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日経MJさん、2018年8月3日付15面の記事、小売でフードバンク先行しているのは西友とコストコです

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
(写真:アフロ)

日経MJ 「ダイエーがフードバンク先行」とあるが、実際はコストコが10年以上前、西友が10年前から先行している

食品メーカーに長く勤めていたので、食品系バイヤーがよく読むという日経MJ(日経流通新聞)を購読している。ベトナムから帰国し、2018年8月3日付の本紙を見たところ、15面に「フードバンクとの連携広がる」「イオン系、食品ロス削減」という記事が掲載されていた。その中で、次の記述があった。

小売業界では、約90店で食品の寄付を受け付け、フードバンク団体に提供しているダイエーなどが先行する。

出典:日経MJ(日経流通新聞)2018年8月3日付15面「フードバンクとの連携広がる」「イオン系、食品ロス削減」

フードバンクとは、食品として食べられるものの、賞味期限接近などの様々な理由から商品として流通できないものを引き取り、食べ物を必要な個人や施設に届ける活動、もしくはそのような活動を行う団体を指す。

フードバンクの概要図(農林水産省HP)
フードバンクの概要図(農林水産省HP)

2008年から10年以上、フードバンクの活動に食品メーカーとして、あるいはフードバンク広報として携わり、全国のフードバンクに足を運んできた者として、この記述は事実と異なると考える。

以下、新聞記事を引用しながら述べていきたい。

2011年10月、日本初のフードバンク、セカンドハーベスト・ジャパン(2HJ)が代々木で開催したフードバンクシンポジウムで登壇する筆者(2HJスタッフ撮影)
2011年10月、日本初のフードバンク、セカンドハーベスト・ジャパン(2HJ)が代々木で開催したフードバンクシンポジウムで登壇する筆者(2HJスタッフ撮影)

2007年にはすでにコストコホールセールジャパンが食品を寄付

2007年8月1日付、読売新聞東京版夕刊12面を見ると、「コストコ」の名前で知られるコストコホールセールジャパンがフードバンク関西へ寄付をしている記述がある。

フードバンク関西では毎朝、会員制スーパー「コストコホールセールジャパン」から賞味期限内の食料品を引き取っている。パンや野菜はその日のうちに施設や団体に配る。配りきれない分は、温度管理された貯蔵庫に置き、なるべく早く届ける。「やむを得ず出た余剰品を寄付している。役に立つのであれば協力したい」と同スーパー(兵庫県尼崎市で)

出典:読売新聞東京版夕刊12面 2007年8月1日付 「ズームアップWEEKLY」広がる「フードバンク」よみがえる善意の食材

実は2007年以前から、コストコは寄付を始めている。

セカンドハーベスト・ジャパン(2HJ)から東京都の山谷(さんや)へ寄付されるパン(筆者撮影)
セカンドハーベスト・ジャパン(2HJ)から東京都の山谷(さんや)へ寄付されるパン(筆者撮影)

2005年3月27日付、朝日新聞大阪版朝刊36面を見ると、フードバンク関西で現在理事長を務める浅葉めぐみさんが、ボランティアとしてコストコへ行った時の衝撃が、投書欄に投稿されている。

「何ともったいない。これ、今までは廃棄されていたの?」。ボランティアとして初めて大型スーパーの裏口に食品を引き取りに行った時の率直な感想です。おいしそうなパンや野菜、果物などが、大きなカートに積まれていました。

NPOのフードバンク関西が、食品関連企業から余剰食品の無償提供を受け、ホームレスや母子緊急生活支援のNPO、児童養護施設などに無償で分配する活動を始めて2年になります。重数人のボランティアが交代で自分の車を運転し、食品の回収と配達をしています。1日平均100キロ前後、月に2トン近くの量になります。

出典:朝日新聞大阪版朝刊36面  2005年3月27日付 オピニオン(声)欄「各地に広がれ、フードバンク もったいない」浅葉めぐみさんの投稿

筆者は2015年5月25日に兵庫県庁からの依頼で食品ロスの講演をした。当日、兵庫県でフードバンク活動を行うフードバンク関西の浅葉さんに声をかけて、会場でフードドライブを行った。講演後、集まった食品を車に積んで、フードバンク関西を訪問した。

フードバンク関西(2015年5月25日当時。現在は移転。筆者撮影)
フードバンク関西(2015年5月25日当時。現在は移転。筆者撮影)

コストコが寄贈していたのは兵庫県だけではない。筆者が2011年秋から2014年まで広報を務めていたセカンドハーベスト・ジャパン(2HJ、東京都台東区)も同様だ。主にパン・野菜・果物などを頂いている。毎朝、千葉県と神奈川県の店舗へスタッフやボランティアドライバーがトラックで出向き、昼前後に戻ってくる。頂いた食料品は、福祉施設や個人の方に差し上げる。

2012年、2HJが東京都足立区の福祉施設に届けたパン(筆者撮影)
2012年、2HJが東京都足立区の福祉施設に届けたパン(筆者撮影)

コストコが寄付しているのは兵庫県や東京都だけではない。富山県やその他の都道府県でも、寄贈している。コストコの公式サイトを見ると、食料寄付活動を積極的にアピールしてはいない。筆者がフードバンクの広報の時も、途中まではテレビ取材を受けて下さっていたが、現在は出ていない。

ただ、セカンドハーベスト・ジャパンの代表、チャールズ・マクジルトンさんが出演した2017年12月14日放送のテレビ東京系「カンブリア宮殿」の番組紹介を見ると「コストコの人気パン」と書かれており、フードバンクに寄付していることは開示している。

西友は2009年からフードバンクへの協力を開始

合同会社 西友は、2009年からフードバンクへの食品提供をスタートしている。当初3店舗だったが、徐々に店舗数を増やし、現在は関東130店舗に寄付をしており、そのことを西友の公式サイトでも紹介している。

少人数で運営するフードバンク団体が、各店舗に取りに行くのは大変だ。そこで、西友では、物流センターに集約し、そこにフードバンク団体が取りに来るシステムにしている。

西友の食品寄付活動のバックフロー方式(合同会社 西友HP)
西友の食品寄付活動のバックフロー方式(合同会社 西友HP)

各店舗は、期限の接近した食品を、銀色の保冷バッグに入れておく。それが物流センターに集約される。

西友の物流センターに集約された寄付食品を福祉施設に運ぶフードバンクのトラック。この日はNHK「特報首都圏」のクルーが撮影した(筆者撮影)
西友の物流センターに集約された寄付食品を福祉施設に運ぶフードバンクのトラック。この日はNHK「特報首都圏」のクルーが撮影した(筆者撮影)

西友は2012年6月からフードバンクを本格化

西友がフードバンクへ食品を寄付していることに関する新聞記事は、2012年5月23日、時事通信で、初めて検索できる。

西友は23日、売れ残った食品・飲料を福祉施設などに無償で譲り渡す活動「フードバンク」に、6月から参加すると発表した。関東の37店から開始し、2016年までに関東圏の約150店全店に広げる計画。

出典:時事通信 2012年5月23日付 西友、「フードバンク」に参加 賞味・消費期限が近づいた加工食品を引き渡し

「加工食品」と書かれているが、実際には、賞味期限の長いものだけでなく、消費期限の短いお惣菜なども寄贈され、タイムリーにフードバンクが施設に運ぶことで、廃棄せずに活用されてきた。セカンドハーベスト・ジャパン(2HJ)が主催する会議やシンポジウムにも、社員が積極的に参加されている。

このような、コストコや西友などのスーパーから、フードバンク団体、セカンドハーベスト・ジャパン(2HJ)へ食品が寄付される様子は、2012年6月1日と4日、NHK「特報首都圏」で放映された(1日には首都圏のみ、4日は全国放送)。

2012年6月、コストコや西友で撮影された様子がNHK「特報首都圏」で放映された(セカンドハーベスト・ジャパン、筆者撮影)
2012年6月、コストコや西友で撮影された様子がNHK「特報首都圏」で放映された(セカンドハーベスト・ジャパン、筆者撮影)

生協や地域に根ざしたスーパーも以前から協力

全国で活動を展開する日本生活協同組合連合会。2015年度に15生協、2016年度に35生協がフードバンクに協力している。

山梨県のスーパー、「Aコープ」や「スーパーやまと」も、早くから、食品の寄付ボックスである「きずなBOX」を設置し、フードバンク山梨に寄贈している。静岡県のしずてつストアも、入り口にドラム缶型の食品寄付ボックスを設置し、溜まったら、フードバンクふじのくにが運んで必要なところで活用する。

中国・四国地方を中心に展開するハローズは2015年3月からフードバンクへの提供を開始した。

ダイエーがフードバンクへの協力を開始したのは今年2018年

このように、すでに10年以上前から、地道にフードバンクへの協力を継続してきた小売業がある。

対して、日経MJの記事で「小売業でフードバンクを先行している」と書かれているダイエーがフードバンクへの協力を始めたのは2018年1月だ。開始して半年なのに、なぜ「小売業界で先行している」と言えるのだろう。

2018年1月10日ダイエー発表 ~ 食品廃棄物削減に向けた取り組み ~ ダイエー「フードバンク活動団体との連携拡大」について

筆者は2016年10月に、イオングループスーパーマーケット15社の次世代経営幹部勉強会で食品ロスの講演をした。すでにその時点でイオングループの数社はフードバンクを始めていたし、ダイエーの方も参加され、関心を持ってくださっていた。

フードバンクへの協力が早いから優れていて、遅いからダメと言いたいのではない。ダイエーを責めているわけではない。記事の執筆について述べている。いったん配信されたマスメディアの記事は半永久的に残り、多くの人々がそれを「事実」とみなして引用していくのだ。マスメディアの記事では、可能な限り、調べて述べて欲しい。

過去30年間の主要メディアを検索できる日本最大級のビジネスデータサービス、G-Search(ジーサーチ)データサービスで調べると、2018年8月6日現在、「小売」「フードバンク」のキーワードで268件、「スーパー」「フードバンク」のキーワードで523件の記事がヒットする。どちらで検索しても、2005年〜2007年には、すでに小売がフードバンクを始めていたことが読み取れる。

今、フードバンクへの協力を始めたばかりの小売にも、もちろん、敬意を表したい。だが、「食品ロス」や「フードバンク」という言葉が今ほど注目を浴びていない時代から、地道にフードバンク活動に協力してきて、食品ロスを減らしてきた企業が、全国に何社も存在しているのだ。多くの人が記事を目にして引用するマスメディアに属している方は、最近、たまたま目についた企業だけでなく、これまで10年以上貢献してきた企業のことをきちんと調べてから記事を書いて欲しい。

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食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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