Yahoo!ニュース

『他力本願』=”人まかせ”は間違い 本来の意味は?【記者的言葉解説】

コティマムフリー記者(元テレビ局芸能記者)

 日々、原稿を書いている者として、注目すべきニュースが飛び込んできました。それは、「鹿児島県選挙管理委員会が作成した知事選啓発ポスターに出された抗議文」です。

 南日本新聞によると、本願寺鹿児島別院(西本願寺)と真宗教団連合鹿児島支部が6月19日、鹿児島県選挙管理委員会に抗議文を提出したとのこと。理由は、同選管が作成したポスターに登場する“架空の4人の知事”の1人が、「他力本願知事」と紹介されていたからです。

――「他力本願」と紹介された知事。何が問題なのでしょうか?

 この記事では、執筆記事1万本以上、取材経験5000回以上の元テレビ局芸能記者で現・フリー記者のコティマムが、『ニュース記事に使われている何気ない言葉』を解説。今回は抗議文が出された「他力本願」という言葉について解説します。(構成・文=コティマム)

『他力』の本来の意味は『仏の力』

出典:フォトAC
出典:フォトAC

 筆者もこのポスターの画像を見てみたのですが、ポスターには架空の4人の知事が登場しています。

 1人はなんでもギャグを連発する「親父ギャグ知事」。もう1人は人間ではなく、「犬知事」。さらには、こちらも人間ではない”知事系VTuber”のバーチャル知事。そして今回問題になっているのが、七夕の短冊に「鹿児島がもっと良くなりますように!!」とお願い事を書いている知事。”人まかせにしている知事”という意味で、「他力本願知事」と紹介されています。

出典:フォトAC
出典:フォトAC

 どの候補者も頼りなさそうであることから、キャッチコピーは「知事って誰でもいい?・・・わけない!!」と掲げられ、選挙に行く重要性を呼びかけているポスターです。

 しかし、この「他力本願知事」について、西本願寺と真宗教団連合鹿児島支部が抗議したのです。――なぜ仏教の教団が? 意外な団体からの抗議に驚きますが、実は「他力本願」は仏教用語。そして、よく使われている「人まかせ」や「丸投げ」「無責任」などという意味とは真逆なのです。

出典:フォトAC
出典:フォトAC

  大辞泉(小学館)によると、『他力本願』という言葉は

1 《他力(阿弥陀仏)の本願の意》仏語。自らの修行の功徳によって悟りを得るのでなく、阿弥陀仏の本願によって救済されること。浄土教の言葉。
2 《誤用が定着したものか》俗に、自分の努力でするのではなく、他人がしてくれることに期待をかけること。人まかせ。

と解説されています。つまり、本来は「阿弥陀仏の本願によって救済されること」という意味なのです。

 西本願寺の公式サイトでも、「仏教語豆事典」で

親鸞聖人(しんらんしょうにん)は『教行信証(きょうぎょうしんしょう)』に「他力(たりき)といふは如来(にょらい)の本願力(ほんがんりき)なり」と明示しておられます。

 だから、他力とは、他人の力ではなく、仏の力、阿弥陀仏(あみだぶつ)の慈悲のはたらきをいうのです。

 仏さまの生きとし生けるものを救わずにはおれないという強い願いのはたらき、これが「他力本願」なのです。

 と解説しています。つまり、「他力」=「他人の力」ではなく、「仏の力」「阿弥陀仏の慈悲のはたらき」のことなので、「人まかせ」にしているという意味は誤用になるのです。

 ただ、大辞泉で「《誤用が定着したものか》俗に、自分の努力でするのではなく、他人がしてくれることに期待をかけること。人まかせ」と書かれているように、現在は「人まかせ」の意味が広く知られていて使われています。

『こだわり』や『敷居が高い』も間違いやすい

出典:フォトAC
出典:フォトAC

『他力本願』のように、本来の意味とは間違って使われている言葉はたくさんあります。

 例えば、”特別な思い入れ”などの意味で使われる『こだわり』という言葉も、実はもともとはネガティブな意味で使われていました。また、高級店などに行く時に「入りづらいなぁ」とためらう際に使われる『敷居が高い』も、本来は意味が違います。

 また、「話のさわり」「音楽のさわり」などで使われる『さわり』や、『役不足』『うがった』『破天荒』などの意味も、今持たれているイメージとは本来の意味が違います。これらの言葉の解説は、また改めてご紹介しますね。

まとめ

出典:フォトAC
出典:フォトAC

  普段何気なく使う言葉でも、実は本来の意味が間違っていたり、「誤用が定着したものだった」ということがあります。今回の『他力本願』は、ポスターを通じて本来とは違う意味が広まってしまう恐れから、抗議が出されたようです。

 筆者も記事を書く際に、「本来の意味をきちんと調べなければ」と今回のニュースを機に改めて感じました。こうした間違いやすい言葉について、今後も記事にしていきます。

 言葉に関する記事については、「『子供』と『子ども』どっちで書く?―「こども家庭庁」の推奨は『こども』【記者的言葉解説】」もご覧ください。間違いやすい言葉については、「『アンケート調査』という言葉――どこが間違っている?【意外な重複表現】」もぜひチェックを!

※スマホからご覧の方は、プロフィールからフォローしていただくと最新記事の見逃しがなくおすすめです。リアクションボタンもプッシュしていただけると、励みになります!

参照:浄土真宗本願寺派「仏教語豆辞典」

フリー記者(元テレビ局芸能記者)

元テレビ局芸能記者で、現・フリーランス記者。歌舞伎や舞台、芸能イベント、企業・経営者を取材中。記者目線ならではの“言葉のお話”や、個人的に取材したおもしろ情報を発信していきます♪執筆記事1万本以上。取材は5200回以上。現在は『ENCOUNT』、小学館『DIME WELLBEING』、舞台評、企業HP制作など多岐に渡り執筆中。過去媒体にテレ朝ニュース、キャリコネニュース、音楽雑誌『bounce』など。24年11月に合同会社パラレルコネクトの設立メンバーに。メディアやインフルエンサーと企業をつなぐサポートもしています!

コティマムの最近の記事