スーパーマーケットで食べ物捨てずに「ゆるく細く長く」自然体で惣菜作りと0円キッチン「寛容な社会に」
スーパーマーケットでは、日配品(デイリー)と呼ばれる日持ちの短い商品は、販売できる期間が短い。5日以内の日持ちの食品には「消費期限」の日付が印字されており、その日が来る以前に売り切らなければ廃棄になってしまう。そこで、見切り販売と言われる、値下げをして売り切る努力をする場合が多い。しかし、値引きするためのシールにもコストはかかるし、選別するための人件費もコストとなる。野菜や果物などの青果物は、特に日持ちが短い。そのような青果物を、お惣菜や、地域コミュニティの活動に活かしているスーパーがある。香川県三豊市(みとよし)仁尾町でスーパーマーケットを運営している、株式会社イマガワの取締役、今川宗一郎氏を訪ねて話を伺った。
食品ロス削減はスーパーマーケットがリーダーシップを取るのがいい
ー(筆者)地域で取り組んでいて、全国的にはあまり知られていない取り組みを、広く多くの人に知ってもらいたいと思って、取材しています。
今川宗一郎氏(以下、今川):あー、ありがとうございます。誰に見てもらいたいか、(食品ロス問題を)解決しようとなると、同業者が早いな、と。家庭だと「スーパーの方がめっちゃ捨ててるやん、コンビニ捨ててるやん」って思ってると思うので、先にスーパーが(食品ロス削減の取り組みを)やった方が、浸透していくのかな、という気がしました。
ーロスはどれくらい出てるんですか?
今川:ロス自体は少ないです。というのも、賞味期限が近いものは、全部、お惣菜にしていくんです。野菜とか。もともと祖父が創業者で、戦時中の人なので、昔からの「もったいない」という感覚があって。捨てない文化、がある家で。うちの実家の冷蔵庫では、賞味期限が切れてても、捨てないで使っていってます。昔からそういう感覚なんで、そういう祖父の影響があるかもしれません。
今川:捨てないで活用する、っていう。だって、(野菜が)3分の1傷んでても、3分の2は使えるじゃないですか。そういうのをお惣菜にしていけば。
生鮮(食品)の売り場を大きくしていきたいと思っています。
(売れないことが予想できそうな加工食品を無理に売ろうとすることを目の当たりにして)食の本質的な意味とか、何のためにあるのか、ということをすごく考えるんですよね。お金とか、売り上げとかの問題だとは思うんですけど、作っては捨てて、、(の繰り返し)というのは「何のための食なんやろ」と。
ースーパーまるまつ(福岡県柳川市)を取材したときも、「生鮮(中心)でやっていきたい」とおっしゃっていました。社長が、自分が「美味しい」と思うものを、朝4時に市場に行って仕入れています。海がシケで魚が獲れない時、大手(のスーパー)だと、数合わせで買うと。高かろうが古かろうが。でも、まるまつさんは「まずくて古くて高いものをお客さんに買わせることになるから、それはしない」と。
今川:へー。それは、僕、共感できますね。いいと思います。理想は地産地消で、地産地消をやろうとすると、生鮮が多い方が絶対いいですよね。
ーそうですね。まるまつさんも、野菜売り場見たときに、だいたい、福岡県産か、宮崎とか、九州のものが多かったです。
野菜の鮮度が落ちる前にお惣菜や「0円キッチン」で活用する
今川:僕は今、こっち(ショップングストア今川)の取締役になってて、瀬戸内0円キッチンをやっているのは一般社団法人 誇(ほこり)で、そっちの代表なんです。
(瀬戸内0円キッチンは、余った食材を捨てずに活用し、月一回、香川県三豊市で料理を作って集まるイベント。ショッピングストア今川は、このイベントにも野菜を提供している)
ー瀬戸内0円キッチンは昨年(2017年)の1月から始めたんですよね。
今川:はい。毎月「あさって0円キッチンやるけん」って(店に)言ったら「ふーん」って言って、野菜とか出してくれますね。
ー普段は鮮度が落ちたものは見切り(値下げ)販売されるんですか?
今川:見切りというより、(野菜の)鮮度が落ちる前にお惣菜で使ってしまいますから。
ーキッチンで。
今川:そうなんです。だいぶ傷んでしまったら捨てるしかないんで。そっちは惣菜で頑張って使うという感じですね。
ー惣菜自体は売り切りタイプ?
今川:売り切りタイプです。
シェアビレッジを会場にして開催する「瀬戸内0円キッチン」
ーこれまで一年くらい「瀬戸内0円キッチン」やって来られて、何か周囲からの反応はありますか?
今川:昨年一年間は地元でやらなかったんで、地元の皆さんはあまり知らないんですよね。香川県で(やる)イベントに来てくれた人だけが知っているっていう。認知度上がって、これからかなあ、って。
ースタッフの一人が「今日は高齢者(の参加)が多い」って言ってたんですけど。。
今川:これまではコラボする(コラボレーションする:連携する)ことが多かったんですよね。大学生とコラボしたり、児童館とコラボしたり。イベントスペース使わせてもらったり。先月は若め(の参加)が多かったんです。でもこの前は高齢者が多かったですね。なんでだろう。わからない(笑)その時による。子どもたちがいると面白いんですよね。ああやって、皆で食べるっていうのは楽しいなあって。ただ、0円キッチンの難しいところは、作り手が少ないんですよ。僕らがやると、いつも2人とか3人とか。給食当番みたいな(笑)
「全然あせらずに、ゆるく、細く、長く。それを捨てない文化に」
今川:理想は、シェフさんが来てくれたら・・・作り手によって違うので。いつも平日の晩に開催するんで、平日の昼に料理できる人はなかなかいないので。
ーじゃあ、この一年は、あそこの(会場となった)松賀屋さんで続けていくんですね。
今川:そうですね。全然あせらずに。ゆるく、細く、長く。それが「文化」になっていくのが一番理想だと思うんですよね。捨てない風土作り。 全員が無理のない範囲でやろう、という。
ー(会場となった)松賀屋さんの持続性はどうやって保っているのですか?
今川:僕たち(一般社団法人 誇)は、シェアビレッジと言って、古民家を改築してインターネット上でお金を募って「会員制宿泊施設」をやっているんです。その宿泊費で運営しているんです。
ーへえ。どのくらいのキャパシティ(受け入れ人数)があるんですか?
今川:400人とか、550人とか。まだまだ赤字なんで、黒字にしたいなあと。
ーでも(古民家のリノベーション)すごいですね。結構、ハードル高くないですか?
今川:そうなんです。ハードル高いんです。「0円キッチン」で事業できないかなあって。
会場の近くは若い女性が殺到する超人気の「日本のウユニ塩湖」
ーたまたまここ来る時、女子大生3人がバスに乗ってたんですよ。「やばいやばい、年金もらえないかもしれない」って繰り返し言ってて。「いい会社入って、結婚なんてお見合いでもいいから」「私は公務員になる」って。この人たち、もしかして0円キッチンに来るのかなと思ったら、先に行ったので。どの辺まで行ったのかなって思って。
今川:最近、ここの先の海にめっちゃ(人が)来るんですよ。父母ヶ浜(ちちぶがはま)って言うんですけど。「日本のウユニ塩湖」って言われてて。若い子めっちゃ来てて。うちもその近くでかき氷屋やってるんですけど、お客さんの3割くらいは外国人ですね。
ー皆さん、松賀屋の活動は、本業の傍らなさってるんですね。
今川:はい。着物着てた佐藤(はなさん)が常駐スタッフです。彼女を雇用してるんです。
今川:結構、広いんで、修繕費もバカにならないんです。小さい古民家だったらいいんですけど。
ー松賀屋さんは結構、広いんですね。あそこ(会場)しか入ってないからわからなかったですけど。
今川:全部で837坪あります。奥すごく広くって。このお店(ショッピングストア今川)2つくらいあります。
ー行政では、京都市が、空き家を見つけてリノベーションしてましたけど、そういうのはないんですか?
今川:行政はですね、しないですね。「民間でやって」っていう感じで。(空き家自体は)たくさんあるんですよ。食料廃棄対策みたいな事業があったらいいなあ、と思います。
「瀬戸内0円キッチン」でカレー屋をやりたい
ー広島のフードバンク(あいあいねっと)は、(もう引っ越したけれど)築100年以上の古民家を改築して、余った食材を使って、レストランを運営していたんですよ。(中略)持続可能性っていうのは大事ですよね。
今川:僕は「0円キッチン」でカレー屋やりたいと思ってるんですよね。カレー、嫌いな人いないんで。0円キッチンみたいなカレーを開発して、それをビジネスにしようかって考えてるんです。「シメはこれ」って。子どもたちも食べられると思うんです。そういう(食品ロスの)課題解決があってもいいんじゃないかって。カレーを売るんじゃなくって、コンセプトを売るっていう感じで。「もったいない」と思う人たちに買ってもらう。
ー東京でも、余った食材を使って料理してみんなで食べるイベントがあります。私の知り合いがやってるのは、「(金額)いくらでもいいですよ」っていうもの。だいたいみんな2,000〜3,000円出すみたいです。でも「瀬戸内0円キッチン」は安いですよね。大人が500円。それはここ(この土地)だから?
今川:いや、そんなことはないですよ。もともと、子ども食堂やろうって話してたんです。子ども食堂って、どこも「(大人)500円(子ども)100円」だから、それにしたっていう。子どもが来やすい金額にしてるんで。どちらかっていうと。単価上げてもいいんですけど、かと言って、食料廃棄みたいな(問題を)やるんで、そこに対して、この辺の人たちが、価値を(見出して)「これ3,000円だね」って言うかって・・・出しても1,000円くらいかなって。うどん文化なんで。カレーはやりたいですね。
ー東京だと、有楽町の駅前で骨董市が開催される時、バンみたいな車に乗ってくるカレー屋さんが出店しますね。
今川:保健所の関係は難しいですね。もし何か食中毒があったら飲食店の方に(影響が)行くんで、飲食店ではやらないでくださいって(保健所に)言われました。でも、飲食店さんでやる方が、キッチンとか、全部揃ってるんで、いいんですけどね。
ーたぶん、お金をとる(形だ)からじゃないですかね。フードバンクの炊き出しだと、(お弁当と違って)その場で食べるし、お金をとらないから(営業じゃないから)保健所としてはOKって言う。
今川:そうですね。でも、ただ(無料)ではできないんで。でも10人来ても5,000円ですからね。(料理に)丸一日かかって。
「子ども食堂」を謳わないで子どもが行きやすい老若男女が集まる場所づくり
今川:僕らもようやく子育て支援の人たちと繋がり出してきて。来年度(平成30年度。インタビュー時は平成29年度)の動きとしては、子育て支援と0円キッチンを組み合わせて、必要な子どもたちの受け皿になるような動きをしようとしてて。それやったら、みんな団欒で食べられるし。貧困が見えづらくなるじゃないですか。食料廃棄を「みんなでなくそう」っていうコンセプトで。子ども食堂を始めやろうとしてたのは、(でもやらなかったのは)貧困対策みたいになるのが嫌だったんです。「行ってる子どもたちはみな貧困」みたいな。
(カメラマンの久米紳介氏)僕も聞いた話だと、気まずい、罪悪感を抱えて食べてるところがあるって。恵んでもらってるっていうところもあるのがどうかなって。
今川:0円キッチン(の形)にしたら、何がいいかっていうと、みんなが参加型なんです。みんなで(食品ロスを)救う側なんで。みんな胃袋持って来てねって。なんで僕やろうと思ったんです。0円キッチンというものを広めていけば、自然と、そういう子どもたちも行きやすい場所になるんじゃないかっていう仮説を立てて始めたんです。だから本質的には子どもの貧困を無くしたいっていう、でも、そこは見えないようにして。手段として、方法として、始めたんです。
子ども食堂自体はすごく意義あると思うんですよね。都会の場合だとある程度機能すると思うんです。でも田舎だと、どこの誰が行ってるか、わかるんですよね。それって、誰がつらいかって、親御さんとしては行きづらいじゃないですか、そういうイメージがついてると。実際、やってたとこあるんですけど、1年くらいで辞めちゃったみたいです。(0円キッチンは)窓口を広くしてるんで。最終は、やろうとしてることは(子ども食堂と)一緒っていう。
あと、大人と一緒に食べるじゃないですか。それが大事だと思ってて。そういう支援が必要な子どもたちって、ひとり親の可能性が高い。片親で、一日中働いているお母さんだと、愛情をいっぱいにかけてあげられない場合もあると思うんです。だから大人たちの中で一緒に食べて、会話しながらコミュニケーションしながら、社会全体で、目をかけてあげるっていうものに、0円キッチンが裏の意味でなっていったらいいなあって。
0円キッチンは意識高い系が来てるって言われることあるんですよ。確かに、普通、やろうとは思わない、そういう社会的課題に関心ある人が来てるのは確かなんですけど、そういう人たちが集まっていれば、子どもたちの貧困とは全く関係ないじゃないですか。今から子育て支援と手を組んでやれば、いい感じになるかなあと。セカンドハーベスト・ジャパンも、ホームページとか見てて「やりたいこと一緒やん」って思ったけど、手段が違うだけで。僕も貧困に興味あったりしたんで。いいなあと思いながら見てました。
もうちょっと寛容な社会に
ー社会に呼びかけたいことはありますか?
今川:まあ、もうちょっと寛容な社会になったらいいなあと思いますね。 賞味期限に対してもそうですし、みんながちょっとずつ「まあ、いいじゃない」「食べられるじゃない」って。
みんながみんなを監視してる感じが(今は)あるんで、苦しいじゃないですか。もうちょっと寛容な社会になったら、もうちょっとゆとりができるんじゃないかなあって。これだけ廃棄があって、(寛容な社会になれば)今よりかは、いい環境ができると思いますよ。
インタビューを終えて
「ゆるく細く長く(続ける)」という言葉と、「もうちょっと寛容な社会に」という言葉が印象に残った。何でも規則でがんじがらめにしたり、リスクをゼロにするため「リスクがあるくらいなら捨ててしまおう」と廃棄してしまったり、いろいろ息苦しい世の中だが、自然体で、無理なく続けるショッピングストア今川のような活動が、全国のスーパーに広がっていって欲しいなあ・・・と思った。
撮影:久米紳介氏
参考記事・ウェブサイト: