「人権」を知らなかった国民、グリーンランドで今も続くデンマーク植民地主義の傷跡
北欧では、年配の権力者が若い世代やマイノリティに属する人々に、早々と自らの席や権力を譲るという光景を目にすることがある。政界や産業界ではよく見かける風景だ。
しかし、同じデンマーク領であるグリーンランドにおいては、話がまったく異なる。
歴史的な不平等が今も形成する権力構造
デンマークとグリーンランドの関係は、18世紀から続く植民地主義の名残によって今もなお複雑なままだ。表面的には対等な関係のように見えるが、実際にはデンマークの影響力が強く、権力のバランスは依然として不均等だ。この影響は、経済や政治の枠を超え、グリーンランドの人々の日常生活にも深く及んでいる。
「人権に無知であることの結果」
多様性をテーマにした北欧の「ダイバーシファイ・サミット」では、グリーンランド人権協議会の議長であるQivioq Nivi Løvstrømさんがオンラインで登壇し、こうした不均衡が今日、グリーンランドの人々にどれほどの影響を与えているのかを語った。
Qivioq Nivi Løvstrømさんが議長に就任した際、驚くべき事実が明らかになったという。「人権とは何か?」と市民に尋ねると、「タバコを吸っても良いこと?」と返答されることがあったのだ。それほどまでに、グリーンランドの人々は「人権」という言葉に馴染みがなく、その存在すら知らなかった。
このように人々が自らの権利を理解するにつれ、過去に受けてきた不当な扱いに気づき、声を上げ、国を訴え始めたのだ。例えば、143人の女性が、過去にデンマーク政府によって強制された不妊手術について訴えを起こしている。
「さらに多くの人々が名乗り出てくるでしょう。これは単なる形式的な植民地主義のケースではありません。これは、デンマークという国家で現在も進行中の植民地主義的生活様式の体系的な指標なのです。デンマークの状態には、何か怪しいものがあります」と彼女は指摘する。
幸福な北欧のイメージによって存在を薄くされる人々
北欧諸国と「植民地主義」を連想する人は少ないだろう。その美しいイメージが、実際には先住民やマイノリティが抱える「生きづらさ」を覆い隠してしまうことがある。
今も残る権力の不均等
デンマークは「世界で最も幸福な国」として評価される一方で、グリーンランドの人々にとっては依然として「支配者」の存在であり続けている。人権意識の向上は、単に個々の人権侵害を是正するだけではなく、デンマークとグリーンランドの間に存在する権力の不均衡を浮き彫りにしている。
しかし、グリーンランドの先住民たちが両者の緊張関係の中で権利を守れてきた理由は、デンマークと対立するのではなく、協力して成果を出してきた経験があるからだ。
協働することで得られる未来
グリーンランドの先住民たちは、デンマークと協働し、先住民族の権利に関する国際会議をコペンハーゲンで開催するなど、力を合わせて成果を出してきた。
現在、グリーンランドは国際的な先住民族の権利を守るための恒久的な組織や条約に参加し、他の先住民族コミュニティとともにその権利を守り、推進する役割を果たしている。
執筆後記
権力の分配とは、単にテーブルの席を増やすことではない。むしろ、既存の席を本当に他者に譲り、決定権を移譲することが求められる。
先住民やマイノリティが権力を持つためには、既存の権力を握る者たちが自らの特権性や植民地主義的な認識を見直し、権限を手放し、新しいリーダーシップを受け入れる覚悟も時には必要だ。
権力の再分配とは、単なる制度の変更ではなく、真の信頼を築くための試練でもあると、Qivioq Nivi Løvstrømさんの言葉を通じて感じた。