Yahoo!ニュース

なぜ、独身男女の恋愛中の数が男<女になってしまうのか?「恋愛は1対1とは限らない」

荒川和久独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター
(写真:アフロ)

「恋愛離れ」も「草食化」も起きてない

メディアは、油断するとすぐ若者の「恋愛離れ」とか「草食化」などと言い出し、都合のいいデータだけを切り取って、おもしろおかしく報道しがちである。

そして、テレビの場合など、必ず街頭インタビューの映像を差し込んで、中高年者が「最近の若者は意気地がない。俺の若い頃は…」と流し、さも昔は「恋愛意欲が旺盛だった」かのような演出を入れる。

テレビであっても、エンタメとしてのバラエティ番組ならともかく、報道番組でも同様のことが行われていたりする。

しかし、事実は違う。

令和だろうが、平成・昭和であっても、「恋人のいる割合」は大体3割でほぼ変わらない。

かつて、「高校生のデート経験なしが4割」などという内閣府の有識者会議の報告書がニュースにもなった。が、それとて40年前の高校生も「4割はデート経験なし」だったのである(参照→「デート経験なし4割」で大騒ぎするが、40年前も20年前も若者男子のデート率は変わらない)。

写真:イメージマート

逆にいえば、恋愛至上主義などといわれ、狂乱的なクリスマスデート商戦が繰り広げられた1980年代と2020年代を比べても、「恋人がいる割合」は多少の揺らぎはあろうとも、特に20代に限ればほぼ一緒である。

若者の「恋愛離れ」も「草食化」もなければ、恋愛を謳歌する3割の層は、時代背景にかかわらず恋愛をするのであって、むしろ常に「恋愛相手がいない」層が7割で圧倒的にマジョリティなのである。これを私は「恋愛強者3割の法則」と言っている(但し、年齢があがればその分減少するが)。

男女で割合に違いがある謎

さて、この「恋愛強者3割の法則」だが、厳密には男女で差異がある。ざっくりいえば男性の場合25%、女性の場合35%程度と、男女で10%ポイントの開きがある。2021年の出生動向基本調査に基づき、各年齢別の男女の恋人がいる割合は以下の通りである。

どうしてこれだけ男女差が出るのだろうか?

しかも、年齢によって男女差が入れ替わるわけでもなく、すべての年齢帯で均等に違うのである。

要因のひとつは、未婚男女のそもそもの人口差がある。

こちらの過去記事(参照→未婚男性の「男余り430万人」の実態~もはや若者ではなくおじさん余りへ)でも書いた通り、未婚男女人口を比べれば、2020年の国勢調査段階で430万人の未婚の男余りである。なぜ、そうなるかというと、そもそも出生男女比が違い、5%ほど男の人口が多く生まれてくるからだが、それだけではこの10%もの開きは説明できない。

恋人のいる独身男女の人口差

そこで、各年齢別の割合に、2020年国勢調査での各年齢別未婚人口を掛け合わせて、「恋人のいる未婚人口」を計算したものが以下である。

これで見ると、割合の差よりは是正されているが、それでも18-24歳の若い年齢帯で男女差が激しい。かといって、25歳以上で男女が逆転しているわけではなく、すべての年齢で「恋人がいる実数」は女の方が多いのである。ちなみに、49歳までの全年齢で35万人も違う。特に、18-29歳の年齢だけで21万人も女が多いのだ。

前提として、独身同士の恋愛関係に正式な「恋愛届」があるわけではなく、この「恋人がいる」という認識は本人の主観にすぎない。一方が「付き合っている」と認識していたとしても、相手は「単なる遊び」と認識している場合は食い違いが生じる。要するに、若い女性の場合は、相手に「二股をかけられている」可能性があることをこのデータは示唆している。

加えて、相手の男が独身者ならまだしも、既婚男が独身と偽って、未婚女と交際しているパターンもあるだろう。

自由恋愛の厳しい現実

自由恋愛においては、こうした「勝者総取り(Winner-take-all)」ならぬ「強者総取り」パターンになりやすい。

よく考えれば当然で、女性からしてもより良い相手を選びたいと欲すれば欲するほど、3割の恋愛強者に恋心は集中する。

加えて、現代ではマッチングアプリなどのツールで、恋愛強者からすれば、わざわざ街でナンパするより手軽に相手を探せるようにもなっている。マッチングアプリは所詮「街のナンパのデジタル版」であり、リアルでモテる人間がより選ばれるツールである。むしろ、あれこそ「強者が選ばれる仕組み」の最たるものであって、こうしたツールは、恋愛強者が複数恋愛をするための格好の狩り場のようにもなるだろう。

提供:イメージマート

三菱UFJリサーチ&コンサルティングの2021年調査報告によると、マッチングアプリユーザーの20代のうち6割超が、利用時にトラブルや困ったことがあったと回答しているという事実も抑えておく必要もある(参照→マッチングサービスなのに「会えた人数ゼロが3割」問題の背景にある残酷な現実)。

強者の割を食う弱者

既婚男が独身と偽って恋愛するパターンは別にして、二股だろうが三股だろうが、独身者が自由に恋愛を謳歌するのは別に犯罪ではない(当人同士の修羅場になるかどうか知らないが)。

しかし、お見合いや職場縁などのようなかつての社会的マッチングシステムが崩壊した今となっては、「強者総取りという自由競争の残酷な摂理」によって、「恋愛強者無双」の影で「好きになってくれる相手がいない」という現実が7割の総にのしかかってくることになる。

女性にとっても他人事ではなく、女性側は恋人だと思っていたのに、単なる遊びだったと後で気づかされ、貴重な時間を無駄にすることにもなりかねない。

ちなみに、40歳以上でも恋人ありの女性の方が多い理由は、40歳以上の未婚女の交際相手がバツあり離婚男の場合があるからだろう。離婚した男は、初婚女と再婚する場合が多く、離婚再婚を何度も繰り返す「時間差一夫多妻男」のせいで、未婚男が割を食っているという面もある(参照→離婚再婚を繰り返す「時間差一夫多妻男」のカゲで生涯未婚の男たちが増えていく)。

これもまた「恋愛強者総取り」パターンである。

関連記事

「金はなくてもモテる男」のおかげで「金があってもモテない男」が増産されていく皮肉

恋愛強者の男が強者たる所以とは「容姿」か?「経済力」か?「コミュ力」か?

高校時代モテモテだった恋愛強者女性が「モテるのに未婚」のまま30代後半を迎えてしまうワケ

-

※記事内グラフの商用無断転載は固くお断りします。

※記事の引用は歓迎しますが、筆者名と出典記載(当記事URLなど)をお願いします。

※記事の内容を引用する場合は、引用のルールに則って適切な範囲内で行ってください。

独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター

広告会社において、数多くの企業のマーケティング戦略立案やクリエイティブ実務を担当した後、「ソロ経済・文化研究所」を立ち上げ独立。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者としてメディアに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』『結婚滅亡』『ソロエコノミーの襲来』『超ソロ社会』『結婚しない男たち』『「一人で生きる」が当たり前になる社会』などがある。

荒川和久の最近の記事