新型コロナ“戦時下”のパリから ー外出制限3週目のレポートー
新型コロナウイルスへの対抗措置として、3月17日から始まったフランスの外出制限も3週間になった。4月の声を聞いて、すっかり春めいてきたパリ。普通なら、冬眠から覚めた動物たちが地上に顔を出すように、街に一気に人々が溢れでる時期だが、今年ばかりはまったく様子が違っている。1週目、2週目に続いて、3週目の日々の様子をレポートする。
3月31日(火曜)外出制限15日目 快晴
【この日までに確認された累計感染者数52128人/累計死者数3523人】
数字はフランス公衆衛生局の発表に基づき、以下【感〇/死〇】と表す。
マクロン大統領が、マスク、手袋などの医療用品を製造している工場へ赴き、テレビ演説。4月末までに、毎週1000万枚の国産マスクの供給を可能にする他、1万台の人工呼吸器を新たに製造する計画を発表。
新しい人工呼吸器の製造は、PSA(プジョー、シトロエングループ)、Valeo(自動車部品メーカー)、Eolane(電気系統のメーカー)などの企業が協力して人工呼吸器を作るというプロジェクト。コスメティック製品のメーカーが製造ラインをアルコール洗浄液の生産にあてたり、様々な業種が対策に乗り出している。
また、フランスのスポーツ用品の大手「デカトロン」の潜水用マスクがすでにイタリア、スペイン、ベルギーなどで医療現場に応用されているのを受け、「デカトロン」はこのマスク30000個を医療施設向けにあてる決定。
アメリカでは新型コロナによる死者がニューヨークの同時テロの死者を上回り、セントラルパークに野営病院のテントが準備されたことなどが報道される。
4月1日(水曜)外出制限16日目 快晴
【感56989/死4032】
イルドフランス(首都圏)から36人の患者がTGV(フランス高速鉄道)でブルターニュへ移送。
外出制限を違反すると罰金(初回135ユーロ、2回目以降は200ユーロ)が科される。この日までの警官による職務質問は580万件。そのうち35万9000件に罰金という内務省報告が20時のニュースで流れた。
1件135ユーロの罰金として計算すると、合計で48,465,000ユーロになるので、1ユーロ120円換算とすると、およそ58億円(!?)に達する。
長期化する外出制限で、かねてからフランスで問題になってきた家庭内暴力が増えているという報道も。
この日、テニスの全英オープン、ウインブルドンの中止決定。
日本からは1世帯あたり2枚の布マスク配布決定のニュースが届く。
4月2日(木曜)外出制限17日目 晴れのち曇り
【感59105/死4503】
全国のEHPAD(老人ホーム)での新型コロナでの死者数が少なくとも884人にのぼるという報道。
これまで、フランス公衆衛生局の発表をもとに、日々のニュースで報じられる死者数には、老人ホームでの数字は入っていなかった。だが、施設によっては入居者の4分の1がこの時期に死亡していたことも明るみになってきていた。
パリ郊外にあるヨーロッパ最大級の卸売市場「ランジス」のホールを霊安所として警視庁が徴用。2003年の記録的な酷暑以来の措置。
暗いニュースが多い中、イタリアからは、スペイン風邪の年に生まれた101歳の男性が新型コロナに感染し、入院していたが、見事に回復して希望の星になっているという映像や、フランスのとある老人ホームでは、97歳の入所者がアナウンサーになって所内の様子を紹介するニュース番組を製作してネット配信。遠く離れた家族たちに大好評という話題も放送される。
4月3日(金曜)外出制限18日目 曇り
【感64338/死6507】
※これまでのカウント方式だと、24時間での死者は588人増だが、この日から老人ホームで亡くなった方々の数字も加算されている。
バカロレア試験の中止決定。フランスの学校は9月に始業して6月までのサイクル。バカロレアは日本でいう高校卒業資格と上級学校進学のための試験にあたるもので、年度末に実施されてきたが、教育省の決定で今年は中止。いくつかの例外をのぞいて、全国一斉休校前までの学力、いわゆる内申書が試験に替わる。
全国の学校が休校になってからは、インターネットでの遠隔授業などが行われていたが、家庭環境によっては、期待される学習ができていないことが報告されていた。
医療施設が飽和状態のグラン・テストでは3週間で140人の患者が、ヘリコプター、TGV、軍用機などあらゆる手段を使って国内と隣国の病院に移送されている他、一般に閉鎖されたパリのオルリー空港が、イルドフランス(首都圏)の患者移送拠点になり、週末までに150人が国内外に移送予定。
イギリスからは、ロンドンに4000床の「ナイチンゲール病院」が開かれたニュース。日本からは、1世帯に30万円の現金支給案のニュースが届く。
外出制限下のフランスでは、1週目よりも2週目の購買量が少なくなっているという調べ。たしかに、買いだめに近い興奮状態の後、それほど必要ない物や量を買っていたことに気づくものだ。ちなみに、スーパーマーケットで扱う商品のうち、昨年の同時期と比較して売上増が顕著なのが掃除用手袋(+342%)と小麦粉(+159%)なのだとか(NIELSENのデータ)。前者は、自宅待機中に掃除に精を出す人たちが多いことと、外出時、スーパーのカートや建物のエレベーターのボタンなどに直接触れないようにする工夫として。また後者は、いかに多くの人が自宅でケーキを焼いたりしているかを想像させる。逆に購買が控えられているものは、化粧品(−87%)、シャンパン(−63%)、オードトワレット(−60%)、そしてなぜかチューインガム(−59%)。
4月4日(土曜) 外出制限19日目 快晴
【感68605/死7560】
※死者数のうち2028人は老人ホーム
南東フランスのロマン・シュール・イゼール(ドローム県)で殺傷事件。人口3万4000人ほどの街の商店街で、午前11時頃、刃物を持った男が無差別に7人を襲った。2人死亡。犯人の男はスーダンからの難民でイスラム教徒。テロ組織との関連などを調査中との報道。
世界での死者数が6万人に。
ドイツは他のヨーロッパ諸国に比べると犠牲者が少なく、医療崩壊も起きていないという報道。毎日20万件のテスト可能な体制が、功を奏しているという。
4月5日(日曜)外出制限20日目 快晴
【感70478/死8078】
イースターの休暇の始まり。フランスでは、全国を3つのゾーンに分け、1週間ずらしながらそれぞれ2週間の休暇に入るが、この週末はパリを含む最初のゾーンの休暇がスタート。外出制限下では、最初に決めた場所にずっと居ることが決まり。休暇を機に地方の別宅や親戚知人のところへ移動するのを取り締まるために、全国で16万人の警官が出動。
地域間の移動は政府が懸念していたほどではなかったが、晴天に恵まれ、パリでも20度を超える暖かさになったため、街や公園の人出が目立った。
パリには1600件のホテルがあるが、90パーセント近くが閉館中。
Airbnbは、政府の要請に応え、医療従事者に無料で住宅を提供するシステムを導入。6000の物件が参加。
イギリスではエリザベス女王によるテレビ演説。
今週は、マクロン大統領がマスク工場から演説したのに始まり、マスクに関する報道が多かった。
新型コロナ騒動以前、そもそもフランス人はマスクとは無縁だったといっていい。日本人の私でも公共の場でマスクを着けることははばかられたくらい、マスク姿は奇異に見られた。
もちろん医療の現場は別。医療従事者用のマスク工場も国内に数件存在していたようだが、ここ数年で閉鎖され、ほとんどを輸入に頼るようになっていた。しかもこのマスク難に直面して蓋を開けてみれば、国の備蓄量が激減していたことが明らかに。
こういった伏線があってのことだろうか、3月6日の健康相の演説では、「マスクは有効ではない」と明言していたほどだ。だがその後、専門家の様々な見解も発表される中で、一般の人でも外出時にはマスクをしたほうが良いという世論が定着してきた。巷には手製のマスクを作ったりする動きも広がり、日を追うごとにマスク姿のフランス人が普通になってきている。
4月6日(月曜)外出制限21日目 曇りのち雨のち晴れ
【感74390/死8911】
フランスの外出制限は外出を完全に禁止するものではなく、食料品をはじめとする日用品の買い出しや、1日1回1時間、自宅から1キロ圏内での散歩やジョギングなどは認められている。そういった“特例”には、氏名、生年月日、住所、外出の目的、開始時間を明記した証明書を携帯する必要がある。これまで証明書は内務省等のサイトからプリントアウトした用紙や手書きだったが、この日からスマホなどを使った電子証明書の運用が始まった。
庭のある家で過ごしている人と違って、連日都会のアパルトマンの中だけで過ごしているというのはやはり特殊な環境だ。エコノミークラス症候群ではないが、身体も心も閉ざされてゆくような感覚になる。筆者は今週一度、人の少なそうな時間帯をねらって散歩に出てみることにした。
すると、どうだろう。静まり返ったパリに春の息吹が満ち満ちていた。
証明書持参、時計を気にしながらの1時間で出合った風景をお届けしつつ、今週のレポートを締めくくることにする。