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井上尚弥がサム・グッドマンに「挑発返し」!その真意とは─。『12・24有明アリーナ』

近藤隆夫スポーツジャーナリスト
12月24日に今年3度目の王座防衛戦に挑む井上尚弥(写真:日刊スポーツ/アフロ)

「ちょっといいですか」

「(グッドマンは)スピードがあり、非常にまとまった選手という印象。無敗のレコードを持っている。無敗というのは、必ず何かしらの強さがあるということ。コンデションも万全に整え、前戦の自分を上回る闘いをしたい」(井上尚弥)

「イノウエはパウンド・フォー・パウンドと称される最高のボクサーだ。自分にとって試練であることはわかっている。だけど自信がなかったら、この試合を受けていない。日本までわざわざ行って、リング上で倒されるつもりはない。必ず勝ってベルトを(オーストラリアに)持ち帰る」(サム・グッドマン)

10月24日、ザ・キャピトルホテル東急(東京都千代田区)で開かれた記者会見で、4団体(WBA、WBC、IBF、WBO)統一世界スーパーバンタム級王者・井上尚弥(大橋)の次期防衛戦が正式発表された。

対戦相手は大方の予想通り、サム・グッドマン(IBF&WBO世界1位/オーストラリア)。舞台はクリスマス・イヴ(12月24日)の有明アリーナだ。

会見には井上だけではなく、リモートでグッドマンも登場した。質疑応答は約20分で終了したが、最後に興味深い出来事があった。

「ちょっといいですか」

質疑応答の終了を司会者が告げかけた時、井上尚弥(大橋)がそう言葉を挟みマイクを握った。

「グッドマンとつながっているので、ひとこと言いたい。(T.J.)ドヘニー戦を『冴えない』と言われたことについて。あれは、ドヘニーが塩試合をしたから冴えなくなった。だから(グッドマンには)その意気込みで日本に来てもらいたい」

10月24日に開かれた記者会見にサム・グッドマンはリモートで参加した。右は大橋秀行会長。「12・24有明決戦」は「Lemino」で独占生配信される(写真:Lemino/SECOND CARRER)
10月24日に開かれた記者会見にサム・グッドマンはリモートで参加した。右は大橋秀行会長。「12・24有明決戦」は「Lemino」で独占生配信される(写真:Lemino/SECOND CARRER)

勿論これには伏線があった。

この会見でメディアからグッドマンに、こんな質問が飛んだ。

「YouTubeで、あなたは井上尚弥vs.T・J・ドヘニーを『冴えない試合』と話していたが、どの辺が冴えなかったのか?」

グッドマンが答える。

「ドヘニーが勝つためのパフォーマンスをやろうとしたのは分かる。だけど、ほかの試合と比較してイノウエがベストじゃなかったという想いを込めて『冴えない』と言った。あの時のコメントは本心だ」

そう言われた井上は、言い返しておきたかったのだろう。

中谷潤人戦を見据えて

会見後に、井上はこう話した。

「あの試合を観て『冴えない』という感想を持ったグッドマン選手が、(ドヘニーと)同じ闘い方を選択したら、その試合も『冴えない』試合になる。自分は性格的に、塩試合でも勝てばいいとは思っていない。倒しに行くし、ヤマ場もつくる。それに(グッドマンが)応戦して来なければ、一方的な『冴えない』試合になる」

『冴えない』と挑発してきた挑戦者に対する「挑発返し」だ。

グッドマンの戦績は19戦全勝(8KO)。昨年にはドヘニー、そして元WBA世界スーパーバンタム級王者ライース・アリーム(米国)からも判定勝利を収めている。

しかし、ここ数戦の試合映像を見る限り、井上を脅かす実力の持ち主とは思えない。スピードがありディフェンスも巧みだが、パンチに「一撃必倒」の威力が感じられず怖さがない。総合力で井上が一枚も二枚も上だ。

おそらくは今回も海外のスポーツブックでは、オッズに大きな開きが生じることだろう。

昨年6月、ライース・アリーム(左)と12ラウンドを闘い勝利したサム・グッドマン(右)。IBFインターコンチネンタル&WBOオリエンタル・スーパーバンタム級王座も獲得している(写真:APP/アフロ)
昨年6月、ライース・アリーム(左)と12ラウンドを闘い勝利したサム・グッドマン(右)。IBFインターコンチネンタル&WBOオリエンタル・スーパーバンタム級王座も獲得している(写真:APP/アフロ)

この一戦を予想するなら「9-1」で井上優位だ。

そしてモンスターは、ただ勝つだけではなく「インパクトのある勝ち方をする」と決意している。圧勝することが、来年以降の闘いに向けて必要不可欠だからだ。

記者会見の冒頭で大橋秀行会長は言った。

「相手も覚悟を決めて向かってくると思うが、(井上には)来年、再来年はさらに大きな野望がある。そのためにも圧倒的な差を見せつけて勝ちたい」

井上陣営は、すでに2025年のプランを立てている。

春にラスベガスに進出しWBA世界1位のムロジョン・アフマダリエフ(ウズベキスタン)を相手に防衛戦を行う。9月にはWBC世界1位アラン・ピカソ(メキシコ)の挑戦を受け、その後は12月、もしくは06年春に、階級を上げてくるであろう中谷潤人(WBC世界バンタム級王者/M.T)を迎え撃つ。

これらをすべてクリアした後に、井上はフェザーに階級を上げるつもりなのだ。

この過程でもっともファンの注目を集めるのは、言うまでもなく中谷戦である。

「モンスターvs.ネクスト・モンスター」

現時点では井上が実力上位だが、中谷も急成長中。29戦全勝(22KO)の戦績を誇り、フライ、スーパーフライ、バンタムと世界3階級制覇も果たしている。ここ3戦は強者相手に衝撃的なKO勝利を飾っており一般層への知名度も上昇、『RING』誌のパウンド・フォー・パウンドでも9位にランクされる気鋭の26歳だ。

最近は井上も、彼を意識した発言をしている。

「パウンド・フォー・パウンドで1位になりたいという若者がいるんで。彼が上がってくるのを待つしかないのかな」と。

両者が勝ち続けることが条件だが「井上尚弥vs.中谷潤人」はファン待望のスーパーファイト。舞台は今世紀2度目の東京ドームになるであろう。

その大一番に向けて、迎え撃つ立場ではある井上もインパクトのある勝ち方をしておきたい。だからこそグッドマンに「お互いに積極的に打ち合おうぜ!」とメッセージを贈ったのだ。クリスマス・イヴのグッドマン戦は、絶対王者にとって内容をも問われる闘いになる。

スポーツジャーナリスト

1967年1月26日生まれ、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から『週刊ゴング』誌の記者となり、その後『ゴング格闘技』編集長を務める。タイ、インドなどアジア諸国を放浪、米国生活を経てスポーツジャーナリストとして独立。プロスポーツから学校体育の現場まで幅広く取材・執筆活動を展開、テレビ、ラジオのコメンテーターとしても活躍している。『グレイシー一族の真実』(文藝春秋)、『プロレスが死んだ日。』(集英社インターナショナル)、『情熱のサイドスロー~小林繁物語~』(竹書房)、『伝説のオリンピックランナー”いだてん”金栗四三』、『柔道の父、体育の父  嘉納治五郎』(ともに汐文社)ほか著書多数。

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