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ウクライナでロシア軍による使用が確認されたイラン製自爆ドローン「シャヘド136」の兄弟機

JSF軍事/生き物ライター
❶アメリカ中央軍、❷フーシ派、❸イラン革命防衛隊、❹ウクライナ軍、公式発表より

 9月に入り、以前から噂されていたイラン製ドローンをロシア軍がウクライナの戦場で使用し始めました。9月13日にウクライナが奪還したばかりのクピャンスク市でドローンの残骸が発見されましたが、それは間違いなくイラン製デルタ翼型自爆無人機の翼端安定板でした。

TOP画像解説

  1. イエメン沖で攻撃されたタンカーから発見された破片(2021年8月)
  2. フーシ派が公開した自爆無人機の翼端板(2021年3月)
  3. イランが公開した自爆無人機の翼端板(2021年12月)
  4. ウクライナで発見されたロシア軍の自爆無人機の破片(2022年9月)

ウクライナで発見された自爆無人機「ゲラン2」

ウクライナ軍の発表より、発見された無人機の破片(写真は上下逆)
ウクライナ軍の発表より、発見された無人機の破片(写真は上下逆)

 2022年9月13日にウクライナのクピャンスクで発見された無人機の破片の翼端板には大きく「М214」、その下に小さく「ГЕРАНЬ-2」と書かれてあります。ロシア語でГЕРАНЬは花のゼラニウムの意味で、おそらくこれがロシア軍での機体名称です。Мで始まる大きな番号の方は数字の異なる破片が複数見つかっているので、個別の機体番号だと推定されています。

ГЕРАНЬは発音が難しいのでカタカナ表記はギラニやゲランなど幾つかあるのですが、とりあえず当記事では機体名称と推定される文字列を「ゲラン2」と表記します。

参考:フーシ派のイラン製自爆無人機「ワイド」

参考比較 左:回収された破片(米中央軍発表)右:イラン製ドローン(フーシ派発表)
参考比較 左:回収された破片(米中央軍発表)右:イラン製ドローン(フーシ派発表)

 写真上と写真右下は2021年3月11日にイエメンの武装組織フーシ派が発表した自爆無人機「ワイド」です。写真左下は2021年8月6日にアメリカ中央軍が発表した資料の写真です。2021年7月29日にオマーン沖で何者かによる攻撃を受けたタンカー「マーサー・ストリート」から発見された無人機の破片です。翼端板の形状が一致しています。

 そしてこれは2022年9月13日にウクライナで発見された自爆無人機「ゲラン2」の翼端板の破片とも形状が一致しています。

フーシ派の機体名称はアラビア語で「脅威」を意味する言葉「وعيد」ですが発音が難しく、ラテン転写した場合「Wa'id」「Wa'eid」「Wa'aed」など複数の表記がありますが、この記事ではカタカナでの表記を「ワイド」としています。

【関連記事】

参考:イランの自爆無人機「シャへド136」

イラン革命防衛隊の公式発表より自爆無人機シャヘド136
イラン革命防衛隊の公式発表より自爆無人機シャヘド136

 2021年12月にイランが公開した動画でデルタ翼型自爆無人機「シャへド136」が公式に発表されました。形状はフーシ派の「ワイド」と細部の部品に到るまで全く同一です。イランとフーシ派の双方が否定していますが、「シャへド136」と「ワイド」は間違いなく同型機です。

ペルシャ語のシャヘド(شاهد)は目撃者・証言者の意味で、イスラム教の聖典コーランで言及されている神の使者の特徴の一つ。アラビア語でもほぼ近い発音で同じ意味の言葉がある。

 正式に公開されたのは「ワイド」が先でフーシ派は自分たちで開発したと主張していますが、彼らにそのような技術力は無く、後ろ盾であるイランから供与された「シャへド136」であることは明白です。

 そして「シャへド136」と「ワイド」はロシアの「ゲラン2」とも同型機ということになるので、この3つは名前を変えただけの三兄弟になります。

  • シャヘド(Shahed)・・・ペルシャ語で「目撃者」の意味。
  • ワイド(Wa'id)・・・アラビア語で「脅威」の意味。
  • ゲラン(Geran')・・・ロシア語で花の「ゼラニウム」の意味。

 なおシャヘド136とワイドの実機を見る限り、光学カメラが付いていません。またパッシブレーダーアンテナも見当たりません。すると徘徊型や遠隔操作型ではなくプログラム飛行型であり、GPSないしグロナスによる誘導で地上固定目標を狙う運用になると推定されます。

 しかしこのドローンは過去に2021年にイエメン沖で位置が動くタンカーへの攻撃に使用されたことがあるので、まだ確認されていない精密誘導用のセンサーを搭載した派生型が存在している可能性もあります。タンカー攻撃時にはその後の調査でもセンサーの破片は発見されていませんでした。ウクライナでも翼端板やエンジンの破片は発見されていますが、爆発で吹き飛んでいるのかセンサーは発見されていません。

追記:巡航速力の推定

 シャヘド136のスペックに付いて数値が公開されているのは全長4m・翼幅3m・航続距離2500km以上(フーシ派がワイドとして公開した数値)だけで、実は速力や重量などは公式には判明していません。そこで速力を推定する際に参考となるのは、同じデルタ翼型でプロペラ推進のドローンであるイスラエル製「ハーピー」「ハロップ」ですが、どちらも最高速度は時速400kmになります。

 ゆっくりと遅い速度で飛ぶグライダーのような長い直線翼を持つ他機種の無人機だと、トルコ製「バイラクタルTB2」は最高時速220km(巡航時速130km)なので、デルタ翼型のシャヘド136はグライダー直線翼型のバイラクタルTB2よりも高速を発揮できると考えられます。

 なおグライダー直線翼型のドローンでもアメリカ製「MQ-9リーパー」は最高時速480km(巡航時速280km)を発揮できますが、このクラスともなると離陸重量5トン近くもある大型機なのでエンジン出力が強力であり、せいぜい数百kgの重量のシャヘド136などとは比較できる対象ではなく、離陸重量650kgのバイラクタルTB2くらいまでを参考比較用とします。(※筆者の個人的な考えでの線引きです。)

シャヘド136の性能数値(推定含む)

  • 機体全長 4m (フーシ派の公開数値)
  • 機体全幅 3m (フーシ派の公開数値)
  • 全備重量 250~300kg(推定)
  • 弾頭重量 30~50kg(推定)
  • 航続距離 2500km以上 (フーシ派の公開数値) 
  • 最大速度 350~400km/h (推定)
  • 巡航速度 250~300km/h (推定)

※推定値はシャヘド136と形状が近い「ハーピー」「ハロップ」を参考にしたもので、明確な根拠はありません。またシャヘド136の判明している長い航続距離から、代償として弾頭重量は機体規模に比べて少ない(燃料搭載に重量を廻す)のではないかと思われます。

ウクライナ軍に撃墜されたゲラン2ことシャヘド136(推定)

外部参考記事:Not Only Shahed-136: a Detailed Study of Another Iranian Shahed-131 Kamikaze Drone Used by russia | Defense Express ※シャヘド136の前身でやや小型のシャヘド131もウクライナで確認されたとの情報。このシャヘド131がロシア名称「ゲラン1」である可能性。

軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人兵器(ドローン)、ロシア-ウクライナ戦争など、ニュースによく出る最新の軍事的なテーマに付いて兵器を中心に解説を行っています。

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