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引退を撤回した皇治は、なぜ『RIZIN』でMMAに挑戦するのか?その「本当の理由」を考察─。

近藤隆夫スポーツジャーナリスト
引退発言を撤回した皇治(左)。今後はMMAに挑む(写真:RIZIN FF)

悔しくて恥ずかしかった

思っていたよりも早かったが予想通り、皇治(TEAM ONE)が「現役引退」を撤回した。

6月2日午後、東京・目黒雅叙園で開かれたRIZINの記者会見に出席した皇治は、幾分バツの悪そうな表情で次のように話している。

「引退します…と言いたいところですが、悔しくて悔しくてたまらなくて、試合が終わって1週間経たないくらいから格闘技の練習を始めました。MMA(総合格闘技)の練習です。戦争というのは白旗を振ったら終わり。俺はまだ白旗は振っていない、必ずひっくり返してやろうと思っています。ずっと言っていたトライアスロン(MMA)にチャレンジします」

4月1日、大阪『RIZIN.41』で芦澤竜誠(Battle-Box)に負けたことが、かなり悔しかったのだろう。

あの試合の後、引退表明をしメディアの質問を受けつけず会場から去った。格下だと見なしていた芦澤に負けてしまったことが悔しくもあり恥ずかしく、自分にもガッカリした。そんな思いから周囲の声を遮るために「引退」と口にしてしまったように感じられた。

(穴があったら入りたい)

皇治は、そんな心境だったのではないか。

だが、時間が経てば気持ちも変わる。

(こんな恥ずかしい思いをしたままで、闘いから離れるわけにはいかない)

そんな思いが湧き上がってきたのだろう。と同時に「引退」という言葉を軽々しく口にしてはいけないと反省もしたに違いない。

記者会見でメディアからの質問に答える皇治。「ナマズ(芦澤竜誠)との試合は”戦争”と呼ばれた。戦争は白旗を上げたら終わりだが、まだ俺は旗を振っていない」。芦澤を意識した発言も(写真:RIZIN FF)
記者会見でメディアからの質問に答える皇治。「ナマズ(芦澤竜誠)との試合は”戦争”と呼ばれた。戦争は白旗を上げたら終わりだが、まだ俺は旗を振っていない」。芦澤を意識した発言も(写真:RIZIN FF)

芦澤との再戦は早期に実現?

MMAの練習は、青木真也(元ONE世界ライト級王者)、住村竜市朗(元DEEPウェルター級王者)、竹浦正起(柔術家/CARPE DIEM三田)らと行っていると明かした皇治は、こうも言った。

「人前で寝技はしないですよ。男同士でイチャイチャするのは気持ち悪いから(笑)。でも練習では、やってもいいかな。目指すのはUFCのチャンピオンです。冗談ですけど(笑)。MMAでも応援してくれる皆の期待に応えられるように頑張りたい」

「忘れてほしくないのは、俺がマルコメ(フロイド・メイウェザー)に一途なこと。アイツとは何としてもやりたい。遠くなっちゃいましたけど、マルコメを捕まえられるように精進していこうと思っています。

だからキック(ボクシング)、ボクシングから引退するのではない。マルコメと闘った後にMMAだったのが逆になっただけです」

果たして皇治は、どのレベルでMMAに身を浸そうとしているのか。まさか、RIZINフライ級、あるいはバンタム級で王座を目指すのではあるまい。それが難しいことは本人も理解しているはずだ。

では、なぜMMAに挑むのか?

その「本当の理由」は一つしかないように思う。ズバリ、芦澤竜誠にリベンジするためだ。

芦澤に負けたことは屈辱的だった。

武尊(K-1ジム相模大野クレスト/当時)や那須川天心(TARGET Cygames/当時)に敗れても、試合後に皇治が取り乱すことはなかった。それは両者の実力を認めていたから。だが、戦績24勝(15KO)13敗1分けでK-1時代から格下と見なしていた芦澤に負けた時は自分を許せなかった。だから取り乱し恥ずかしさを隠すために「引退」と口にしてしまったのだろう。

すぐにでも再戦をして屈辱を晴らしたかった。だが、「これでキックは終わり」と話し芦澤はMMAファイターに転向を表明。よってリベンジを果たすために皇治も新たな舞台に進むしかなかったのである。

つまり、皇治のMMA転向は芦澤に復讐するため。それを果たせたなら、立ち技打撃格闘技に戻ると私は見ている。

「(MMA転向は)簡単ではない。皇治に泥をかぶる覚悟があるかどうか。その覚悟ができたなら7月でも9月でも、大晦日でも舞台を用意したい」

榊原信行RIZIN CEOは、会見後にそう話した。

ならば、MMAでの「芦澤竜誠vs.皇治」は、近い将来に実現しよう。両者にとってMMAデビュー戦での対峙なのか、1、2戦を挟んだ後なのかは解らないが、話題性を考えれば、このマッチメイクは必然である。

大会のメインで観たいとは思わないが、サブストーリーとしては面白い。レベルはともかく、互いにとってプライドをかけた「絶対に負けられない闘い」になることは間違いないから─。

スポーツジャーナリスト

1967年1月26日生まれ、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から『週刊ゴング』誌の記者となり、その後『ゴング格闘技』編集長を務める。タイ、インドなどアジア諸国を放浪、米国生活を経てスポーツジャーナリストに。プロスポーツから学校体育の現場まで幅広く取材・執筆活動を展開、テレビ、ラジオのコメンテーターも務める。『グレイシー一族の真実』(文藝春秋)、『プロレスが死んだ日。』(集英社インターナショナル)、『情熱のサイドスロー~小林繁物語~』(竹書房)、『柔道の父、体育の父  嘉納治五郎』(ともに汐文社)ほか著書多数。仕事のご依頼、お問い合わせは、takao2869@gmail.comまで。

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