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子ども食堂へ食品を寄付するスーパーのフードバンク 1店舗月10〜15万円の廃棄コストと食品ロスを削減

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
ハローズの太田光一商品管理室長(左)と津高店の萬田篤史副店長(右)(筆者撮影)

地域の子どもたちに無料もしくは安価に食事を提供する子ども食堂が全国2286ヶ所あると、「こども食堂安心・安全向上委員会」が2018年4月3日、東京都内で発表した。この、子ども食堂へ積極的に食品を提供しているスーパーマーケットがある。岡山県早島町に本部を置く、株式会社ハローズだ。ハローズの太田光一商品管理室長と各店舗の店長・副店長、提供先の施設に取材した。

岡山県早島町に本部を置く株式会社ハローズ(筆者撮影)
岡山県早島町に本部を置く株式会社ハローズ(筆者撮影)

スーパーマーケット店舗に直接、施設が取りにくる「ハローズモデル」

「フードバンク」とは、まだ十分に食べられるにも関わらず、賞味期限接近や包装不良などの理由で商品として流通できない食品を企業などから引き取り、食べ物を必要としている人や組織に届ける活動、もしくはその活動をしている組織を指す。

岡山県岡山市では、2013年から生活協同組合おかやまコープがフードバンクに取り組んでいる。生活協同組合は、全国各地で取り組み時期も早く、熱心だ。

フードバンクの関係図(農林水産省公式サイトより)
フードバンクの関係図(農林水産省公式サイトより)

ハローズは、2015年からフードバンクへの食品提供を始めた。提供しているのは、ラベルが汚れたり、包装不良だったりなどで販売できない食品だ。現在は、岡山県、広島県、香川県を始めとした全77店舗が、子ども食堂やホームレス支援団体に提供している。2017年12月に提供した食品の量は約1.4トンにのぼる(山陽新聞 2017年12月31日付より)。また、スーパーや食品メーカーで悩みのタネである廃棄コストに関しては「1店舗当たり月間10万円から15万円に及ぶ」廃棄コストが削減できているという(日本経済新聞 2017年12月22日付より)。提供量が増えたため、当初は物流センターに集約して各フードバンクに取りに来てもらっていた仕組みを変え、施設の近くの店舗へ直接引き取りに来てもらう「ハローズモデル」にした。フードバンクの負担が軽くなった。

ハローズ全店舗で最も売上高の高い緑町店(筆者撮影)
ハローズ全店舗で最も売上高の高い緑町店(筆者撮影)

太田光一商品管理室長は、廃棄量を減らす目的で、3年前から全店舗77店の廃棄率を社内で公開している。食べられるものを廃棄するもったいなさに対し、従業員からの声も上がっていた。今では岡山県・広島県・香川県をはじめ、全77店舗で、障がい者施設や子ども食堂、ホームレス支援団体などへ食品を提供している。

その一つであるNPO「岡山・ホームレス支援きずな」。相談員の豊田佳菜枝さんは、月1回、ハローズ当新田町に食品を取りにきている。毎週土曜日に行なう炊き出しで活用する。また、フードバンク岡山ともコミュニケーションをとりながら食品を使っている。

ハローズ当新田町店長、若田真輝さん(右)と「岡山・ホームレス支援きずな」相談員の豊田佳菜枝さん(左)(筆者撮影)
ハローズ当新田町店長、若田真輝さん(右)と「岡山・ホームレス支援きずな」相談員の豊田佳菜枝さん(左)(筆者撮影)

生活に困っている人が食品を食べてくれることで食品ロス削減に貢献してくれている

ハローズから商品を受け取る、特定非営利活動法人、岡山・ホームレス支援きずなの相談員、豊田(とよだ)佳菜枝さんにお話を伺った。

現状では、月1回、ハローズ当新田町店に、ヨーグルトなどの食品を取りにきている。毎週土曜日に炊き出しをやっている。皆、おかわりするので、だいたい50〜60名分くらい。安楽亭で行なう火曜の会や、土曜のモーニングサービスなどで活用する。ホームレスの方は無償で、それ以外の人は、一人200円。

課題としては、片手間でやっていること。ボランティアでやっているが、これを組織的にできれば良い。自分の代わりがおらず、人のやりくりが難しい。車が運転できる人や仕組みづくりが必要。岡山市内には他にも障がい者施設があるので、もっとアピールしていきたい。市の社協はあるが、カップラーメンや缶詰などが主で、日持ちのしづらいデイリー食品はムリ。岡山県の社協が、市区町村の社協へ提供している。

今後は、地域で回すことが一番大事なことだと思っている。「地域」がキーワード。そこから自立していく。フードバンクも、会費というかたちで、負担していく。それを食べている困窮者の人たちも、食品ロスを消費している、ということで、助け手の一人になっている。シェルターから独立した人が、無料で、きずなの掃除をしてくれている。

出典:豊田さんのインタビュー概要

ハローズ当新田町店の店内にはカフェコーナーもある(筆者撮影)
ハローズ当新田町店の店内にはカフェコーナーもある(筆者撮影)

お客さまの忘れ物、保管して取りに来ないものは廃棄していたものを活用

ハローズ当新田町店長、若田真輝さんに話を聞いた。

毎週土曜日に、デイリー(日販品)と言われる、日持ちのしづらい食品をフードバンクに提供している。消費期限2〜3日前のもの。廃棄伝票を切った上で、玩具菓子や、へこ缶(缶詰の一部がへこんだもの)、箱がつぶれたものなどを出す。これまで2年間やっている。トイレットペーパーなど、お客さまが購入したけれど忘れていったもの。一定期間保管して置くが、買った時に購入の印としてテープを貼るため、もう使うことができない。そういったものも捨てずに活用している。

課題として、コストはかからないが、手間がかかる。ごみに関しては、毎朝、パッカー車が取りにくる。他の店舗では毎日来るところもあるが、ここの店舗は1週間に1度だけ。1店鋪で、月に100kgもごみが減っているところもある。(販売)チャンスロスは罪悪だと思っているので、お客様が買えないことのないよう、攻める発注をしている。

出典:若田さんインタビュー概要

フードバンクに提供する食品をまとめるハローズ緑町店長、井本昌希さん(筆者撮影)
フードバンクに提供する食品をまとめるハローズ緑町店長、井本昌希さん(筆者撮影)

一方通行の寄付ではなく、寄付先の障害者支援施設に仕事を依頼する双方向の関係

ハローズで最も売上高の高いという緑町店の店長、井本昌希さんに話を伺った。

デイリー(日持ちのしづらい食品)で、廃棄が60トン出る。総菜や、青果のクズ、カットフルーツ、豆腐、納豆など。見切り販売(値下げ販売)しても売れないものは、これまでは廃棄になっていた。それだと、従業員の士気も下がってしまう。

ヨーグルトや納豆などの発酵食品、大豆製品は賞味期限が短いため、食品ロスになりやすい(筆者撮影)
ヨーグルトや納豆などの発酵食品、大豆製品は賞味期限が短いため、食品ロスになりやすい(筆者撮影)

捨てればごみ、あげれば笑顔。ひと手間かかるのは事実。でも捨てるのは罪悪感がある。3年前からフードバンクをはじめた。Before→Afterで変わったのは、従業員から「これも出せますか?」と問いかけがあること。

障害者支援施設のB型であるDANKE(ダンケ)さんに寄付をしている。棄てないでフードバンクに寄付するのは、手間もかかるし、スペースも要る。面倒臭い。でも、ごみにならずに「ありがとう」と言われる。新聞記事にとりあげてもらうことで、従業員にフィードバックし、モチベーションにつながる。

課題としては、子ども食堂に寄附しても、その先でどうなっているのか(どう使われているのか)がわからないこと。通常業務と並行してやることなので、新しく何かをはじめるのは手間がかかる。

運送会社に、帰り便(トラックが荷物を運んだ帰りの空いている便)に寄付食品を載せてもらっている。DANKEさんは、会社にとっても店にとっても役に立つ。続けていけば、それが当たり前になる。食べ物を棄てない、ということ。

DANKEさんには、店の掃除をやってもらっている。草刈り。主に夏が多い。数カ月に1度。外注するとかかる時給より、DANKEさんだと4分の1くらいで済み、仕事も丁寧。

出典:井本さんのインタビュー概要

ハローズの太田光一商品管理室長(左)と津高店の萬田篤史副店長(右)(筆者撮影)
ハローズの太田光一商品管理室長(左)と津高店の萬田篤史副店長(右)(筆者撮影)

ハローズでは3年前から全店舗で廃棄率を公開している

ハローズ津高店副店長、萬田篤史さんにお話を伺った。

毎月7日に瀬戸内ファミリーホームというところが「フードバンクです」と言って取りにくる。多いとダンボール7箱、平均的にはダンボール2−3箱の食品を持っていく。

フードバンクへの協力は、会社として3年くらいやっている。ここの店では菓子類が多い。ガム、袋の破れ、穴が空いている、マヨネーズの賞味期限接近、へこ缶(缶詰の一部がへこんだもの)など。業務にまだ馴れていない社員が、ダンボール(ケース)ごと落っことして、缶詰(ミカンやコーン)がへこんでしまったりすることがある。

相手のニーズがわからないのが課題。どこに届いているのか?何がいいのか、何が喜ばれるのか。青果がまだ(フードバンクに)出せていない。見切り(値下げ)は時間と手間がかかるので、その手間が省けるのはいい。

将来の展望として、今はフードバンクに出せていない肉や魚、野菜などの生鮮食品も、もっと出せるようにしていけたらいい。

(売れるか売れないか)迷っている暇があったら、フードバンクに出せばいい。ハローズでは、全店舗、3年前から、廃棄率を公開している。朝に鮮度チェックをして、見切る(値下げ販売をする)。でも時間と手間がかかる。後ろ向きな作業。自分が主任の時には、見切り作業は、1日1時間まで、と決めていた。

出典:萬田さんのインタビュー概要

ハゴロモ株式会社 本社・福山工場から米飯とおにぎり用の海苔を受け取るフードバンク福山(筆者撮影)
ハゴロモ株式会社 本社・福山工場から米飯とおにぎり用の海苔を受け取るフードバンク福山(筆者撮影)

1kgの米飯が必要、でも製造ラインを一回まわすと15kg炊けてしまう

ハローズから紹介を受け、現在は米飯を寄付しているハゴロモ株式会社 本社・福山工場の常務取締役、向井由香里さんにお話を伺った。

今日炊いたご飯は、明日は使えない。釜が15kgなので、1kg必要でも、15kgを炊かないといけない。となれば、14kgが余ってしまう。1日、2便から3便体制。炊いては捨て、炊いては捨てる。新聞記事で、フードバンクの活動を知った。

岡山工場の米飯は支援団体のアリス福祉会が受け取り、福山工場の米飯はフードバンク福山が受け取る。

平成に入ってから30年近く、米飯の廃棄で悩んでいた。もったいない、廃棄コスト。月に10万円の廃棄コストがかかる。管理している表によれば「40kg」のはずだったのが、実際の現場では100kgもロスが出ていた。半年から一年かけて、徐々に減らしていった。中の人(社員)の意識が変わった。ごみのように扱っていたのが、可視化されてきた。見えなかったのが、数字ではなく、モノとして見えるようになってきた。地域に何かをしたい。

今後は、

1、冷蔵車や冷凍車が欲しい。

2、地域のコミュニティが欲しい。行政が入って、そういうところを作ってほしい。

中学校では弁当なので、(食べ物が家に無くて)ゆで卵4つ持ってくるような子もいる。

出典:ハゴロモ株式会社、向井さんのインタビュー概要

アリス福祉会の稲見圭紅さん(左)と、ハローズ太田室長から話を聞き、2017年12月から食品提供を始めた株式会社仁科百貨店、フードバスケット連島中央店店長の宮根未央さん(右)(筆者撮影)
アリス福祉会の稲見圭紅さん(左)と、ハローズ太田室長から話を聞き、2017年12月から食品提供を始めた株式会社仁科百貨店、フードバスケット連島中央店店長の宮根未央さん(右)(筆者撮影)

スーパーの競合同士で話せるのは唯一、食品ロスのことだけ

障害者支援施設のアリス福祉会、稲見圭紅(いなみ・けいこ)さんに伺った。

2017年9月30日から、ハゴロモ株式会社の米飯をいただいている。自分は、フードバンクに対しては、もともと否定的だった。倉庫を持たないフードバンクもある。

2017年9月中旬、岡山エコマインドネットワーク(環境団体)主催で、初めて、ハローズの太田さんに会った。「(ハゴロモに)ご飯がある」と聞いた。フードバンク岡山でも順正学園でも、炊いたご飯は使わない、と言うので、アリス福祉会で受けとることになった。

アリス福祉会では、ハローズからも毎日、食品を受けとっている。広江、羽島、連島、新倉の4店舗。ある社会福祉協議会(社協)も、ごはんがほしいというので、「取りにきたら」と言ったが、これまでの数ヶ月間で1回しか取りに来たことがない。

ハローズへは、毎月7日に取りに行く。ハローズの日用品(お客さんの忘れ物)、杖なんかも使われている。2017年9月30日(に初めてご飯をいただいてから)食べ物の神様がきているかのよう。若い母親ほど賞味期限を守る。

(食品を受け取る受益者から資金を徴収することについて)経費が要るのはわかる。フードバンクの代表が福祉畑の人だと、そんなに(活動を)広げられない。生活保護以下の方を助けたい。廃棄物の世界では、岡山市が先を行っていて、岡山県が遅れている。倉敷市にある組織では、引き取った衣料品などが余ってしまい、不良在庫を抱えている。ウエス(汚れを拭き取るための布)になってしまっている。

今後はドラッグストアに入っていきたい。(日本人は)棄てる感覚がおかしくなっている。買っては捨てる。スーパーでは、競合会社同士で話せるのは唯一、食品ロスのことだけ。ちっちゃい単位できっちりやる。確実にしていくことで、未来は拓けていく。

出典:稲見さんインタビュー概要

店舗によっては加工食品だけではなく生鮮食品も提供している(筆者撮影)
店舗によっては加工食品だけではなく生鮮食品も提供している(筆者撮影)

印象に残った「お客さまの忘れ物」と障害者支援施設との双方向の関係性、夜間勤務を希望するひとり親家庭の母親

取材を終えてみて、いろいろ考えるところがあった。特に印象深かったことを3つ挙げる。

1、障害者支援施設と双方向の関係性

障害者支援施設へ、食べ物を提供するという一方方向の関係ではなく、逆に施設側から人材を提供してもらい、仕事を委託している、という点だ。この双方向の関係性を保っているのはとても望ましいと思った。

2、夜間勤務を希望するひとり親が多い

ハローズは24時間営業をしており、「ナイト」と呼ばれる22時から朝7時・8時までの勤務者がいる。その時間帯への希望としてシングルマザーが多いと太田室長が語っていた。昼の時間帯より、時給が200円近く高いこと。また、業務内容として、接客がなく、陳列作業だけであることが理由の一つではないかということだった。他人に働いている姿を見られたくない人にとって、レジではない品出し作業は「人に顔を見られない」という利点がある。ひとり親世帯の現状を垣間見た気がした。

3、客の忘れ物は一定期間保管してから活用

以前、ハローズでは、顧客が買ったのに忘れていった品物は、一定期間保管し、誰も取りにこなければ廃棄していたという。それを、フードバンクをきっかけに、廃棄せずに活用するようになった。実際、取材したときに、提供食品の中にガムを見つけて、社員の方に「ガムは賞味期限ないですよね?」と聞いたら、「これはお客さんの忘れ物です」とのことだった。他のスーパーはどうしているのだろう、という疑問がわいた。

「食品ロス」と「貧困」がゼロになればフードバンクは要らない

「食品ロス」と「貧困」という2つの社会的課題と、それを繋ぐ「フードバンク」という存在。これら2つの社会的課題が、世の中から全く無くなったら、フードバンクは要らない。両方が存在することが、フードバンクが存在する前提である。もともと1967年に米国で始まったフードバンクは、この2つを解決しようとして生まれたわけではなかった。たまたまスーパーで余っている食品があり、たまたま困っている人がいて、「こっちで余っていて、困っている人がいるなら、余っているのを使ったら?」というのが始まりである。2つの社会的課題をゼロにするのは難しい。でも、これら「食品ロス」や「貧困」が、活動を通して、徐々に少なくなっていくのが理想ではないだろうか。

2015年9月の国連サミットで採択されたSDGs(エスディージーズ)の12番目は「つくる責任 つかう責任」。作り過ぎない、売り過ぎない、買い過ぎない。

SDGs(エスディージーズ)の12番目は「つくる責任 つかう責任」(国連広報センター)
SDGs(エスディージーズ)の12番目は「つくる責任 つかう責任」(国連広報センター)

再利用しながらリデュース(減らす)ことが大切

環境配慮の原則では「3R」(スリーアール・さんアール)と言われる。環境省も3Rを啓発するウェブサイトを立ち上げている。びん再使用ネットワークのウェブサイトに示されているイラストがわかりやすい。3Rの優先順位は、最優先がReduce(リデュース:減らす)。次がReuse(リユース:再利用)。最後がRecycle(リサイクル:再資源化)。ハローズでは、Reuse(リユース:再利用)することにより、Reduce(リデュース:減らす)に繋げている。とはいえ、惣菜は消費期限が短か過ぎるため、提供していないという。

また、全国の多くの小売店は「販売機会ロス」を優先し、足りなくなるのを恐れ、「食品ロス」対策は二の次になる場合もある。ぜひ「リデュース:減らす」が最優先であることを心がけて頂き、食に関わる企業として、これからも地域に貢献していって欲しいと願っている。

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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