捨てない・働かない・旅するパン屋は愛溢れる自然体 夫婦で年商2500万円 薪の石釜で焼く国産小麦パン

完売!「ブーランジェリー・ドリアン」田村陽至(ようじ)さんと芙美さん(筆者撮影)

2015年、Facebook(フェイスブック)で目にした投稿があった。広島のパン屋、ブーランジェリー・ドリアンの田村陽至(ようじ)さんが書いた「捨てないパン屋」と題したブログの文章だった。何百人もの共感が集まっていた。それだけ、パンは「捨てる」イメージがあるのだろう。

ドリアンのパン(ブーランジェリー・ドリアン公式サイトより)
ドリアンのパン(ブーランジェリー・ドリアン公式サイトより)

かつて田村さんは、モンゴル人の友人に「パンを捨てるのはおかしい。誰かにあげるか、安く売るかすれば」と言われ、「それはできない」と答えたそうだ。でも、彼女の方が正しい、と思った。その後、フランスやオーストリアでパン作りの修業をし、ほどほどの時間働いて美味しいパンを焼き、1個もパンを捨てない、ヨーロッパのパン屋の働き方を知った。帰国してから、その働き方に変えてみた。8人で働いていたが、今は、夫婦二人。朝から昼まで田村さんが焼き、昼から夕方まで奥さんが接客。以前、借金を背負っていたパン屋は年商2500万円。たくさんの人で働いていた時と売り上げは変わらず、休みは増えた。2015年秋からパンを1個も捨てていない。

2016年、筆者が上梓した著書『賞味期限のウソ 食品ロスはなぜ生まれるのか』で、ブーランジェリー・ドリアンのことを紹介させて頂いた。2017年には朝日新聞の記者にご紹介し、全国紙の取材記事にして頂いた。自分が話す全国での講演でも毎回紹介し、記事でも書いてきた。でも、これだけ紹介しておきながら、実は一度も店に行ったことがなかった。2018年夏、出張の時に行ったら、2ヶ月間の長い夏休みだった。2015年から5年越しでようやく念願叶って、このたび訪問することができた。田村さんの奥様の芙美(ふみ)さんや、インターンに来ていたカナエさんにもお話を伺うことができた。この記事では田村陽至さんのインタビュー内容をご紹介する。

入り口で迎えてくれる。田村陽至さんはパン屋さんの三代目(筆者撮影)
入り口で迎えてくれる。田村陽至さんはパン屋さんの三代目(筆者撮影)

ヨーロッパのパン屋は捨てない クラシック音楽、古典・・・古いものは古くならない

田村陽至さん(以下、田村):前に1年間、ヨーロッパに行って。その前に、ひと月だけ、研修に行っているんです。

―(筆者)フランスのですよね、村の。

田村:その村のパン屋さんは、本当に、1つも捨てていなかったです。今日見てもらったパンの、倍ぐらいは焼いているかな。ヨーロッパって、パンの価格が(日本の)4分の1ぐらいなんです。だから(日本の)4倍ぐらい焼かないと生活していけないんで。それなのに、1つも捨てていなくて。でも日本だと、パン屋は「捨てずにやっていけるはずない」というモデルなんです。

―そうですよね。

田村:(日本だと)少ないと成り立たないじゃん、という感じなんだけれども、そういうのを目の当たりに見せられたんで、(日本でも)できるんだ、と変わったのはその時です。

―2008年でしたっけ?

田村:はい。その時、そこの村に長く行って勉強したいな、とは思っていたんです。

―それで、2011年の時に、1年間。

田村:そうです。その村のパン屋さんに1年行く、ということで行ったんですけれども、行けなかったので、結果的には(他にも)いろいろ見られてよかったです。

取材当日は雪だったが、小さな店には次から次へとお客さんがやって来て、途切れなかった。中にはヨーロッパの方も(筆者撮影)
取材当日は雪だったが、小さな店には次から次へとお客さんがやって来て、途切れなかった。中にはヨーロッパの方も(筆者撮影)

ヨーロッパの持続可能な働き方

田村:エネルギー問題的にも、ヨーロッパのパン屋さんは進んでいて。ブルターニュは、フランスの北、左上ですね。ノルマンディーのパン屋さんは、風力と太陽光だけでミキサーも回すし、石うすも回しているし。完全にオフグリッドでやっているんです。日本だと、ミキサー回したり、ああいう大きい機械を回す業務用の低圧電力は、なぜか「太陽光とかではできません」という指導なんです。

―なんでだろう?

田村:同じ電気なので、できないことはないんですけれども。向こうの人は、これぐらいの(小さな)部屋いっぱいにバッテリーが積まれていて。すごくうれしそうに見せてくれて。ここで電気をやっている(作っている)わけよ、みたいな。

日本にいたら、いろいろやろうと思うけれどもできないと思うことが、ヨーロッパだと、いとも簡単にやっているというのがどこに行っても(感じられて)。田舎の村の家に行くと、北海道ぐらいの寒い、ブドウも育たないような気候なのに、冬でも昼間の日光をうまく循環させて床暖房をやるとか。「この技術はすごいですね」と言ったら「でも、これ、もともとは日本の技術ですよ」って。全部なんです。技術は日本なのに、使っているのはヨーロッパ。

大学生の時にスイスのパン屋に見学に行った時があって、そのパン屋さんはガスの窯だったんですけれども、窯1機で、パン屋さんの隣にある老人ホームの冷暖房をまかなっていると言っていたんです。コンプレッサーで、熱が出ると、コンプレッサーで熱くも冷たくもできるんだみたいな説明で「すげえ」と思っていたら、それも「日本の岡山の会社やで」みたいな。

―そうなんだ。

田村:でも、日本に帰ったら見つからないんです。すごく探したんですけれども、見つからないんです。日本は、本当に、ものは持っているんです。全てそろっているのに、利用できないんです。あっち(ヨーロッパ)に行って、すごく思いました。

ポルトガルで取材したお店は、古い巨大な4段のガス釜があって、全部ペレットで燃やしているんです。それも簡単な改造なんです。ペレットのタンクを、小さいのを外側に作って、そこから供給されるようになっていて。「ポルトガルだとガス釜はすぐペレットに改造できるんだよ」と言っていて。

日本だと、そんな技術は聞いたことないです。何かが邪魔をしている。何かできないものとして片付けられている。

レジ袋は2019年1月末から課金制に移行(筆者撮影)
レジ袋は2019年1月末から課金制に移行(筆者撮影)

ヨーロッパは田舎町でも長期滞在者で賑わっている 日本との圧倒的な差

田村:ヨーロッパに行ったら、すごく自由になれたんです。何でもできる。働き方も、そういう感じで調べていたら、やっぱりあったんです。5時間(労働)。今だって、パリだと、働く時間は4~5時間だもんね。できるんじゃん!しかも(パンは)おいしいし。最初に4~5時間(労働)のショックを受けたのは、オーストリアのお店だったんですけれど。オーストリアの社会は、いろんな職種がみんなそうなので。だから循環しているんです。

日本だと10時間12時間働いて、給料を稼いで、ほとんど家で過ごして、あまり回らない。でも向こうは労働が4~5時間なので、帰りにどこかに寄るとか、美術館に行くとか、レストランに行くとか、回るんです。だから、昼間だろうが朝だろうが夜だろうが、町は賑やかなんです。

この差が多分20~30年ついているんで。今後また20年~30年たったら、これはもう追い付けない違いになっちゃうだろうな、というのはすごくショッキング。

ヨーロッパに行くまでは、日本は先進国なんだと思っていたけれども、向こうに住んでみると、それは違うなと。

―そうそう、そうですよね。

田村:先進国というのは違う気がする。

―違うと思います。

田村:一瞬お金は持ったけれども、文化としては、先進国ではないな。

ワインセラーに描かれたイラスト。岡山のワインが置いてあった(筆者撮影)
ワインセラーに描かれたイラスト。岡山のワインが置いてあった(筆者撮影)

ヨーロッパは男前 中身や重さの「実」重視

田村:フランスに行っていた時、お客さんが男前なんです。(パンに)少々炭が付いていようが、少々見た目が悪かろうが、中身を見ている。中身には厳しいんです。中身と重さ。ヨーロッパって、ボトルのワインを売っていたとして、500円の値段の横に、キロ幾らと書いてあるんです。全部キロ当たりの値段が書いてあって比べられるようになっているんで。例えば「これは1キロのパンです」と言って950(グラム)しかなかったら、怒られるんです。重さにはすごくシビアだ(厳しい)けれども、見た目とかそういうのは全然(シビアじゃない)。賢いと思う。練られているというか、何が重要で、何が重要じゃないかが分かっていると思います。老獪(ろうかい)というか。

日本も、中身とか重さを追求されたほうがギクッとくるんだけれども、そこは(消費者は)追求しないから、大手はうれしいわけ。見た目とかそこだけ華やかにしておけば、こいつら満足するわ、みたいな。

シンプルな原材料の、生産者の人たち(筆者撮影)
シンプルな原材料の、生産者の人たち(筆者撮影)

日本のパン、国内小麦3%以下?!

―びっくりしたのは、パン生産で、国内小麦のパーセントが3%って。

田村:そうです。

―これはどこかに(データが)出ているんですか?

田村:うちが取引している製粉会社さんが教えてくれたんですけれども。その発表が3%なんです。パン組合か製粉会社の組合かで、全体量の3%が国内産小麦で作っているパンです、と。でも出荷量ベースか何かなので分かんないですけれども、そのうち2%ぐらいはうどん屋さんが使っているんじゃないかと言っていました。だから実質1%だと。100個のパンがあったら、1個が国内産の小麦粉のパン。それぐらいですよね。

―そうでしょうね、きっと。「国産小麦のパン屋さん」って、増えたイメージ。

田村:製粉屋さんが言うには、外国産小麦を8割、国産小麦を2割使って作ったパンも、「国内産小麦使っています」と。全量使用とは書いてないけれども「国産小麦使用」と書くと。日本語の妙で、うそではないので。

―何%でも言えるんですか?

田村:言えると思います。今は、怒られはしないと思います。

―(小麦に)思い入れがないから、結構、安易に捨てちゃう。

田村:確かに。自分も昔は知らなかったので、生産者の顔を知らないと、捨てやすいです。

注:農林水産政策研究所の資料 p6によれば、日本のパンの国産小麦の使用割合は3%(農林水産省調査)。

店内に飾られている(筆者撮影)
店内に飾られている(筆者撮影)

百貨店はパン屋が決死の覚悟で入っていく場所

―高級フルーツ店とか、高級デザート店か、高級なパン屋さんというのは全部(捨てるコストが値段に)入っていますよね。割高。

田村:パン屋も、デパートに入るのはもう決死の覚悟で、というのは業界の中でも(知られていて)。ルールが多いから。例えば「5時までは全種類あるようにしてください」とか。その時点で、もう無理だもん。恵方巻きとかも、1時、2時で売り切れたほうがいいんだろうけれども、でも「夕方までちゃんとあるように作ってください」と言われたら、作って、残っちゃう。

パンの勉強をしているという突然の訪問客も歓迎し笑顔で対応していた(筆者撮影)
パンの勉強をしているという突然の訪問客も歓迎し笑顔で対応していた(筆者撮影)

ブームの軽やかな日本酒はお米を醸し切らずに捨てている

田村:日本酒もちょっと似たような話があって。今のブームのフルーティーで軽やかなお酒というのは、酒粕がすごくおいしいんです。醸(かも)し切ってないんです。無駄な廃棄なんです。

昔は、米からどれだけのものをしぼり取れるかというのが杜氏さんの腕だったので。だから、もっと醸し切って、酒粕は本当のかす、スカスカなのがいい酒造りとされていて。

でも、今はこうじを振らないんです。フワフワってこうじ菌を振って、種付けするんですけれども、最近の酒造りは振らないらしいんです。「エアーこうじ」みたいな。ほとんど発酵させずに、上澄みだけを取る。一粒の米から取れる歩留まりとか酵母がほんのちょっとで、あとは全部捨ててしまえ、みたいな。その辺もなんかちょっと似通っている。削りまくって、その削りまくったのをほとんど発酵させない、というのが。江戸時代とかにやっていた酒造りというのは、そんなんじゃなくて、醸し切る。回り回って、人間の体にいいのは、その醸し切ったほうのというのが、またうまくできているというか。

無人パン屋

―本(田村さんの著書『捨てないパン屋』(清流出版)で、無人販売というのを見たんですけれども。

田村:無人販売は、工場で今日もやっていたんですけれども。工場で焼いて、その辺に置いているので、近所の人が「パンがあるんだったらちょうだいよ」となって。「でも、いらっしゃいませができないし、接客は無理なんでちょっと無理です」と言ったら、「お金は置いておくよ」みたいな感じで持ってみえたんです。それが始まり。今もそんな感じだよね。かごが置いてあって、そこに勝手にお金入れてもらって。

―無人野菜販売、みたいな感じ?

田村:無人販売で、たまに話し掛けると、お客さんは喜ぶんです。

―確かにそうかも。

田村:でも、無人販売じゃなくて無視していたら怒られるので。そこは不思議なんですよね。無人販売なのに話してくれたというのはポイントだけどね。

接客担当の田村芙美さん(筆者撮影)
接客担当の田村芙美さん(筆者撮影)

2011年の東日本大震災で変わった

田村:それ(東日本大震災)までは、みんな出される情報は信じましょうということだったと思うんですけれども、全部がうそじゃないけれども、やっぱり自分たちで調べないと駄目なのかも、と思い始めたのかなと思いました。お客さんの変化も急激すぎたので、そうでもないと説明がつかないというか。自分たちみたいなパン屋さんとか製粉会社さんとかと話していると、あたかもみんながそうなったと思いがちなんですけれども、まだ過半数ではないと思います。少数派だとは思うんですが、でも、すごくがらっと変わった、そういう層もいるのかなと。

この日は雪だったのに、開店してから1時間24分であっという間に完売となった。そのあとも訪れるお客さんが絶えなかった(筆者撮影)
この日は雪だったのに、開店してから1時間24分であっという間に完売となった。そのあとも訪れるお客さんが絶えなかった(筆者撮影)

組織が大きいほどいい、わけじゃない

―ロスを減らす活動をしていると、売上が縮むとか、経済が縮むと言われるんですけれども、それに反論する事例をいっぱい見せたいと思っていて。田村さんの店もそうだし、それに対しては何かありますか?

田村:うちも、今のやり方に変えた時に、雇用は減ったので。

―(前は)8人でしたよね。

田村:そうです。それだけ雇用が減ったということですね、という書き込みとかをもらうんですが、今から働き方は変わるので。100人でやっていたパン屋さんがあったとして、それが10人でやるパン屋さんが10個に分かれる、みたいな。100人とか1,000人でやる意味がないんですよね。それで消費者にいいものを出せるわけでもないし、きめ細かいことができるわけでもないし。今からもっと専門化していくんで。ばらけていく運命となると、一つ一つの企業の人数は少なくなって数は増えていくイメージで活性化していくと思うんです。

―そうですね。なんかそのほうがいいな。取材してみると(ロス出さない店は)1店舗しかやっていないという店ばかりなんです。

ブーランジェリー・ドリアンのパン(筆者撮影)
ブーランジェリー・ドリアンのパン(筆者撮影)

1億人に嫌われても300人のお客様のために全力で美味しいパンを焼けば充分暮らしていける

田村:チェーン店の利点とかは、もはやない。若い子でチェーン展開を言っている子とかはいないし。チェーンとか上場はいい、それで幸せになる?(某企業の熟年会社員は)せっかく技術も認められて、パン屋としての地位もあって、いろんなことができる立場なんだけれども、幸せではないんです。と考えると、社員が増えるとか、店舗が増えるとか、それは何なの?という。

今までの世代の人は当然のように、そうなったほうがいいじゃん、うちは3,000人いますとか、うちは5店舗ありますとか、がいいこととされていたんだけれども。今、自分たちの世代になって、「そうなったけれどもいいことはないじゃん」というのに気付き始めて。だったら、もっと人数が少なくて、自分たちの好きな幸せを実現できたほうが、それを実現できる人が多くいるほうが、3,000人でみんなが嫌々働いているよりは、2人か3人、5人で、本当にやりたいことをやっている人たち(の組織)が何百個あったほうが絶対いいじゃん、という。

―そうですよね。

田村:その人(熟年会社員)も、社員には言えないから、お忍びでうちに来て、そういう話をしていて。でも「いろいろ考えたけれどもやっぱり定年後しかないかな」という。

―(私の場合)働いているところの規模が小さくなればなるほど楽しくなってきました。

田村:イメージ的には、みんながフリーになるような時代になりそうな気がするんですがね。

自分たちの社会を自分たちでコントロールできていない

―ジェットコースターと本に書いておられたのが、そのとおりだと思って。

田村:(本の)最後のですね。

(注:田村さんの著書に「私たちは自分の人生を歩いているつもりだけれども、本当は惰性で突っ走るジェットコースターに乗せられているのかもしれない」「みんなが、これ大丈夫かな?と思っていることを、自らの力で変えられない、自分たちで自分たちの社会をコントロールできていない」とある)

―さっきおっしゃっていたように、大きな組織に属している人が多いから、結構(食品)ロスって起こっているな、と思って。個人では、みんな・・・何パーセントかの人は「もったいない」と思っているんだけれども、何とか会社の誰それさんとなると。

田村:集団になると。

―でも、それで人生を終えるのって切ないな、と。

田村:本当ですよ。うちは、おやじ、先代(祖父)がいて、先代と自分との関係だけでもなかなか変えられないのに。

―すごいけんかしたと(本で)書いていらっしゃった。

田村:それが集団になると変わらないと思います。よほどの荒くれ者が現れないと。

―大手になればなるほど全国展開だから、北海道から沖縄まで売上を失うというのが怖い。

田村:むしろどんどん大きくなって寡占化になっていますもんね。昔、靴屋さんの例で教えてもらった話で。今はネットが発達してあたかも靴の選択肢が広くなったように感じているけれども、昔は町に靴屋さんがいて、何ならオーダーメイドで作ってくれて。選択肢は無限にあったのに、今は100から選ばないといけない。現代人は、選択肢が昔の人よりも広くなったと思っているけれども、実は減っている、というのを言われたんです。靴屋さんだったかな?確かに、いろんな商品で、そうで。

モンゴルで羊をさばく場面が食べ物に対する姿勢の背骨

―羊をさばくところの絵が(本に)描いてあって。私も(青年海外)協力隊で、鶏をさばくこともやったんですよ。

田村:訓練して。日本でやっていくんですか?

―日本で。長野の駒ヶ根で(訓練)受けたんですけれども、結構、衝撃的です。

田村:そうですよね。山ガイドの修行をした時に、鶏をさばいたんです。一番最初にさばいたのは。モンゴルに行く前です。首を切るのも一太刀(ひとたち)でいきたいんだけれども、ためらっちゃって。むしろかわいそうな感じになっちゃう。モンゴルって、そうやって羊とかもピカピカの(最後まで)食べるし、顔を洗うのもコップ1杯の水で、顔洗いから歯磨きから全部やるんです。朝はこれ以上は使っちゃ駄目、みたいな感じ。やっぱりモンゴルの文化はすごい。

同じ人間でも食べ物がなくなったら、みんなすごく工夫して食べるのかもしれないけれども、次の日に食べ物に囲まれたところに行くと、やっぱり平気で無駄にしちゃう。

(食べ物が)なくなるというのがイメージできないと、なかなか無駄はなくならないですよね。

取材を終えて

田村さんは、パン屋なんだけど、パン屋じゃない、みたいな人だった。著書には「本気で世の中を変えたい。パン屋はその可能性を秘めている」と書いてある。

田村さんの本にはたくさんのメッセージが散りばめられている。

「食べ物は、みんな死にたくなかったのに、死んで、恵みを与えてくれている」

「こんなに多様化している時代、商売は一途でないといけません」

「食べ物が一番の環境問題」

「農業への敬意が減っている」

「良い材料を使って80点を目指す」

などなど。

「良い材料を使って80点を目指す」という働き方は、青森で摘果シードルを作っている、もりやま園の森山さんが「(色を赤くするための)葉とり作業は、海外では誰もやっていない。非効率だからやめた」とおっしゃっていたのを彷彿させた。どこにいても、何に取り組んでいても、志を持って取り組んでいる人は、共通するものがあるのだと感じた。

取材当日は雪だった。それなのに次々お客さんが訪問した。開店して1時間半後にはあっという間に売り切れ。そのあとも来る人がたくさんいた。お客さんたちも、見知らぬ訪問客の筆者に対し、温かかった。

広島で受け取り、自宅までの旅を一緒にして来たパンは、チーズと相性がよく、噛みごたえがあった。芙美さんが「70代、80代のお客様も多いんですよ」と話していた。今の食べ物は、噛まずに飲むようにして食べられるものも多い。噛みしめる美味しさを味わっているのかなと思った。

日本全国で容赦無く捨てられている「パン」は、もしかすると、パンの仮面をかぶったパンではない代物、なのかもしれない。田村さんのパンを見ているとそう思う。

愛情込めて生産者さんと付き合い、お客さんと向き合い、雨降りで残った時には志を同じくする「雨の日メイツ」の人たちが、それぞれの店で売ってくださる。

パンを1個も「捨てない」で、疲弊するほど「働かない」。自分を磨き、成長させるために「旅する」。こんな素敵なパン屋があるだろうか。

取材日:2019年1月26日

田村陽至さんと芙美さん(筆者撮影)
田村陽至さんと芙美さん(筆者撮影)

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田村陽至さんが木曜日レギュラーを務めるRCCラジオ「おひるーな」(12:00-14:55、月~金)

田村さんと志を同じくする「雨の日メイツ」のみなさまのお店

有機野菜の移動販売「グリーンブリッジ」

ハム・ソーセージの製造販売「グリュックスシュバイン」

自然派ワインの飲める食堂「BISOU(ビズー)」