北朝鮮の新型長距離巡航ミサイル、3つの疑問点
北朝鮮の労働新聞が9月13日、新型の長距離巡航ミサイルの発射実験が11日と12日に行われ、成功したと報じた。だが、このミサイルをめぐっては、いくつもの疑問点が残る。特に大事とみられる3つの疑問点をまとめてみた。
①核弾頭は搭載できるのか
労働新聞はこの新たな長距離巡航ミサイルを「戦略兵器」と明言した。戦略兵器とは、大陸間弾道ミサイル(ICBM)や潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)、核ミサイル搭載可能な爆撃機、原子力潜水艦など敵国に重大な損害を与えられる兵器を指す。しかし、労働新聞はこのミサイルの弾頭についての情報を一切提供しなかった。
はたして、この新型巡航ミサイルは核弾頭を搭載できるのか。
筆者が東京特派員を務める英軍事誌ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリーは労働新聞に掲載されたミサイルの写真を分析した。それによると、全長は約6メートル。ミサイル先端は丸みを帯びており、2つの後退翼がミサイルの中ほどに付いている。ミサイル後方の底面にエンジン空気吸収口があり、尻すぼみ形状となったミサイル後部には3枚の尾翼がある。これらの形状はアメリカの巡航ミサイル「トマホーク」に酷似している。
日本の2021年度版防衛白書は「北朝鮮は核兵器の小型化・弾頭化の実現に至っているとみられる」と述べる。韓国の「2020国防白書」も「北朝鮮の核兵器の小型化能力は相当なレベルに達している」との分析結果を示している。
新型巡航ミサイルが日本のほぼ全土を射程に収めるとみられる中、核弾頭が搭載された場合には日本にとって、さらなる深刻な脅威になる。
②ミサイルをどのように誘導したのか
労働新聞はミサイルが楕円と8の字型の軌道に沿って、2時間以上も1500キロの距離を飛行を続け、標的に命中したと伝えた。この間、ミサイルをいったいどのように誘導したのか。
労働新聞は「複合誘導結合方式」とだけ短く説明した。ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリーでは、これは慣性航法システム(INS)と地形照合(TECOM)のコンビネーションを意味するのではないかと推察している。
しかし、専門家の間でも見方が分かれている。英シンクタンク、国際戦略研究所(IISS)のジョセフ・デンプシー研究員は、北朝鮮関連の専門ニュースサイト「NK News」に対し、「ミサイルに搭載された航行システムが、高度な地形追従誘導よりも単純なGPSの通過点を利用した可能性が残っている」と述べている。
はたして北朝鮮も中国のようにミサイル誘導に測位衛星を使っているのだろうか。
③北朝鮮に核分裂性物質は十分にあるのか
北朝鮮の新型巡航ミサイルが核弾頭を搭載できるとしても、北朝鮮には核兵器に利用可能な核分裂性物質がはたして十分に製造できているのか。北朝鮮はこれまでICBMなど弾道ミサイルの開発製造にも力を入れてきた。弾道ミサイルに加え、巡航ミサイルにも利用できるほどの核分裂性物質を手に入れているのか。より迎撃が難しいとされる弾道ミサイルに核分裂性物質をより充当することになるのではないか。
北朝鮮は新型巡航ミサイルの発射試験に成功したと言えども、疑問は残る。
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