新型コロナ“戦時下”のパリから ー外出制限4週目のレポートー
今これを書いている4月13日夜、フランスの外出制限がまる4週間たったところで、マクロン大統領のテレビ演説があった。
開始は8時2分。この「2分」という刻みは、すっかり恒例になった医療従事者への拍手が毎夜8時に行われているので、それを終えた時間ということで設定されたものだ。おそらく国民の大半がテレビの前に釘付けになって、いったいいつまで外出制限が続くのか、大統領の言葉に耳を傾けた。3月17日からとりあえず4月15日までとされていた外出制限だが、その日で終わると思っていた人はおそらくいなかっただろう。25分間の演説の中で聞かれた日にちは5月11日。つまりさらに4週間、外出制限が延長になった。
ただし、5月11日を一つの目処として、以後段階的に学校(保育園から高校まで)を再開してゆくことと産業再開の方針が示された。だが、レストラン、カフェ、ホテル、映画館、劇場、美術館などはその限りではなく、5月11日以降の状況によって判断してゆくという見通しだ。
あと4週間の外出制限。これは医療の専門家からみると最低限の期間だとされる。フランスで今日までに確認されている新型コロナの感染者数は98076人、死者は14967人。前日比でいうと、それぞれ+2673人、+574人。連日増え続けている現実なだけに、近々での外出制限解除の可能性がないことは素人目にも明らかだ。
さて、1週目、2週目、3週目同様に、4週目の推移を、パリの一生活者の視点でレポートしたいと思う。
4月7日(火曜)外出制限22日目
【この日までに確認された累計感染者数78167/累計死亡者数10328(そのうち病院での直近24時間での死者数607)】
数字は、フランス公衆衛生局の発表によるもの。
以降、【感○/死○(○)】で表す。
外出制限の厳格化。パリ市などでは、10時から19時までの時間帯のジョギング禁止を決定(翌8日から実施)。また、市によっては、外出時にマスクを義務づけたり、市内のベンチを撤去したりするところもあるという報道。
医療従事者、警官、スーパーマーケットなどで働く人たちのために、市民プールの設備を開放する自治体も。プールで泳ぐためではなく、彼らが帰宅する前に立ち寄って着替えをし、シャワーを浴びることで、それぞれの家庭にウイルスを持ち込む心配を大幅に軽減できるという措置。
脳卒中、心臓発作による救急出動が50%減っているという報告。これは医療現場へ運ばれることを避けたいという気持ちの表れなのかもしれないが、初期対応が重要なので、躊躇せずに電話をするようにという呼びかけがテレビを通じて送れられる。
4月8日(水曜)外出制限23日目
【感82048/死10869(562)】
大西洋上の空母「シャルル・ド・ゴール」で、1760人の乗組員のうち40数人に新型コロナの症状。艦内にも医療設備は完備されているが(医師、看護師、手術室、スキャナーなど)、万が一の場合はヘリコプターで患者を本土の病院に運ぶなどの措置を準備しつつ、南仏のトゥーロンに帰港するという異例の決定。
マスク問題。
中国に注文したマスクが届かず、他の国に渡ってしまう事態が多発。フランスでも国単位、地方単位でマスクを注文しているが、たとえば、感染が集中しているグラン・テストのコルマール市の施設の注文品はアメリカ、フィラデルフィアへ渡ってしまうなど、地球規模でマスク争奪戦が繰り広げられているとの報道。
同時に、フランス国内でマスクを自給する動きも活発で、高級ブランドの縫製技術者やパリ・オペラ座の衣装係もマスクを制作。オペラの登場人物のシャツ用の布で作ったマスク600枚が、産婦人科病院へ寄付されたりしている。
ロワール・アトランティック地方では、スーパーマーケットでの客の動線を一方向にして、客同士がすれ違わないような措置を取る方針。また、一度触った商品は棚に戻さないなどの決まりを設けるべき、という動きも見られる。
運輸大臣から、夏のヴァカンスのための予約は控えたほうが良いという発言。
中国・武漢が2ヶ月半ぶりに都市封鎖解除。
アメリカでは1日でおよそ2000人の死者が出ているというニュース。
やはりアメリカから、富豪やスターたちの寄付のニュース。ツイッター創始者は資産の3分の1にあたる10億ドルの寄付。ビル・ゲイツは自身の財団で1000万ドルをコロナ対策にあて、ワクチンの製作を進行中。レディ・ガガ、アンジェリーナ・ジョリー、アリアナ・グランデらもそれぞれ、貧困にある子供たち、あるいは職を失った人などへの寄付。
アメリカ大統領選、民主党の候補者サンダース氏が選挙戦からの撤退を表明。トランプ大統領のライバルは、ジョー・バイデン氏に。
4月9日(木曜)外出制限24日目
【感86334/死12210(424)】
新型コロナに有効な治療薬について各国で様々な取り組みがされているが、フランスでは、マルセイユの医師ディディエ・ラウト氏が「クロロキン 」(マラリア等への治療薬)の有効性を提唱。彼の病院に一般の人たちが列をなす“ラウト医師詣で”的な動きもしばらく前から見られていた。この日、マクロン大統領は報道関係者を伴わない形でラウト医師を訪問している。
「クロロキン」の有効性は、現時点(4月13日)では賛否両論。重大な副作用を懸念する医師もいる。
パリ郊外の卸売市場「ランジス」のホールが、仮の霊安所として徴用されたことは先週報道されていたが、そこに亡くなった家族が収容され、通常のようなお別れができなかった遺族に、施設使用料としてまとまった額が請求されていたことが明るみに。以後、葬儀管理会社は方針を改め、使用料の請求は撤回された。
人間の活動が半ば停止状態にあるため、森の動物たちが町の中に出てきていることがしばしばニュースになっているが、マルセイユ沖にナガスクジラがやってきているという映像が流れた。
4月10日(金曜)外出制限25日
【感90676/死13197(578)】
復活祭の日曜(パック=イースター)を控えたこの週、まず聖金曜には、ノートルダム大聖堂でのセレモニーが行われ、テレビでも中継された。カトリックではクリスマスと同じくらい重要な聖週。例年たくさんの人が集まって様々な行事が繰り広げられてきたが、今年は異例の事態。しかもご承知の通り、ノートルダムは昨年の火災の被害がまだ生々しく、パリ大司教をはじめたった7人という規模での挙行となった。
一方で、パックの週末が始まり、アルプスや海沿いの観光地では、取り締まりの網をかいくぐって別荘へ移動してきた人たちが増え、地元住民たちが困惑しているというニュース。
地方によっては外出制限がさらに厳格に。アルザスのストラスブールなどでは、大人がふたり一緒に外出(車でも、船でも)することも禁止になった。
種苗店、ガーデニング店が営業再開。菜園や庭の種まきとしては、この時期を逸するわけにはゆかず、再開したガーデニング店には普段の何倍もの注文が寄せられているとか。
この日の夜、ユーロ圏の財務相らによる数日がかりの折衝の結果、新型コロナ対策として欧州連合が5400億ユーロの供出に合意。
内訳は、2400億ユーロが医療関係の出費を賄うため、1000億ユーロは一時失業対策、2000億ユーロは企業投資用。
ただし、4月23日に参加各国政府の長の承認が必要。
各地で料理人たちによる医療従事者への支援活動が盛ん。たとえば、パリ好きの日本の方々にも人気のレストラン「クリスチャン・コンスタン」のオーナーシェフは、出入り業者から提供された材料で、自身の出身地の名物料理であるカスレを作り、ネッケール病院へ差し入れ。
4月11日(土曜)外出制限26日目
【感93790/死13832(353)】
老人ホームでの感染、死者数が相当な数になっていることは、前回のレポートでも触れたが、コルバスという町の老人ホームでは、3月17日から30人ほどのスタッフがホーム内に泊り込みながら入所者のケアにあたるという完全隔離生活を継続。それが功を奏して感染者はゼロ。入所者の家族とは、ネット画面でのコンタクト。スタッフの異例の取り組みを賞賛する外部の人たち、例えばショコラティエなどからの差し入れが相次いでいるとか。
パックの週末、閉鎖されているはずの国境を超えてスペインの海沿いの保養地の別荘へ来ているフランス人が問題視されているニュース。
パックにはチョコレートがつきもので、例年、卵やウサギ、魚の形をしたチョコレートが店頭に並ぶのが町の風物詩になっている。チョコレート組合によると、この時期の売り上げが年間の30%を占めるという書き入れ時なのだが、多くの専門店が休業を余儀なくされている。
ちなみに、『ル・フィガロ』紙にはチョコレート界のスターたちによるチョコレート菓子のレシピが掲載されていた。
ジャック・ジュナンのマドレーヌ、パトリック・ロジェのクッキー、ジャン=ポール・エヴァンの昔懐かしいガトーショコラ、ピエール・エルメのガトーショコラ、ピエール・マルコリーニのクレープなど、そうそうたる顔ぶれだが、家に籠ってにわかに料理に目覚めた人たちにも作りやすいシンプルなレシピが紹介されている。
4月12日(日曜)外出制限27日目
【感95403/死14393(315)】
自動車産業などが徐々に工場を再稼働。
ヨーロッパの国々には、外出制限措置などを徐々に解除する動きが始まっている。
「集団免疫」の方針から、都市封鎖や休校の措置をとっていないスウェーデンは別として、オーストリアの動きが早く、400m2を超えない商店、ガーデニングの店などは4月14日から、美容院を含むすべての商店が5月初め、ホテル、レストランは5月中をめどに再開予定。ただし学校の休校は当面継続。
デンマークでは、4月15日から保育所、小学校が、5月10日から中学校と高校が再開予定。
感染者の多いスペインでも、4月13日から工場等が再開されるほか、イタリアでも4月14日から、農業機械の製造部門、書店の再開が予定されているという報道。
ところで、厳しい外出制限期間中のニュース番組の終わりには、クスッと笑えるようなトピックが添えられる。テニスプレーヤー、フェデレーが至近距離で壁打ちを続けるツイッター画面に触発されて、フライパンとレモンで真似てみる人の映像や、トイレットペーパーを使ったドミノ倒しのからくり装置など、世の中には本当にいろいろな人がいるものだと感心させられる。それは同時に、ツイッター、インスタグラム、ユーチューブなどのSNSの存在なしに、もはやこの時代を語れなくなっていることの証。
しかし、また一方では50年前から親しまれ続けているコメディー映画が日曜夜のゴールデンタイムの目玉で、老若男女、小さな子供までが同じように笑っているというのが、ただいま現在のフランスの姿でもある。
筆者にとってもすでに何度目かになるその喜劇映画にもおもわず引き込まれつつ、奇しくも時の人となってしまった志村けんさんのことが想われた。世代を超えて愛される“笑い”の偉大さは万国共通のものだ、と。
今回も締めくくりは、週に1度の買い出しの途中で出会った風景の写真を…。