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皇治の「判定負け」が1週間後「勝利」に──『HEAT50』不可解裁定を考える

近藤隆夫スポーツジャーナリスト
現在は『RIZIN』を主戦場としている皇治(写真:日刊スポーツ/アフロ)

届いた一通のリリース

時間を置いて考えてみたが、どうにも腑に落ちないことがある。

こんなことが許されていいのか─。試合が成立した1週間後に勝敗がひっくり返されてしまったのだ。闘った両者にドーピング、反則等の行為はなかったにもかかわらず。

5月7日、名古屋国際会議場イベントホールで開催された『HEAT50』。

この大会のメインエベントで皇治は、ダウサコン・BANG BANG GYM(タイ)とキックボクシングの試合を行い、延長の末に判定負けを喫した。それから1週間が経った14日の午後、HEAT事務局が結果を「皇治の勝ち」に変更すると発表したのだ。

届いたリリースは、要約すると以下のような内容だった。

<この試合(皇治vs.ダウサコン)は本来、HEAT KICK特別ルールで実施される予定だったが、誤って通常のHEAT KICKルールで行われた。HEAT KICK特別ルールは、延長ラウンドを行わずマストシステムで判定を下すもの。

これに沿ってHEAT事務局と審判団が、後日この問題を協議し再判定。その結果、延長ラウンドは無効、3ラウンドまでの採点をもとにマストシステムで判定し「皇治の勝利」と記録を変更します>

納得し難い裁定である。

今年4月に都内で記者会見を開き、5年5カ月ぶりのHEAT参戦を発表した際の皇治。左は志村民雄EXプロデューサー(写真:SLAM JAM)
今年4月に都内で記者会見を開き、5年5カ月ぶりのHEAT参戦を発表した際の皇治。左は志村民雄EXプロデューサー(写真:SLAM JAM)

誰もルールを理解していなかった?

いま一度、試合を振り返ってみよう。

リングではなく八角形のケージで闘いは行われた。形式はキックボクシング3分×3ラウンド。両者は激しく攻め合うも互いに決定打を欠き3ラウンドを終える。

ジャッジ3者の判定は、30-29、29-30、30-30と三者三様で1-1のドローに。そして延長戦に突入。またしても互いに決定打を放てぬ攻防の末にマストシステムの下、ジャッジ3者はダウサコンを支持する。

内容的には、いずれが僅差の判定で勝者となっても不思議はない、いわばドローファイトだった。

HEAT KICK特別ルールには延長ラウンドは存在しない。だが、実際には自然な流れで延長戦が行われた。つまり、レフェリーをはじめとする審判団が、ルールを理解していなかったことになる。それだけではなく、皇治、ダウサコン両陣営からも延長戦突入に対する抗議はなかった。闘った両者もまたルールを解っていなかったのだ。

そんなことが、あるのだろうか。

おそらくは、前日にルールチェック・ミーティングも行われていなかったのだろう。あまりにも杜撰だ。

勝負論のある闘いにおいて、ルールミーティングは厳密に行われる。

古い話になるが、『PRIDE.1』でのヒクソン・グレイシーvs.高田延彦。前日の両者が出席してのルールミーティングには、緊迫感が漂っていた。

ヒクソンが、審判団に対して細かく質問をする。グラウンドの攻防での打撃の有効・反則に関しては一緒にいた弟のホイラーと床に転がり、「この場合はどうなるんだ」と具体性をもって確認していた。それが、真剣に勝利を求める者の姿だろう。

皇治、ダウサコンともに勝利に対する執着心が欠如していたとしか思えない。『HEAT50』を盛り上げるための出演者くらいの気持ちでケージに入っていたのではないか。観る者に対して失礼で、興ざめである。

この一戦、ルールに沿っていなかったとしても抗議がないままに終わっている。ならば、両者が試合場を下りた時点で試合は成立だろう。

大会から1週間後に結果を覆したとなると、主催者側が皇治に忖度したとさえ思えてしまう。

「ルールを間違えて試合が行われたことは許されない」

そう審判団が考えるならば、せめて「ノーコンテスト(無効試合)」とすべきではなかったか─。

スポーツジャーナリスト

1967年1月26日生まれ、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から『週刊ゴング』誌の記者となり、その後『ゴング格闘技』編集長を務める。タイ、インドなどアジア諸国を放浪、米国生活を経てスポーツジャーナリストに。プロスポーツから学校体育の現場まで幅広く取材・執筆活動を展開、テレビ、ラジオのコメンテーターも務める。『グレイシー一族の真実』(文藝春秋)、『プロレスが死んだ日。』(集英社インターナショナル)、『情熱のサイドスロー~小林繁物語~』(竹書房)、『柔道の父、体育の父  嘉納治五郎』(ともに汐文社)ほか著書多数。仕事のご依頼、お問い合わせは、takao2869@gmail.comまで。

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