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ロシア軍が使用するシャヘド136自爆ドローンは事実上、ドローンではなく小型で安い巡航ミサイル

JSF軍事/生き物ライター
2022年10月17日、ウクライナ首都キーウ。ロシア軍のシャヘド136自爆無人機(写真:ロイター/アフロ)

 先月からロシア軍がウクライナでの戦争に投入を開始したイラン製自爆ドローン(自爆無人機)のシャヘド136(ロシア名称:ゲラン2)は、今月に入ってから大量使用され始めました。ロシア軍は巡航ミサイルを開戦から撃ち続けて消耗し在庫数が少なくなって発射数が減少せざるを得ず、この自爆ドローンは補充用の代替品の「小型で安い巡航ミサイル」として使われています。

 またシャヘド136と同じデルタ翼型でやや小さなシャヘド131(ロシア名称:ゲラン1)も少数ですがウクライナでの投入が確認されています。シャヘド131は2019年9月14日に起きたサウジアラビア石油施設攻撃(攻撃者はイランと推定)に使用された自爆無人機ではないかと推定されている兵器です。

 なおイラン製自爆無人機シャヘド136はこれまでイエメンの武装組織フーシ派に供与されており、ロシアは2勢力目の供与となります。

シャヘド136自爆ドローンの性能数値(推定含む)

  • 機体全長 4m(フーシ派の公開数値)
  • 機体全幅 3m(フーシ派の公開数値)
  • 全備重量 250~300kg(推定)
  • 弾頭重量 30~50kg(推定)
  • 航続距離 2500km以上(フーシ派の公開数値) 
  • 巡航速度 300km/h前後(推定)

※公表されている数値は全長・全幅・航続距離のみで、研究によっては航続距離は実際にはこれより短い推定もあります。

※重量や速度の推定は形状がデルタ翼でよく似ているイスラエル製自爆無人機「ハーピー」「ハロップ」(最大速度400km/hを発揮可能)を参考にしたもの。

※シャヘド136の速度については185km/hと推定する報道も多いのですが、デルタ翼型なのでもう少し速いと考えます。

自爆ドローンの種類

  • 徘徊型(対レーダー自動突入式)
  • 徘徊型(カメラ映像遠隔操作式)
  • プログラム飛行型(GNSS誘導式) ※GPSやグロナスなど

 ドローンと言うと市販品の数百グラムのものから軍事用の離陸重量12トンに達するものまで千差万別あるので、単にドローンというだけで一括りはできません。そして自爆ドローンというカテゴリーの中でも更に細かく種類が分かれています。

シャヘド136自爆ドローンはプログラム飛行型

 シャヘド136はこれまでのウクライナでの使用状況を見る限り、地上固定目標に対するプログラム飛行型であり、GNSS誘導方式(GPSやグロナスなど)です。つまり徘徊型ではありません。そしてこのGNSS誘導方式は簡易的な巡航ミサイルの誘導方式であり、ドローンというよりは「小型で安い巡航ミサイル」と見た方が正しく理解できるでしょう。ジェットエンジンの噴射ではなくプロペラ推進で飛ぶ小さな巡航ミサイルというわけです。

 シャヘド136を対レーダー自動突入式や遠隔操作式とする派生型が存在する可能性もありますが、現在までそのような変種は確認されていません。使用状況および発見された残骸からはGNSS誘導方式のプログラム飛行型しか投入されていません。

シャヘド136自爆ドローンは徘徊型ではない

 なお自爆ドローンは「徘徊型弾薬(loitering munition)」と呼ばれる場合がありますが、少し誤解が含まれています。これは使い捨て攻撃用なのでミサイルに近く、そしてミサイルには無い特徴の「戦場で長時間滞空し続けて目標を発見次第に突入する」という運用方法を表した命名ですが、前述のようにシャヘド136はプログラム飛行型であり徘徊型ではありません。

 しかし自爆ドローンとして世界で最初に有名となった機体であるイスラエル製「ハーピー」が徘徊型であったために、自爆ドローン=徘徊型という誤解が生じており、シャヘド136のことを徘徊型と報じるメディアも多数あります。しかしシャヘド136は戦場の上空で徘徊する飛び方はせずに地上固定目標を狙いに行くので、徘徊型は間違った呼び方になります。

 プログラム飛行型の自爆ドローンは徘徊型とは技術進化の系統が異なっていて、各国の軍隊がずっと以前から使ってきた標的用ドローンに新たにGNSS誘導を与えたら正確に地上固定目標を打撃できる簡易な巡航ミサイルになったという流れです。

 そしてシャヘド136は徘徊型の代表格であるハーピーを機体形状の参考にしつつ、誘導方式はGNSSを用いたプログラム飛行型という誤解されやすい設計となっています。

シャヘド136自爆ドローンと3M-14カリブル巡航ミサイル

筆者作成の表。シャヘド136自爆ドローンと3M-14カリブル巡航ミサイルの性能比較
筆者作成の表。シャヘド136自爆ドローンと3M-14カリブル巡航ミサイルの性能比較

※公表と記しているのはフーシ派から、それ以外は全て推定。

※INS(慣性誘導)

※GNSS(GPSないしグロナスなどの誘導)

※TERCOM(地形等高線照合)

※DSMAC(デジタル式情景照合)に相当するシステムが3M-14カリブルに搭載されている可能性もあるが、未確定。

※3M-14カリブル製造単価30~35万ドルはコムソモリスカヤ・プラウダ紙2022年5月17日「Хватит ли у России «Калибров» для спецоперации на Украине」より。

※シャヘド136の製造単価は推定できる材料が少なく、もう少し高い可能性がある。

 シャヘド136自爆ドローンと3M-14カリブル巡航ミサイルの性能を比較した場合、射程は同等、速力は3分の1、弾頭重量は10分の1という性能です。製造コストについては諸説ありますが、10分の1くらいになるでしょう。

 つまり破壊力の投射量はコスト換算で同じようなものになります。ドローンが安いといっても弾頭重量が軽いので、結局はコスト的にはそれほど有利とはなりません。

 またドローンは飛行速度が遅く、巡航ミサイルよりも迎撃しやすい目標です。これをカバーするためには一つの目標に同時多数を飛ばして飽和攻撃による迎撃突破を図ることになりますが、必然的にこの戦法は被撃墜数も多くなるので、余計にコストが掛かることになります。

 ただし比較的安いドローンで相手の高価な地対空ミサイルを消耗させる効果が見込めます。これにウクライナ側が対抗するには、ドローン対応の安い迎撃ミサイルを数多く配備する必要が生じるでしょう。あるいはNATO側がコスト度外視で高価な迎撃ミサイルを大量にウクライナに供給し続けることになります。

 なおプログラム飛行型ドローンは遠隔操作されていないがゆえに、電子妨害がほとんど効きません。GPSの電波を妨害すれば効果はありますが、しかしこの戦争ではロシア側のGPSジャマーがほとんど効果を上げておらずウクライナ軍のHIMARSのGPS誘導ロケット弾は戦果を上げ続けています。おそらく逆にウクライナ側がGPSないしグロナスのジャマーを設置したとしてもロシア側の攻撃兵器を妨害できない可能性が高いでしょう。また例えGPSやグロナスが使えなくても精度は悪くなりますがINS誘導だけでも大雑把な攻撃は可能です。

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軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人兵器(ドローン)、ロシア-ウクライナ戦争など、ニュースによく出る最新の軍事的なテーマに付いて兵器を中心に解説を行っています。

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