【4月12日パンの日】毎日150個捨てる店も・・食品ロスゼロ・売上大幅増を実現したパン屋の秘策とは?

(GYRO PHOTOGRAPHY/アフロ)

4月12日はパンの日。1842(天保13)年4月12日、江川太郎左衛門という代官が、「兵糧パン」と呼ばれるパンを日本で初めて本格的に製造した。これを記念し、4月12日はパンの日と制定された。

パンは売れ残りの廃棄が多い

食品ロスが社会的課題となる昨今。パンは、売れ残りによる廃棄の多い食品の一つと言える。業態を問わず、その傾向がある。コンビニでもスーパーでも、レストランのビュッフェでも、パンメーカー(製造業)でも、パン専門店でも、廃棄が出ている。

農林水産省食料産業局が2015年12月4日に発表した時点では、パンのメーカー余剰生産率が0.4%。納豆の0.05%や牛乳・乳製品の0.07%と比較しても高く、豆腐(0.4%)並みだ。

スーパーの店頭での廃棄率を見ても、牛乳(0.24%)、ヨーグルト(0.38%)、納豆(0.5%)よりも、パン(0.61%)は高い。

日販品・デイリー食品と呼ばれる食品のメーカー・店頭での廃棄率(農林水産省食料産業局の発表資料より筆者作成)
日販品・デイリー食品と呼ばれる食品のメーカー・店頭での廃棄率(農林水産省食料産業局の発表資料より筆者作成)

パン店でアルバイトしている女子大生のアンケート(株式会社レスポンのリアルタイムアンケートシステム利用)でも、次のような意見が聞かれた。

「パンを毎日100~150個くらい捨てています」

「パンをゴミ袋10袋くらい」

「パン食べ放題を行なっている店のため、少ない日で20個、多い日で80個くらいのパンを捨てています」

「パン。数えきれないくらい毎日、売れ残ったパンやバーガーを捨てました。毎日2袋は必ず捨ててます。デザートに使う果物や生クリームも」

「パン屋でアルバイトしているため、大きなゴミ袋2袋以上は捨てています」

出典:パン専門店でアルバイトしている女子大生のコメント

どうすれば、パンの食品ロスと廃棄が減るのだろうか。

ここでは店舗でパンを売る専門店に特化し、取材を通して知った具体的な方策を3つ提案したい。

1、完全予約制にする

「完全予約制にする」。と言った瞬間、「あー、無理無理・・・」という声が聞こえてきそうだ。

大手コンビニのファミリーマートは、おせち料理や大きなサイズのクリスマスケーキを完全予約制にする方針を打ち出した。大手3社の中で初めてだ。2019年4月11日付の毎日新聞や、2019年4月10日付の時事通信が報じている。完全予約制に移行するのは、世間からの目が厳しい「食品ロス」を減らす姿勢を意識したものだろう。

埼玉県川口市に、完全予約制のパン屋にして、販売金額を格段にアップさせ、食品ロスもほぼゼロにしたパン屋がある。

父親の代から地元商店街(川口銀座商店街:通称「樹(じゅ)モール」)に根付いたパン屋「ボングー」を営んできた坂巻達也さん。

父の他界後、個人商店を閉め、地元のレストランや老人ホーム、保育園など、法人向けの営業に特化した。

坂巻達也さん(筆者撮影)
坂巻達也さん(筆者撮影)

消費者向けには、2015年から定期的にパン教室を開催するようになった。その流れで、一般消費者向けに「完全予約制」のパンの販売を始めた。

パン教室に参加した人に予約チラシを渡すと、快く買ってくれるようになった。パン教室の顧客が、そのまま、完全予約制のパン屋の顧客になる。毎日でなく、限定販売だから、一人当たりのお客さまが買ってくれる平均客単価も2,000円以上と格段に上がった。完全予約制だから、売れ残ることはない。雨が降っても、お客さんはちゃんと取りに来てくれる。エレベーターのないビルの4階という不利な立地だ。が、ビルの1階の路面で一日中かけて大量の種類のパンを売っていた時よりずっと多く売れ、ロスが無い。

坂巻さんと宗高さんが用意したパンは、このあと、全部売り切れた(筆者撮影)
坂巻さんと宗高さんが用意したパンは、このあと、全部売り切れた(筆者撮影)

坂巻さんは、元発酵食品メーカー社員の宗高美恵子さんと二人でパンを作って売り、半日で10万円程度を売っている。人員が少ないから労働生産性もいい。

二人は、栄養価の高い「おから」を活用し、小麦粉を一切使わないで作るしっとりしたケーキ「オカラーヌ」を3年かけて開発した。もともとは、坂巻さんの孫が小麦アレルギーだったことがきっかけだ。製造方法や原材料に試行錯誤を重ね、現在では、テレビで評判になった四国のさとの雪株式会社のおからパウダーを使うようになった。株式会社Ocalan(オカラン)と名付けた新たな会社も立ち上げ、通信販売も行なっている。

坂巻さんは、「若い頃にこのことがわかっていたら、もっと大規模にこの仕組みを進めていた」と語る。

いきなり完全予約制を始めるよりは、実績のあるパン屋が予約制販売へ移行する方がいい、というのが、坂巻さんの意見だ。

2018年末にも、坂巻さんの店で修行して独立したあるパン屋に、食事がてら、完全予約制のメリットを熱く語ったところ、2019年の年が開けたら、その店も、予約制販売を始めていたそうだ。

参考記事:

4月12日はパンの日 「捨てないパン屋」2人で半日で10万円以上の売り上げ、食品ロスゼロ

おからと豆乳が主原料、小麦粉を使わない「オカラーヌ」(株式会社Ocalan提供)
おからと豆乳が主原料、小麦粉を使わない「オカラーヌ」(株式会社Ocalan提供)

2、パンの種類を徹底的に絞り、一部完全予約制にする

拙著『賞味期限のウソ 食品ロスはなぜ生まれるのか』でご紹介し、朝日新聞にご紹介したところ、「捨てないパン屋」として何度も記事として掲載されたのが、広島市のブーランジェリー・ドリアンだ。

広島市のブーランジェリー・ドリアン(ブーランジェリー・ドリアン提供)
広島市のブーランジェリー・ドリアン(ブーランジェリー・ドリアン提供)

田村陽至(ようじ)さんは、三代目。お祖父さまの代からパン屋を営んできた。

途中で借金を背負った。8人が働き、毎日、売れ残りを捨てる。

田村さんは、モンゴル人の友人に「捨てるのはおかしい。安売りするか、人にあげるかしたら」と言われた。

当初は否定したが、どう考えても友人が正しいと考えた。

その後、ヨーロッパ各国でのパン修行を経て、朝から昼までの半日働き、ラクにパンを作り、しかも美味しく、1個も捨てないスタイルに共感した。帰国し、そのやり方に変えた。働くのは田村さんと奥さんの芙美さんの二人だけ。2015年秋から、パンを1個も捨てていない。休みは増え、年商2500万円をキープしている。

田村さんは、以前は何十種類も作っていたパンを、現在ではハードタイプのみの4種類に絞っている。思い切ってパンの種類を絞ることにより、一つ一つのパンに手をかけられるようになった。良質な国産小麦を直接、農家さんから購入している。

店頭では週3日、午後のみの販売。店頭での予約販売や、通信販売での定期販売も行なっている。

田村さん夫妻の経営は、書籍『捨てないパン屋』(清流出版)に詳しく書かれている。

参考記事:

捨てない・働かない・旅するパン屋は愛溢れる自然体 夫婦で年商2500万円 薪の石釜で焼く国産小麦パン

ブーランジェリードリアンの田村陽至(ようじ)さんと奥さんの芙美さん(筆者撮影)
ブーランジェリードリアンの田村陽至(ようじ)さんと奥さんの芙美さん(筆者撮影)

3、作ったものを最後まで食べる循環システムを作る

栃木県那須塩原市のパン・アキモトは、小売店舗を持ちながらパンの缶詰を製造・販売し、賞味期限が残り一年となったパンの缶詰を定期的に寄付する救缶鳥(きゅうかんちょう)プロジェクトを実施している。

環境大臣の賞を受賞した記念講演で登壇する、株式会社パン・アキモトの代表取締役、秋元義彦さん(筆者撮影)
環境大臣の賞を受賞した記念講演で登壇する、株式会社パン・アキモトの代表取締役、秋元義彦さん(筆者撮影)

備蓄食品の廃棄が社会的課題となる中、パン・アキモトの仕組みは、ビジネスと社会貢献が一体となった「入れたら出す」仕組みだ。

パンの缶詰を作るきっかけとなったのが、1995年に発生した阪神淡路大震災だ。

当時、パンを被災地に寄付したものの、食べられることなくだめになってしまったものがあったことに、代表の秋元義彦さんはショックを受けた。

それから失敗を繰り返しながらも、被災地の要望に応えようと、長年かけて開発したのが、37ヶ月の賞味期間を持つパンの缶詰だ。

救缶鳥プロジェクトは、環境大臣の賞など数々を受賞している。

パン・アキモトの詳しい経緯や経営については、書籍『小さなパン屋が社会を変える 世界にはばたくパンの缶詰』(ウェッジ、菅聖子著)や、『世界を救うパンの缶詰』(ほるぷ出版、菅聖子著、絵:やましたこうへい)に詳しく書かれている。

パン・アキモトのパンの缶詰は製造から2年以上経ってもフワフワのママ(パン・アキモト提供)
パン・アキモトのパンの缶詰は製造から2年以上経ってもフワフワのママ(パン・アキモト提供)

受注生産でなく見込生産が食品ロスを生む

食品ロス削減に向けて、農林水産省や食品業界と具体的な検討策を毎年議論している流通経済研究所は、2018年11月7日、「今後の日配品(パン)の食品ロス削減の検討の 方向性についての事務局提案」を出した。

この中で「受注生産でなく、見込生産などに起因する食品ロス発生」が、これまでの検討で明らかになった、としている。

2019年4月9日付の食品産業新聞は、流通経済研究所とパンメーカーなどの検討結果について、「食品ロス削減で商習慣検討WG活動報告、日配品はパンを対象に検討、予測生産から受注生産へ/流通経済研究所」と報じている。

必要な量だけ作るのは、ロスをなくす大きな手立てだと言える。

元気寿司も京都の佰食屋も・・・飲食業界でも必要なだけ作る方向転換で食品ロス削減

回転寿司の元気寿司は、「回さない回転寿司」の店舗にして売り上げが1.5倍に伸び、食品ロスが減った、と、2017年5月付の朝日新聞が報じた。

回転寿司では、何回転かしたら捨てる。誰が食べるかわからないまま回転させていると、ネタも乾いてくる。

元気寿司は、思い切って、客が頼んだらレーンで運ぶ形式に転換していった。

一日100食限定、京都市内で3種類の店舗を展開する佰食屋もそうだ。思い切って提供数を100食に制限し、食品ロスをほぼゼロにした。どの店舗もメニューは3種類のみ。冷凍庫を持たない。ランチ営業のみなので、働く側は、早朝や夜間の出勤が要らない。ひとり親も、介護や育児中の人も、障害のある人も、皆、働くことができている。

のべつまくなしに作り、売り続けて全部売れた時代も、昭和の高度経済成長期にはあったのだろう。

が、過去の栄光の時代は終わった。今は、もうそうではない。

思い切って「減らす」ことができるかどうかが持続可能性のカギ

パン専門店で、従業員の休みを確保しながら売り上げを伸ばし、食品ロスを減らすことができている、いくつかの店。

全国的にはまだまだ少ないかもしれないが、働き方改革の流れで働く人や時間にも制限がある昨今、予約販売や種類を絞るやり方は、きっと、参考になるはずだ。試験的に、部分的に始めてみるのもよいと思う。

予約制のパン屋は、全国的に見ても少ないだろう。われわれ消費者が今すぐできることとして、「パンを予約して買う」という購買行動を起こすのも一つだ。筆者が毎週サンドウィッチ用のバゲットを買う店では、必要最小限しかバゲットを焼かない。確実に手に入れるため、毎回、予約して購入している。閉店間際に行くと、棚はほとんど空っぽだ。大量廃棄していないパン屋かどうかを知るには、閉店間際に大量のパンを売れ残していないかどうかもチェックポイントだ。

「やめる」のは勇気が要る。でも、手放すことで、新たなものを得ることができる。