「改悪」続く楽天経済圏、他社が割り込むチャンスか
11月11日に楽天グループが発表した7-9月期決算では、「楽天経済圏」の拡大が続いていることが分かりました。一方で、ポイントなどの「改悪」も話題になっています。他社が割り込むチャンスはあるのでしょうか。
楽天市場でのポイント付与は、2022年4月から「税抜100円ごとに1ポイント」に変更。これまでの「税込」に対してわずかに減ることになります。複数サービスの利用で楽天市場でのポイント付与率が高まる「SPU」では、11月から「楽天ビューティー」が0.5倍になるなど引き下げが続いています。
楽天の金融事業の強みといえば、カード、銀行、証券などの連携ですが、これに対抗する動きも出てきました。たとえばKDDIはauじぶん銀行を中心に、au PAYやカード、証券を連携させることで、普通預金金利として楽天銀行と楽天証券の連携による0.10%を上回る「0.20%」を打ち出しました。
投資信託のクレジット決済は楽天証券が先行しており、2018年に始まった際には筆者も飛びついたのですが、いまでは投信積立設定の77%がクレジット利用とのこと。一方、証券口座数で上回るSBI証券は6月に三井住友カードと組んで同様のサービスを開始。投資信託ではバンガードと組んで楽天より低コストの商品を増やしており、資産形成やFIREブームの中でこれから積み立てを始める人にアピールしています。
楽天カードは10月に発行枚数が2400万枚を突破し、2枚目発行も好調とのこと。コロナ禍で業界各社のオフライン決済が落ち込む中でも取扱高を伸ばしています。しかし楽天ゴールドカードは2021年4月からSPUにおける付与率が改悪。一方、三井住友カードのスマホ連携を前提とした「ナンバーレス」カードでは、年間100万円の利用で年会費が永年無料になるゴールドカードが登場。最もおトクなゴールドカードの1つとして注目されています。
ネット銀行として初めて1100万口座を突破した楽天銀行は、メイン口座としての利用が増加し、上場準備も進めているとのこと。筆者も個人用の口座として利用しているものの、ステージ制のプログラムでは住信SBIネット銀行やauじぶん銀行が振込手数料の無料回数で上回っており、他のネット銀行で便利な「スマホATM」に楽天銀行は未対応など、気になる点もあります。
決済事業では楽天ペイが中小店舗向けに手数料の1年無料を打ち出したことで、店舗からの年間の申込数は10倍を見込むとのこと。ただ、詳細な数字はまだ公開しておらず、QR決済で独走するPayPayにどれくらい追いついているかは不明です。電子マネーではnanacoやWAONがApple Pay対応を果たしたのに対し、楽天Edyは未対応となっています。
このように細かい点を挙げていけばキリがないものの、どれも局所的に追い抜かれた、あるいは追いつかれたというものであり、総合的に判断して楽天に優位性を感じる人はまだまだ多いでしょう。これから年末に向けて需要が高まる「ふるさと納税」でも楽天ポイントの有り難みを感じる場面が増えそうです。
楽天経済圏が「完成」する前に対抗策を
今後の楽天経済圏の行方を占う上で、欠かせない要素がモバイルです。楽天モバイルに移行した人は楽天経済圏にどっぷり浸かる傾向にあり、楽天の「エコシステム」全体に好影響をもたらしているようです。
ユーザー側のメリットとして、最近ではiPhoneの価格設定が他社より安いことが話題になりました。その背景について三木谷浩史社長は「他社と違ってエコシステムからの多様な売上がある。楽天モバイルのユーザーは他の楽天サービスを20〜30%多く使うので、端末戦略は多少アグレッシブに行ける」と明かしています。
楽天モバイルの契約数は9月に411万件に達したものの、エリア展開は遅れており、他の3キャリアと同じ土俵で競争できるようになるまで少なくとも数年はかかりそうです。しかしエリアさえ充実していけば楽天経済圏はますます強くなり、他社が割り込む余地は減っていく恐れがあります。
当面の間、楽天はモバイル事業への投資で金策に走るような状況にあり、他の事業領域で大盤振る舞いをすることは難しいとみられます。この時間的猶予を利用して、各社がどのような楽天対抗策を繰り出してくるか注目しています。