ヒルトン東京のストロベリーデザートブッフェ「お持ち帰り」が画期的な理由
ストロベリーデザートブッフェの季節
春の時期には、イチゴを使ったデザートがたくさん提供されていますが、特に人気を博しているものといえばストロベリーデザートブッフェ。
イチゴをふんだんに用いた様々なデザートを自由に好きなだけ楽しめるということで、どこも連日の大行列となっています。
日本におけるデザートブッフェの嚆矢となり、年間8万人もの利用者が訪れているヒルトン東京「マーブルラウンジ」では、2020年5月11日まで「ストロベリー・プリマ」が行われています。
これまでもエグゼクティブ・ペストリーシェフの播田修氏によって、サーカスをテーマとした「シルク・ドゥ・フレーズ」、60年代を懐古した「ストロベリー・サイケデリック60s」、パリと猫をテーマとした「ストロベリーCATSコレクション」など、新しいスタイルのストロベリーデザートブッフェが生み出されました。
2019年のストロベリーフェア期間中には、ホテル全体で23トン以上(約7万7千パック)のイチゴが使用されるなど、その爆発力は半端ではありません。
ヒルトン東京は行列ができるデザートブッフェを生み出しているだけではなく、食品ロス削減にも積極的に取り組んでいます。取ったものを全て食べ切れるように工夫したり、完食を応援する施策を行ったりしたこともありました。
そして2020年2月14日に、またも革新的といえる試みが発表されたのです。
お持ち帰りプラン
その試みとは「お持ち帰りプラン」(1,800円、税込)。
日本では、デザートブッフェに限らず、全てのブッフェで、食べ残しと並んで持ち帰りは厳禁となっています。しかし、ヒルトン東京は食品ロスを削減するために、毎日16時30分から17時30分の間、先着30箱限定で、スイーツ(グラススイーツを除く)を箱に入れて持ち帰ることができるプランを始めたのです。
ブッフェ台のスイーツを持ち帰ることができるだけではありません。「ストロベリー・プリマ」フェアが体現する華麗なバレリーナの世界観で彩られた空間の中で、自由に撮影することもできます。SNS映えを意識したデザートブッフェの先駆けであるヒルトン東京の強みを生かした施策であるといってよいでしょう。
ブッフェの利用客も「お持ち帰りプラン」を利用でき、その場合には割引が適用されます(1,300円、税込)。
ヒルトンほど世界的に有名なホテルで、同じようなことが実施されたのを聞いたことがありません。
では、この「お持ち帰りプラン」はどのような点が画期的なのでしょうか。
食品ロス削減と機会創出
デザートブッフェ、それもストロベリーデザートブッフェは非常に人気があるフェアなので、予約を開始した途端に数カ月先まで埋まってしまうことも珍しくありません。しかし、いくら人気があったとしても、レストランは物販ではなく箱物なので、販売数が限られています。
しかし、「お持ち帰りプラン」を利用すれば、デザートブッフェを予約できなかった人も、ブッフェの雰囲気やスイーツの味を楽しむことができるのです。レストランにとってはデザートの廃棄を削減しながら売上を少し増やすことができます。
食品ロスを削減できることが素晴らしいのはいうまでもありませんが、予約できなかった消費者に新たな機会を生み出すという意味でも素晴らしい施策なのです。
ブッフェ台の意識改革
あまり知られていないかもしれませんが、ホテルのレギュレーションで、最後までブッフェ台が満たされているように求められることがあります。
最後とはクローズする時間のことであり、つまり、客が退店する時間。客が少なくなるにつれて食べる人も少なくなりますが、ブッフェ台がスカスカになっていたり、所々が寂しかったりすると、高級ホテルとしてイメージがよくないので、食べる人がいなくても補充するように定められているのです。
しかし、ブッフェ台からスイーツを持ち帰るプランが始まれば、こういったレギュレーションや慣習に風穴を開けられるのではないかと期待しています。
なぜならば、ブッフェ台からの持ち帰りが実施されれば、デザートブッフェの終盤でもデザートがたくさん取られるようになり、ブッフェ台が最後まで満たされなければならないという考え方も変わってくると思うからです。
持ち帰りが普及することによって、クローズ時にはブッフェ台がちょうどきれいに空っぽになるのがいいという感覚が定着してくればよいと思います。
食べ残しの責任
大食いや早食いというコンテンツへの警鐘、および、元をとるという考えの不毛さについて、これまで述べてきました。
残念ながら、デザートブッフェ利用客の中には、テレビを中心としたメディアによる「たくさん食べなければ損」という強迫観念によって、「元をとりたい」「元をとるために大食いしなければならない」と思う人が少なからずいます。
こういったマインドを持っていると、たくさん取りすぎてしまい、食べ残しやすくなるものです。しかし、中には「もったいないことをしてしまった」「いけないことをしてしまった」と後悔する良識のある方もいます。
そういった人に対して、食べ残したものとブッフェ台に残っているものを持ち帰ることができるプランは非常に意義があるでしょう。
ブッフェを行うレストランの中には、食べ残しについて罰金などのペナルティを設けていることがありますが、実際に請求することはほとんどありません。だからこそ、食べ残しという悪しき行為が余計に野放しとなっているのですが、日本的なサービスでは厳格に請求することは難しいでしょう。
ヒルトン東京の「お持ち帰りプラン」は食べ残しを防ぐことを目的としているわけではありませんが、客の中には食べ残しを申し訳ないと思っている人もいるので、このプランを利用して持ち帰ってもらえれば、双方にとってよい結果になります。
サービススタッフの負担
「お持ち帰りプラン」を実施することによって、最も負担がかかるのはサービススタッフです。
なぜならば、通常のデザートブッフェの業務に加えて、箱を渡したり、詰め込んだものを確認したり、会計したりという新たな業務が発生するからです。
ヒルトン東京「マーブルラウンジ」は208もの席数を誇り、オープン前からずっと行列が絶えないので、スタッフはデザートブッフェの業務だけで手一杯のはず。
いくら食品ロスを削減したり、ブッフェ台の意識を改革したりできるといっても、大きな利益につながるわけではない「お持ち帰りプラン」を料飲部が承諾したのは非常に素晴らしいことです。
世の中にとってよい施策であったとしても、実際にオペレーションを行う料飲部が協力的でなければ、絵に描いた餅となってしまいます。
ヒルトン東京の全スタッフがブッフェの新しい形をつくろうとしているのが伝わってくる施策でしょう。
自由と責任
ブッフェは自分で自由にとって食べるスタイル。ただ食べるだけではなく、ブッフェ台を眺めたり、何を食べようかと考えたり、好きなように盛り付けたりと色々な楽しみがありますが、当然のことながら自由には責任が伴います。
ヒルトン東京の「お持ち帰りプラン」は画期的な試みということもあり、実現までに時間がかかり、テスト的に始まったということですが、食品ロス削減と機会創出、ブッフェ台の意識改革から食べ残し対策にまでつながる素晴らしい施策であるだけに、オペレーションが順調に運び、多くの人に色々なことを考えてもらえるきっかけになることを期待しています。