

出典:「コメは不足しない。買い占めないで」は本当か~新型コロナが食卓に与える影響~ - 山本謙治(農と食のジャーナリスト)

4月ごろからバナナの価格上昇、売り切れ発生

確かに、4月ごろから、近所のスーパーで、バナナの価格が以前よりも上がってきていた。夕方の時間帯に買い物に行くと、普段なら売り切れなどなかったはずのバナナが売り切れていることもあった。フィリピンには以前住んでいたこともあり、外出制限のことも知っていたので、前述の山本さんの記事は本当なのだろうな、と、肌で感じていた。

ただ、バナナの値段が上がってきていて品薄になってきていることを、あえて注目される見出しにあげて記事で知らせる必要はないし、それはかえって一つの品目に注目を集め、買い占めを煽ることにもなりかねないと考えた。

4月後半に全国紙から取材があった時も、「スーパーで品薄になってきているものがある」と話したが、最初から「バナナ」と特定しないようにした。全国紙の記事になればバナナの購買を煽ることになると思ったからだ。

フィリピンの果物店で軒先からつるされて売られるバナナ(筆者撮影)
フィリピンの果物店で軒先からつるされて売られるバナナ(筆者撮影)

フィリピンから日本に輸出されるバナナは40%減少の見込み

2020年4月19日付のグローバルニュースアジアは、フィリピンから日本へ輸出されるバナナは、2019年の400万トンから2020年は240万トンへと、40%減少の見込みであることを報じている。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策を受け、現地のバナナ農園や出荷梱包作業場の作業が止まってしまったことが要因である。

新型コロナに限らず世界の輸出バナナの半分が捨てられている現状

Barnana(バーナナ)社の共同創業者、Matt Clifford(マット・クリフォード)氏は、「毎年1,500億本のバナナが輸出用として生産されるが、そのうちの半分にあたる750億本が廃棄されている」と語っている。

シュガースポット(茶色い斑点)で捨てなくていい

廃棄の要因は様々だが、その一つが「シュガースポット」だ。バナナが熟してくると、皮に現れる茶色い斑点のこと。見かけが悪いため、スーパーなどでは処分の対象となる。だが、実際は、糖度が増して甘くなり、ポリフェノールという抗酸化物質なども増加している。

シュガースポット出現のために、スーパーでは多くのバナナが処分されているが、販売側でこれを捨てないようにすれば、バナナの廃棄が減る。

黒くなっているため捨てられるフィリピンのバナナ(アジア太平洋資料センター提供)
黒くなっているため捨てられるフィリピンのバナナ(アジア太平洋資料センター提供)

バナナの生産地では農薬散布により皮膚や目の異常に苦しむ人

現在、日本へのバナナの輸入元として大きく依存しているフィリピン。バナナの生産地では、大手企業と契約した農民たちが、農薬の空中散布により、皮膚や目に異常をきたしている現状がある。

ドキュメンタリー映画『甘いバナナの苦い現実』(アジア太平洋資料センター制作)には、フィリピンのバナナ生産地と、大手企業との不公正な契約の現状が描かれている。

フィリピンでは1970年代以前から日本への輸出バナナが廃棄されていた

1982年に出版され、61刷を重ねている名著、『バナナと日本人』(鶴見良行著、岩波新書)には、豊かになってきた日本人がバナナを食べなくなる一方、フィリピンのバナナ生産量が増えたため、その帳尻を合わせるため、バナナを大量に廃棄したことが書かれている。

キャンセル料を覚悟した輸入業者の要請で、生産地では、1978年に35万トン、79年に6万トンが廃棄処分になった。

これだけ大量のバナナが、こま切れになって捨てられたのである。企業は、ヤミで日本に流れて市況を圧迫しないよう、これを切って捨てた。まことに大きな社会的浪費、無駄だった。もっとも、無駄は早くからあった。もともと企業は、日本の不需要期には納品検査を厳しくして、多いときは五割もはねていたから、その分は、捨てられていたのである。

出典:『バナナと日本人』(鶴見良行著、岩波新書)
フィリピン・ミンダナオ島のダバオ郊外で廃棄バナナを切り刻む女性。アジア太平洋資料センター(PARC)提供
フィリピン・ミンダナオ島のダバオ郊外で廃棄バナナを切り刻む女性。アジア太平洋資料センター(PARC)提供

新型コロナ:食の品薄で問われる報道姿勢

もともとは対象者を絞った報道だったものを広く一般に知らせる時には、その必要性を吟味すべきではないだろうか。

今回、バナナという一品目を特定し、短期的に「食卓から消える」可能性があることを、広く一般人に向けて報道する必要があったのか。

それより、シュガースポット(茶色い斑点)が出たバナナは甘味や成分が向上しているので廃棄処分しないでいいことや、世界の輸出バナナ1500億本の半分が捨てられている現状、バナナの生産地の労働者が農薬散布で健康被害に苦しんでいる現実こそ、知らせるべきではないか。

食品自給率37%の日本の食は海外に大きく依存しており、新型コロナの影響で世界各国の農産物が輸出できなくなれば、バナナに限らず、輸入できる食料は少なくなるのだ。この危うい現状こそ、一般の人が危機感を持って知るべきだと考える。

関連情報

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン(株)青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。311食料支援で食料廃棄に憤りを覚え、誕生日を冠した(株)office3.11設立。日本初のフードバンクの広報を委託され、PRアワードグランプリソーシャルコミュニケーション部門最優秀賞へと導いた。『食品ロスをなくしたら1か月5,000円の得』『賞味期限のウソ』。食品ロス問題を全国的に注目されるレベルまで引き上げたとして2018年、第二回食生活ジャーナリスト大賞食文化部門受賞。Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018受賞

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気候変動が深刻化し、SDGs(持続可能な開発目標)が注目されていますが、対応に悩む企業も多いです。著者は企業広報に14年半、NPO広報に3年従事の後、執筆や講演を通して食品ロス問題を全国に広め、数々の賞を受賞しました。SDGsが掲げる17目標のうち、貧困や飢餓、水・衛生、生産・消費など、多くの課題に関わる食品ロスの視点から、国内外の事例を紹介し、コスト削減や働き方改革も見据え、何から取り組むべきか考えます。

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