メンタルクリニックは増えているのに…なぜ予約困難? オンライン診療が活路になるか #今つらいあなたへ
「医師との出会いは運」 切迫した状況の患者の救急対応も重要
患者側の事情や内心を、取材に協力してくれた人たちに詳しく聞いていくと、クリニックの予約が取れなくて焦る気持ちの裏側には、数字上の需給バランスだけでなく、「ミスマッチ」の問題があることが見えてくる。 前出の林さんは、診断に違和感を感じているという。 「向精神薬を処方されましたが、一向に良くなっている気配がありませんでした。別の薬も試しましたが、良くなるどころか、むしろ悪化しているような感じすらしています。自分は本当に双極性障害なのだろうか……と疑う気持ちも出てきています」
それでも同じクリニックに通っているのは、また病院を探すのが大変であることに加え、「自立支援医療制度」を利用しているためだ。 自立支援医療制度は、心身の障害を除去・軽減するため、医療費の自己負担額を軽減する制度だ。所得や重症度などに応じて自己負担額が軽くなる。現在は無職の林さんにとってはありがたい制度だ。利用するには主治医に書いてもらった書類を自治体に提出する必要があり、制度の適用を受けるのはその書類を作成した医療機関に限られる。医療機関を変えたい場合は、変更の申請をしなければならない。 「結局、どんな医師と出会えるかは運によるところが大きいと思いました」 林さんを含め話を聞いた6人全員が、診断に疑問を持った、薬が合わなかった、医師の診察がおざなりに感じたなど、大なり小なりクリニックに不満を持った経験があった。だからといって、転院して自分に合う医師を探すとなると、「初診の予約が取れない」苦しさを繰り返すことになってしまう。また、林さんのように制度とリンクしている場合もあり、簡単にはいかない。
このような診断のミスマッチは起きるものなのだろうか。石丸医師はこう話す。 「精神医療の分野でも、各学会が治療ガイドラインを出し、それに沿った治療が行われているため、一昔前よりは標準化されています。よほどひどい医師に当たらなければ、治療方針が根本的におかしいということは少ないでしょう。ただ、治療は患者と医者の共同作業なので、薬や医師との相性は治り方に関わります」 その理由は、向精神薬の特徴に関係する。向精神薬とは、主に脳の中枢神経に作用して、精神機能に影響を及ぼす薬の総称だ。抗うつ薬や抗不安薬、睡眠導入剤などがそれに当たる。 「向精神薬の効き方は個人差が大きいのが特徴ですが、特に副作用の出方に顕著です。薬の効き方にはプラセボ効果があることが知られていますが、特に不安を抑える薬や不眠の治療薬の場合、処方に納得して気持ちよく薬を飲んだ場合と、医師に不満を持ちながら飲んだ場合では、効き方が違ってくることがありえます」 石丸さんは、「初診の予約が取れない」という問題に対応するには、病院の役割分担などのように仕組みを変えることが有効かもしれない、と話す。 「うつなどで希死念慮を抱えていて、危険性が切迫している人もいます。例えば、救急的に初診の患者さんを優先的に受け入れ、症状に合った医療機関を紹介していく初診専門の病院があってもいいのでは、と思います」 さらに、どうすれば「いい」クリニックを見つけられるかという問題については、「それが一番難しい問題」としつつもこうアドバイスする。 「自分でクリニックを探すことが難しい場合は、地域の保健所や役所、精神保健福祉センターに問い合わせてみる方法もあります。特に、統合失調症のように治療に長い時間がかかる病気の場合に有効で、治療だけでなく生活支援の相談も受けてもらえます」