「9・9・9」(スリーナイン)に始めた 9(救)缶鳥プロジェクト

救缶鳥プロジェクトのパン寄贈に喜ぶフィリピンの子ども(写真:パン・アキモト提供)

9月は防災月間。9月1日の防災の日の記事で、賞味期限の接近した備蓄食が大量廃棄となっている問題を指摘した。それを無駄にせずに備蓄食&活用する循環システムごと販売するパン・アキモトの備蓄活用事例を探る。

備蓄は不可欠の災害大国日本で毎年大量廃棄になる備蓄食品

毎日新聞の調査によれば、全国47都道府県と20政令都市にアンケートしたところ、県として備蓄していない神奈川・青森など5県を除く62自治体のうち、3割近い17自治体が、賞味期限を迎える備蓄食品の引き取り手を見つけられず、廃棄処分していたことが判明している。2016年3月25日の毎日新聞の報道によれば、過去5年間の総廃棄量は、全備蓄量の4分の1にあたる176万3,600食にものぼっている。しかも、これら備蓄食の廃棄や、畑で廃棄となる大量生産・規格外の農産物は、日本の食品ロスの統計値には含まれていない。

<参考記事>

防災食「入れたら出す」仕組みで無駄なく活用

備蓄の無駄をなくす事例(1)行政の備蓄ゼロに

自治体の中には、行政がすべて備蓄するという想定ではなく、各家庭に備蓄を促すことに力を入れているところもある。山形県寒河江市は、賞味期限切れなどによる廃棄費用がかさむこともあり、各家庭に備蓄を促すことに力を入れているという(山形新聞 東京地方版 2017年8月31日付 25面「家庭で食料備蓄」主流に 民間と協定、行政保管ゼロも)。山形新聞の記事によれば、白鷹町は「町の備蓄目標がない」。金山町は「大半の農家で自前の米を持つ」。鶴岡市は、「行政による自前の保管備蓄はゼロ」。上山市は「食料小売店”コストコ”の運営会社と(災害)協定を結んでいる」、三川町は町内で大型店を運営する「イオンリテールと(災害)協定を結んでいる」という。

無駄をなくす事例(2)地元企業と災害協定を締結

地元で事業を展開する企業と災害協定を締結するケースは他にもある。千葉県銚子署と銚子市春日町の廃棄物処理会社「ガラスリソーシング」は、2017年8月29日、災害時の支援協定を結んだ。地震や津波などの自然災害が発生した際、同社が備蓄物資を提供するなどして協力するという(2017年8月30日付読売新聞東京版朝刊29面 災害支援で銚子署と廃棄物処理会社協定)。

無駄をなくす事例(3)普段食べる食品を防災備蓄に

江崎グリコの子会社グリコチャネルクリエイト(大阪市北区)が展開する、オフィスの置き菓子「オフィスグリコ」は、防災備蓄の役割も担うことができるとして注目されている(2017年7月31日付 日刊工業新聞5面 次世代ビジネス・防災 グリコチャネルクリエイトー「置き菓子を防災備蓄に」)。1998年に試験的にスタートしたこの事業は、当初、苦労も多かったそうだが、2011年の東日本大震災ではオフィスグリコが通常通り補充に来たことで、防災備蓄としての可能性が見出されたという。

2009年9月9日から「救缶鳥(きゅうかんちょう)プロジェクト」をスタートしたパン・アキモト

栃木県でパンの缶詰製造・販売を展開する株式会社パン・アキモトは、2009年9月9日から「救缶鳥(きゅうかんちょう)プロジェクト」を開始した。賞味期限37ヶ月の備蓄用パンの缶詰を購入した顧客のうち、再購入を希望する顧客に対しては、賞味期限の残り一定期間で保管していたものを引き取り、世界の飢餓地域に届け、賞味期限の迫った備蓄食料を無駄にせず活用する、というプロジェクトである。

パン・アキモト 「救缶鳥プロジェクト」

パン・アキモトが2009年9月9日から展開する救缶鳥プロジェクト(写真:パン・アキモト提供)
パン・アキモトが2009年9月9日から展開する救缶鳥プロジェクト(写真:パン・アキモト提供)

代表取締役の秋元義彦さんは、東京都内の大学を卒業後、バングラデシュやネパール、インドなどを廻り、日本との違いを目の当たりにした。世界を広く見てみると、今日死んでしまう子がいる。まだ食べられるものを捨てるのはもったいないし、なぜ捨てなきゃいけないのだろう?と疑問に思った。

途上国の子どもと談笑する代表取締役の秋元義彦さん(写真:パン・アキモト提供)
途上国の子どもと談笑する代表取締役の秋元義彦さん(写真:パン・アキモト提供)

きっかけとなったのは、1995年1月17日に発生した阪神大震災。トラックで被災地にパンを届けた。「これならできる」と思った。以来、「パン・アキモトにできることをやる」と決意した。世の中には様々なボランティアもあるが、ビジネスセンスを持って取り組んでいかないと途中挫折のリスクも出てきて、「予算が終わると活動も終わる」ことになってしまい、サステナブル(持続可能)な活動になっていかないと、義彦さんは語る。

パン屋は「余って当然」「売れ残るのが当たり前の商売」とも言われる。実際、筆者が東京のフードバンクに広報責任者として勤めていたとき、東京のデパ地下で事業を展開するパン屋から相談を受けたことがある。百貨店の指示で、閉店間際にも、何種類ものパンをたくさん用意しておかねばならず、「百貨店のイメージが崩れるから」という理由で値引き販売もできないという。泣く泣く、毎日、たくさんのパンを捨てざるを得ない・・・との相談だった。

救缶鳥プロジェクトのパンを喜ぶネパールの女の子(写真:パン・アキモト提供)
救缶鳥プロジェクトのパンを喜ぶネパールの女の子(写真:パン・アキモト提供)

義彦さんは、「パン屋の常識が変わってくるのではないか」「残ったものは、必要な人に還元する、といったように」と話す。パン・アキモトは、地元の生麺屋さんと一緒に、栃木県の地元の子ども食堂に、残ったパンを提供しているという。また、パン・アキモトの店舗「きらむぎ」で、3の付く日に食パン類などの対象商品を買うと、代金の3.3%を、東日本大震災の被災地や世界の飢餓地域に自社の収益から寄付をする「パンの耳(3.3)プロジェクト」も展開している。

救缶鳥プロジェクトのパンの缶詰を喜ぶ南三陸の子どもたち(写真:パン・アキモト提供)
救缶鳥プロジェクトのパンの缶詰を喜ぶ南三陸の子どもたち(写真:パン・アキモト提供)

義彦さんは「宿命・運命・使命」の3つについて語る。必要となった事態では「パン・アキモトにできることをやる」。2016年4月の熊本地震の際も、2017年7月5日に発生した九州大雨災害の際も、被災地のニーズをタイムリーにつかんで迅速に現地入りし、パンの缶詰を提供している。

パン・アキモトの、再購入する顧客から保管備蓄食品を回収し、寄付するシステムを構築することのメリットを3つ挙げてみる。

1) リピート買いに繋がる

事業者にとって、新規顧客獲得の困難さとそれに要するコスト高は言わずもがなである。既存顧客に繰り返し購入してもらうことこそ、商売の安定に繋がる。

2)既存の輸送ルートを活用することで低コストで寄付できる

パンの缶詰を世界の飢餓地域に寄付する際、NGOの日本国際飢餓対策機構を通じての支援や、大手パルプ会社の既存のルートを活用して年に2回、アフリカからチップを運んでいるその帰り便(日本→アフリカ)に、パンの缶詰を20,000缶載せてもらう。

ウガンダの子どもたち(写真:パン・アキモト提供)
ウガンダの子どもたち(写真:パン・アキモト提供)

3)モノだけでなくシステムごと販売している

大量生産・大量消費の時代には、どんどん作ってどんどん売り、あとで捨てようが何しようが構わない、といった風潮があった。まだ、今ほど環境負荷を軽減することの重要性や企業責任も問われていなかった。ただ、今はもう違う。売るだけ売って、「はいさようなら」の企業は、エゴの姿勢を非難される。イギリスのスーパーマーケットでは「買い過ぎていないか」と顧客に諭すような趣旨のポスターを貼るようになった。東日本大震災以来、「倫理的(エシカル)消費」が注目され、同じお金を払うのなら社会的に意義のある商品やサービスを購入しようという機運が高まってきた。加えて、2015年秋の国連サミットではSDGs(持続可能な開発目標)が定まり、「2030年までに世界の食料廃棄を半減する」という、食品ロス削減の数値目標も定まった。インバウンドでも、来日する訪日客に対し、モノを売るだけでなく、寿司を握る、食品サンプルを作る、などの体験を売る「コト消費」が注目されている。まさにパン・アキモトは、モノだけではない、寄付と購買の循環システムを販売している。

BtoBの備蓄食品製造業者や、BtoCの食品メーカーも、特に法人相手の備蓄食品の商談では、数量が膨大なだけに、買ったあとのことも考えて提案しないと相手になかなか承諾してもらえない、という話も複数の当事者から聞いた。

提言:備蓄食品+賞味期限接近時の活用方法およびシステムをセットにした販売・購入

備蓄食品を販売・購入する際は、ただ買っておしまい、売っておしまいではなく、その先の賞味期限が近づいてきたときの活用方法や活用システムも含めて販売・購入することを提言したい。併せて、冒頭で紹介したように、行政に依存するのでなく、各家庭での備蓄を進めること、行政が地元企業と災害協定を締結すること、通常食べる食品を備蓄代わりにすること、など、備蓄食品を無駄に廃棄しない取り組みを進めていきたい。