ウクライナの戦場で「スイッチブレード」自爆ドローンは活躍していない
2月24日にロシアが全面侵攻を開始して戦争が続くウクライナに、アメリカが自爆ドローン「スイッチブレード」を供与すると3月に発表して、戦場への投入が開始されて数ヵ月経ちましたが、実は評判は芳しくなく目立った戦果は上がっていません。
しかしそれは事前に予想されていた話ではありました。スイッチブレード300は軍事用としてはかなり小さな機体で、弾頭は40mmグレネード相当の大きさしかない上に成形炸薬ではないので、戦車や装甲車を破壊できません。装甲目標の撃破は最初から無理だと割り切った設計だったのです。
大きさ比較:自爆ドローン(徘徊型弾薬、自爆無人機)
- スイッチブレード300 重量2.5kg (※発射機や輸送バッグ含む)
- スイッチブレード600 重量15kg
- フェニックスゴースト 詳細不明
- ハーピー(イスラエル) 重量135kg (※ウクライナには未供与)
※注意:スイッチブレード300の飛翔体重量は製造会社エアロヴァイロンメント社や使用者であるアメリカ軍などに記載がない。スイッチブレード600の15kgは飛翔体重量。
※参考:ジャベリン対戦車ミサイル(飛翔体重量11.8kg)
非常に小さなスイッチブレード300は対人攻撃用です。つまり本来は暗殺作戦など特殊作戦用の兵器で、特殊部隊が敵陣奥深くに潜入して使う運用になります。
しかしウクライナではスイッチブレード300の戦果の動画はほとんど報告されていません。そして報告されたかと思えば威力が低いと分かる結果で、爆発しても機体の大部分が残ってしまうくらいで、残骸が回収されています。戦果報告よりも残骸の回収報告の方が多い状況です。
あまりにもスイッチブレード300の弾頭威力が低いので「商用ドローンの方が役に立つ」と言われている有り様ですが、この場合の商用ドローンとは産業用の大きめのマルチコプター型の機体に、対戦車手榴弾「RKG-3」を改造して姿勢安定用フィンを装着したドローン用小型爆弾「RKG-1600」を搭載するものを指します。
ウクライナ側がよく使っている商用の産業ドローンに相当する機種は、アエロロズヴィドカ(Аеророзвідка、ウクライナの軍隊にドローン空中偵察で協力する非政府組織)が運用するオクトコプター(回転翼が8個)の「R18」で、商用の産業ドローンと同じ民生部品を用いてウクライナ国内で組み立てられている機材です。
スイッチブレード300と武装した商用ドローンとの比較
ドローン用小型爆弾「RKG-1600」は重量1キログラムで弾頭は炸薬量567グラムの成形炸薬で、貫通力がRHA(均質圧延装甲)換算で220mmもあるので、敵戦車の爆発反応装甲が上手く作動しなければ天井装甲の貫通が狙えます。搭載した商用の産業ドローンは目標の真上で静止してから爆撃するという運用なので、相手が油断していないと攻撃は成功しませんが、ウクライナでの戦争が始まってから総数は少ないものの、対車両攻撃や対歩兵攻撃での戦果報告は幾つか上がっています。
これに対し自爆ドローン「スイッチブレード300」の弾頭重量は300グラムで内蔵炸薬量は不明ですが、おそらく150グラムくらいでしょう。炸薬の他は弾殻や調整破片の重量になります。これは一般的な対人手榴弾と同程度で、対戦車手榴弾がベースのRKG-1600の3分の1以下の破壊力しかありません。しかも成形炸薬でもないので装甲貫通力はゼロです。
ただしRKG-1600を運搬できる商用の産業ドローンはスイッチブレード300の3倍以上は大きく重いので(R18の場合おそらく5倍以上)、当たり前と言えば当たり前の結果です。そもそものシステム重量が違うので直接比較すべきではないのでしょう。また自爆ドローンは使い捨てですが、商用の産業ドローンは帰還して再出撃が可能です。
- アエロロズヴィドカ「R18」・・・2万ドル(約270万円)
- スイッチブレード300・・・6千ドル(約80万円)
R18の価格は商用の産業ドローンと同級として見れば妥当な金額です。ただし搭載するセンサー次第で大きく費用は変わってきます。スイッチブレード300は軍用ドローンとしては異例に安いですが非常に小さい機体ですし、使い捨てであることを考えると割高とも言えます。
結局のところスイッチブレード300は小型軽量な長所を生かして特殊部隊の潜入工作で使う機材であり、敵正規軍を正面から攻撃して戦果を上げるような使い方はできません。
未投入? スイッチブレード600とフェニックスゴースト
それでは大型のスイッチブレード600ならば、戦車を撃破可能な大きさの成形炸薬弾頭を搭載しているので戦果を上げられるのでは・・・となりそうなのですが、しかし現時点まで戦果報告が全くありません。破片も発見されていないので戦場に投入されているかどうかすら不明です。同じくウクライナへの供与が発表済みの自爆ドローン「フェニックスゴースト」に至っては、戦果報告どころか機体の形状すら全く不明のままです。
つまり現時点でウクライナの戦場では自爆ドローンはスイッチブレード300を含めてほとんど活躍していません。ロシア側の自爆ドローン「KUB-BLA」や「ランセット3」は大きさ的にはスイッチブレード600に近いサイズですが、戦場への投入は行われてはいますが目立つような大きな戦果は上がっていません。
ウクライナ軍とロシア軍の双方とも小型の自爆ドローンを投入していますが、大型の自爆ドローンはありません。2020年のナゴルノカラバフ戦争で投入されたイスラエルIAI社製の「ハーピー」「ハロップ」のような重量100kgを超える大型の自爆ドローンは、どちらも保有していないのです。
もし今後ウクライナの戦場に大型のものが投入されて戦果を上げれば、この戦場での自爆ドローンの評価もまた変わって来る可能性はあります。しかし正体不明のフェニックスゴーストがその大型の機体なのではと噂されていましたが、現時点では依然として正体不明のままです。
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