ウクライナの戦場での自爆ドローンの使用状況
ウクライナの戦争ではロシア軍とウクライナ軍の双方が自爆ドローン(自爆無人機)を使用しています。なお使い捨ての自爆ドローンは本来はドローンではなく「徘徊弾薬(Loitering Munition)」と呼ばれる兵器で、プロペラ推進で飛ぶ滞空時間の長いミサイルの一種と考えた方がよいでしょう。
また自爆ドローンには幾つかの種類があります。
- 遠隔操作型
- 対レーダー突入型
- プログラム飛行型 ※徘徊を行わない
- 自律戦闘型 ※まだ実用化されていない
ウクライナの戦場で使われている自爆ドローンは、1の遠隔操作型と3のプログラム飛行型のみです。2の対レーダー突入型は高速ミサイル(露:Kh-31P、宇:AGM-88)が既にあるのでドローンでは必要無く、4の自律戦闘型はまだ世界の何処の国も実用化していません。
遠隔操作型は移動目標も狙えますが地上の操作員からの無線通信が届く範囲でしか使えないので、航続時間が長くても作戦可能な射程は短くなります。プログラム飛行型はこのような制約が無いGNSS誘導(GPSやグロナスなど)なので射程は巡航ミサイル並みに長くできますが、代わりに固定目標しか狙えません。
※自爆ドローンのうちプログラム飛行型のみ徘徊を行いませんが、自爆ドローン=徘徊弾薬という図式が強過ぎて、プログラム飛行型まで徘徊弾薬扱いする報道が多いのですが、厳密には正しくないので注意してください。
ここではウクライナの戦場で使われている遠隔操作型とプログラム飛行型の自爆ドローンの主な代表的な物の使用状況を説明します。
遠隔操作型自爆ドローン:ロシア
- KUB-BLA・・・対人用、電動プロペラ推進式。目立った戦果は上がっていない。ロシア国産のZALAアエロ社製。
- ランセット・・・装甲目標も撃破可能、電動プロペラ推進式。戦果報告が動画でそれなりに上がっており、視覚的に確認されている限りでは両軍の自爆ドローンの中では最も活躍しているが、戦果数は既存の対戦車ミサイルなどと比べて劇的に効果が高いとまでは言えない。大きさが異なる複数種類の派生型がある。ロシア国産のZALAアエロ社製。
【外部参考記事】Hit Or Miss: The Russian Loitering Munition Kill List | Oryx Blog ※ロシア軍の徘徊弾薬(自爆ドローン)の撃破戦果リスト
なお確認できる戦法としては偵察ドローン「オルラン10」で敵目標を発見して、自爆ドローン「ランセット」を向かわせるというものです。自爆ドローンの本質が徘徊弾薬といっても、自身だけで徘徊して目標を見付けて突入する方法では発見できずに空振りになることもあるので、他の偵察方法と組み合わせることで無駄撃ちを少なくしています。
遠隔操作型自爆ドローン:ウクライナ
- スイッチブレード300・・・対人用、電動プロペラ推進式。機体サイズは非常に小型で暗殺などの特殊作戦用途。アメリカ製。
- スイッチブレード600・・・装甲目標も撃破可能、電動プロペラ推進式。ただし供与数が少なく戦果報告が無い。アメリカ製。
- フェニックスゴースト・・・正体不明。アメリカから2022年4月に120機、8月に580機、11月に1100機の供与が発表され、ウクライナ軍に合計1800機も与えられた筈なのに、1度も戦果報告が無いどころか、機体の写真すら公表されていない。この戦争の最大の謎の一つ。4月の初期報道で判明した「装甲目標も撃破可能、垂直離陸が可能で6時間超の飛行時間」しか情報が出ていない。
- ウォーメイト・・・装甲目標も撃破可能(ただし弾頭が小さく威力は限定的)、電動プロペラ推進式。供与数が少ないので戦果数も少ない。ポーランド製。
スイッチブレード300は大量供与されていますが用途が特殊作戦用なので戦果を気軽に報告できるものではありませんし、フェニックスゴーストは数字上は大量供与されているのに存在が全く確認できない幽霊のような存在です。現状ではウクライナ軍の遠隔操作型自爆ドローンは活躍しているとは言えません。ただし情報公開で新たな事実が判明すれば評価が覆る可能性はあります。
他にはマルチコプター型の市販ドローンに爆発弾頭を取り付けて自爆突入する戦法が少数ですが何例か動画で報告されています。これはマルチコプター型の市販ドローンで敵の真上まで飛んで空中で停止して小型爆弾を投下する戦法は撃墜されやすいので、どうせ帰還が満足に見込めないならば常に高速で動き続けて自爆突入したほうが攻撃成功率が高いという発想の転換なのかもしれません。
プログラム飛行型自爆ドローン:ロシア
- シャヘド136・・・固定目標攻撃用、ガソリンエンジンのプロペラ推進式。イラン製でロシア名称は「ゲラン2」。
- シャヘド131・・・固定目標攻撃用、ガソリンエンジンのプロペラ推進式。シャヘド136より先に開発されており機体サイズは一回り小さい。イラン製でロシア名称は「ゲラン1」。
シャヘド系は航続距離が巡航ミサイル並みに長いのですが、プロペラ推進なので速度は推定で時速200~300kmしか発揮できず、時速800~900kmを発揮できる巡航ミサイルよりも撃墜しやすい目標という評価になっています。そのため一度に大量投入して飽和攻撃を仕掛けないと効果は低くなります。
しかしイランからの初期輸入分は大半を使い切っていると推定され(2022年9月から投入開始、3カ月経過した時点で投入数は激減)、イランからの再輸入やロシア国内でのライセンス生産が軌道に乗らない限りは散発的な使用方法となります。
プログラム飛行型自爆ドローン:ウクライナ
- 中国製市販固定翼ドローン・・・固定目標攻撃用、ガソリンエンジンのプロペラ推進式。中国の厦門市に本社を置く「MUGIN UAV(厦门云轮智能科技有限公司)」の固定翼ドローン「Mugin-4」「Mugin-5」と推定される機体が自爆攻撃に使用されている。民間向けに市販されている物をウクライナが購入して改造したらしく、本来は再利用可能な観測用途の機体に炸薬を搭載して自爆ドローンとしたもの。
- Tu-141ストリーシュ・・・固定目標攻撃用、ジェットエンジンで時速1000kmで飛行する。ソ連時代の古い設計の無人偵察機に炸薬を搭載して使い捨ての自爆ドローンとした改造機。ジェットエンジンなので事実上、トマホークのような亜音速巡航ミサイルと同じだが、簡易な改造なので低空を這うように低く飛ぶ能力は付与されていないと思われる。
- 新型自爆ドローン・・・正体不明、機体名称も非公表。ウクライナ国営軍需企業ウクロボロンプロムが最近になって開発に成功したと発表、現時点でまだ実戦投入されていない。公表された能力は「射程1000km、弾頭重量75kg、離陸重量200kg超」。スペック上はロシア軍のシャヘド136と同程度の機体サイズで、航続距離は半分程度、弾頭重量は2倍。固定目標攻撃用でガソリンエンジンのプロペラ推進式だと推定される。
どれもウクライナ軍の保有数が少ないので大規模な攻撃を連続で続けることは不可能ですが、新型自爆ドローンが量産に成功すればその限りではありません。ただし生産設備が敵の攻撃で破壊される可能性も考えなければならず、纏まった数を手にすることは困難でしょう。
なおウクライナ軍は何回かロシア領内への長距離越境攻撃に成功しており、中国製市販固定翼ドローンないしTu-141ストリーシュによるものと推定されていますが、攻撃方法の詳細ははっきりしていません。
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