再び自殺を図る人を半分に──救急から引き継いで支援する精神科チーム #今つらいあなたへ
自殺を一度試みた人は、助かった後でもまた自殺を試みる可能性があるという。また、そんな彼らの中には何らかの精神疾患を抱えている人も少なくない。そこで、救命救急センターに搬送された自殺未遂患者の「再企図を防ぐため」、退院後も精神科医療を柱とする多職種のチームで支援する取り組みが出てきている。過去の臨床研究ではそうした支援を受けると、何もしていない患者に比べて、自殺の再企図を半分ほど防げたという。精神科を中心とした多職種のチームの取り組みとはどういうものか。現場で取り組む医師や看護師、精神保健福祉士らを取材した。(文・写真:編集者・ライター・平尾小径/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
救急搬送された自殺未遂患者を精神科につなぐ
2023年版「救急・救助の現況」(消防庁)によると、2022年に自分自身を傷つける自損行為で医療機関に救急搬送された人は4万256人。この数は救急搬送人員全体の0.6%にすぎないが、とくに重い症状の患者を受け入れる「救命救急センター」(都道府県が指定する医療機関。集中治療室などを備える)には、自殺を図り、生命の危機に瀕した患者が日々搬送されてくる。 そんな救命救急センターには、自殺未遂患者にとって“中継施設”の役割を担うものが増えつつある。救急医療で患者の体の治療をするだけでなく、そこから精神科につないで精神の安定化を図り、同時に退院後の生活を見通した支援を進める中継施設。この全体の流れは現在、「救急患者精神科継続支援」という枠組みで行われている。2016年から社会保険も適用された。 この「支援」の制定を主導した精神科医で札幌医科大学の河西千秋教授は、「この支援の目的は、自殺再企図を防ぐことです」と語る。
「自殺未遂は、自殺の最大のリスク因子です。自殺を図った人は、その後も再び図り、最後には自殺によって亡くなってしまう危険性が非常に高いことが明らかになっています」 2023年版「自殺対策白書」には、2022年に自殺で亡くなった人のうち、自殺未遂歴がある人は19.5%で、全体の約2割を占めるとある。20代の女性に限って言えば、4割を超えるほど深刻だ。ただしこのデータは警察の捜査によるもので、「実際にはより多くの人に自傷や自殺未遂歴があるはずだ」と河西教授は指摘する。 また、20年以上前の報告ではあるが、世界保健機関(WHO)は、先進国では自殺で亡くなった人のうち精神疾患のある人が98%にのぼるとしている。つまり、一度自殺を試みた人は、救急医療で体だけを治しても、精神疾患に有効な治療をしない限り、自殺再企図の危険性は高いままということになる。 「自殺を図って搬送された人を、精神疾患について何のケアもしないで帰してしまうのは、すべきことをしない、不作為になります」