無理に夢や希望を持つ必要はない、正解なんて出なくていい――恐山の禅僧が語る、「人生の重荷」との向き合い方 #今つらいあなたへ
修行を重ね僧侶となり、数々の対話をすることで、表からは見えない苦しさ、生きづらさを抱える人たちが驚くほどたくさんいることを知った。現在南は、人々の苦しみの正体と向き合い、心を楽にして生きるための発言を続けている。 「前向きになれと言われるけれど、『前向き』なんて、どっか胡散臭いんですよ。そもそも人間は自己決定で生まれてきたわけではないですから、パッシブ(受動的)なんですよ。アクティブにやれなんて無理でしょう。ネガティブを受け入れるところからはじめなければ」
ネガティブな思いを言葉にする力が萎えている若者たち
悩める人々と向き合ってきた南には、今、大きな懸念がある。それは特に30代、それ以下の若者たちが、自分の気持ちを言葉にできないことだという。 「つらいから私に会いたいと言ってやってくるのに、いざ対話をはじめようとすると、彼らから言葉が出てこない。例えば、30歳の男性。いい大学を出て、大会社に就職して、将来を嘱望されていたような人なんですが、会社に行けない。理由を聞いても、言わないんです。私はこれまでの経験から、『あなたが言いたいのは、こういうことじゃないですか』と言ってみる。すると相手は驚いて、『なぜわかるんですか、さすがお坊さん、神通力ですか』(笑)。違う、違う。私は言葉のサンプルを出しただけ。しかし、彼は言葉で自分の感情を表すことを知らないんです。彼らのような人たちが、実に増えています。自分が抱える悲しみや苦しみ、ネガティブな思いを言葉にする力が萎えている。言葉にすることだけではなく、何が切ないのか、つらいのか、感情すらわからなくなっているんです」
感情は「液体」だと南は言う。液体は、器に入れてはじめて、色やにおい、重量がわかる。つまり、アウトプットしてみなければ、自分に起こっていることがわからないのだ。 「彼らは、親にも、友達にも、自分のネガティブな感情を出すことが苦手です。恐れているんだと思います。嫌われて、関係が壊れてしまうことを。そうやって言葉を使わずにいると、何が起こるか。肉体と同じで、使わない能力は、どんどん衰えていきます。でもネガティブは自分の中に溜まっていく。内向を続けて、学校や、会社に行けなくなる。やがて必ず、心と体の健康を害します」