メンタルクリニックは増えているのに…なぜ予約困難? オンライン診療が活路になるか #今つらいあなたへ
「気軽にかかれる精神科の主治医を」オンライン診療の可能性と課題
「オンライン診療」に問題解決の可能性を見いだしているのが、前出の椿さんだ。椿さんが院長を務めるクリニックは、初診・再診ともにオンライン診療可能としている。椿さんはこう話す。 「2022年に、カナダの大学に留学しました。カナダではコロナ禍に自殺者数が減っていたことを知り、衝撃を受けました。日本では、2020年は2016~2019 年に比べ自殺者が増加しています。因果関係はまだ明らかになっていませんが、カナダの自殺者数減少には、オンライン診療の普及が関係あるのではないかと考えています。カナダは国土が広いため、都市部以外に住む人にも医療を届けるために、精神科に限らずオンライン診療が普及した経緯があります。オンライン診療なら、立地にこだわらずに開業でき、患者も通いやすいところに絞って選ぶ必要がなくなるので選択肢も広がる。初診予約が取れない問題をはじめ、地域格差の解消や通院の負担軽減などの問題の解消につながるのではないでしょうか」
日本でオンライン専門のクリニックはほとんど普及していない。 「大きな理由の一つに、診療報酬が低いことがあります。本当に安くて、対面の3分の1から4分の1程度。なぜか国は、オンライン診療は対面診療の補助的なものであるとしていて、専門で診療することを想定していないのです」 椿さんが大きな課題だと考えているのが、「現在日本で主流になっているオンライン診療のシステムでは、毎回同じ医師(主治医)に診てもらうことが難しい」という点だ。 「対面より診療報酬が低いので、オンライン診療は精神科医の主な収入源とされていません。ギグワークのようなかたちで空いている時間に入るので、患者さんが受診したいタイミングで前回と同じ医師にかかれるわけではありません。カルテは引き継がれますが、医師が変わってしまうとカルテに残していく情報にも偏りが出て、どんどん情報が抜け落ちていってしまいます。患者さんからも同じ人に診てもらいたいというニーズがあります」 もちろん、オンライン診療ではできないこともある。 「例えば、血液検査が必要な薬の処方や、すぐに何かしらの処置が必要な重篤な患者さんの治療です。そのような患者さんには、他の対面クリニックや救急の病院を紹介しています」 このように、オンライン診療は対面とまったく同じではない。しかし、椿さんは精神医療へのアクセスを改善する効果を期待する。 「主治医制のオンライン診療の普及によって、今つらいのに初診予約が取れなかったり、近くにクリニックがなくて通えなかったりした人が、精神医療にアクセスしやすくなってほしいと思います。『今の自分の状態が知りたい』『不安な気持ちを聞いてほしい』などのちょっとした相談事であっても、誰もが気軽に精神科を利用できるようになってもらいたいですね」 石丸さんも椿さんも、「自分が精神科クリニックにかかるべきかわからなくてもいい」「漠然とした悩みや不安の相談だけでも精神科を利用して構わない」と言う。自分の心に余裕があるうちに主治医を見つけておくことが、「今、つらい」を乗り越える鍵になるかもしれない。
----------- 鈴木紗耶香(すずき・さやか) ライター。旅、民俗、文化、アート、フリーランスと女性の働き方問題が主な関心ごと。