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永田町を妖怪がさまよっている。森喜朗という妖怪が・・・

田中良紹ジャーナリスト

フーテン老人世直し録(737)

如月某日

 昨年11月に亡くなった島根1区選出の細田博之前衆議院議長の「お別れの会」が2月11日に地元の松江市で行われ、額賀福志郎衆議院議長ら550人が参列した。その中に車椅子の森喜朗元総理の姿もあった。

 今回の自民党派閥パーティ資金裏金事件は事件の全容が分かっていない。国民は全容が分からないまま裏金を受け取った議員に怒りを爆発させ、「企業・団体献金の禁止」や「連座制の導入」、さらに政治資金に対する「課税」を求めている。

 今回の事件の特徴は、個々の不心得な議員が政治資金規正法に違反し、政治資金収支報告書に記載せず、政治資金の流れを不透明にした従来のケースとは異なる。自民党最大派閥の100人規模の議員集団が、派閥が集めた資金を裏金化して所属議員に還流する違法行為を犯し、それを長年にわたり継続してきた「組織ぐるみの犯罪」である。

 当然ながら議員集団の中にはそれが違法であることを知っていた議員もいる。弁護士でもある柴山昌彦衆議院議員は派閥から受け取った金額を自分の収支報告書には記載していた。ところが「派閥から記載をやめさせられた」と記者会見で語った。

 それを聞くとこの事件には主犯がおり、主犯が裏金作りの仕組みを作り、それを派閥の所属議員に強制していた。裏金を受け取っていた議員は違法と知りながらやめることができなかった。同罪と言えなくもないが、しかし断れば政治生命に直結するかもしれず、止む負えない選択だったかもしれない。

 問題は国民の怒りが、この仕組みを作り強制してきた主犯に対してではなく、従犯なのか共犯なのか分からないが、受け身で「裏金」を得た議員にだけ向けられていることである。あるいはこれを政権交代の格好の材料にしようと、野党が岸田総理の責任追及に転化して、事件の全容解明と異なる方向に議論を導こうとする傾向がある。

 このままだと仕組みを作った主犯は不問に付され、政治資金規正法だけは改正されるが、果たして裏金をなくせる改革になるのか、フーテンは疑問である。事件の全容を知ることなしに法律を改正しても、建前に終始するだけで守れない法律ができ、「政治とカネ」は永続する可能性がある。

 安倍派の裏金還流の仕組みは森氏が会長になり「清和政策研究会」を作った時から始まったと言われる。それが本当なら、安倍派の裏金作りの仕組みを作り、所属議員に強制したのは森氏ということだ。ところが誰もそれを確かめようとしない。森氏はアンタッチャブルな世界に鎮座ましましている。

 しかも年明けから森氏の活動ぶりが目を引く。注目すべきは1月25日に読売新聞が「自民執行部、安倍派幹部に離党要求」の記事を掲載したのを見て、茂木幹事長や麻生副総裁と面会し怒りをぶちまけたことである。

 岸田総理は昨年12月の東京地検特捜部の強制捜査を受け、1月4日の年頭会見で自民党に「政治刷新本部」を立ち上げ、政治の信頼回復に全力を挙げることを表明した。「刷新」という言葉にフーテンは引っかかりを感じた。

 安倍派の源流を作った福田赳夫氏は、池田勇人元総理が「宏池会」を作って保守本流を名乗ったことに反発し、「党風刷新連盟」を作り「派閥解消」を訴えた。その時の「刷新」と重なったからである。

 「政治刷新本部」の初会合では、菅義偉前総理と小泉進次郎議員が「派閥解消」を訴えたことが注目を集めた。フーテンは当初それを反岸田の動きと捉えたが逆だった。岸田総理は菅氏と連携していた可能性がある。「刷新」はやはり「派閥解消」を意味していたのだ。

 18日に岸田総理は突然「宏池会」の解散を宣言し、特捜部に摘発された安倍派と二階派はそれに続くしかなかったが、知らされていなかった麻生氏と茂木氏は激怒した。「派閥解消」を突きつけられれば「ポスト岸田」を狙う茂木氏の野望は粉砕される。

 怒った麻生氏は次の総裁選挙で岸田総理の再選に協力しない姿勢を示し、茂木氏は自分が中心の自民党執行部が安倍派幹部に離党など厳しい処分を下せば、二階派や岸田派の処分も厳しくなると思わせる記事を親しい記者に書かせた。派閥解消を打ち出した岸田総理に対する反発からだ。

 これに森氏が激怒したのである。この動きを麻生氏が裏で糸を引いていると見た森氏は茂木氏と麻生氏に面会を求め、「安倍派幹部に離党を迫るとは何事か」と怒りをぶちまけた。麻生事務所では「あんたも既に終わっているんだぞ」と麻生氏を怒鳴りつけ、麻生氏は沈黙したままだったという。

 この時の森氏を朝日新聞は「森さんという妖怪が・・・」と書いた。「欧州を妖怪がさまよっている。共産主義という妖怪が」で始まる「共産党宣言」をもじった表現だが、「森喜朗という妖怪が永田町をさまよっている」というのは言い得て妙だ。

 「刑務所の塀の上を歩きながら内側に落ちたことがない」と言われたのは中曽根康弘氏である。ロッキード事件でもリクルート事件でも検察が狙ったのは中曽根氏だった。しかしロッキード事件の時、中曽根氏は自民党幹事長の要職にあった。

 政治家の中でロッキード社の秘密代理人児玉誉士夫と最も親しかった中曽根氏は、兵器国産化を主張していたから、ロッキード社が中曽根氏をターゲットに対潜哨戒機を買わせる工作を行うのは不思議でない。しかし自民党幹事長を摘発すれば三木政権そのものが潰れる。そのため中曽根氏は塀の内側に落ちなかった。

 リクルート事件でも「検察の狙いは大勲位だった」と主任検事の宗像紀夫氏が日本記者クラブの会見で述べた。「大勲位」とは中曽根氏のことだが、宗像氏によれば「秘書の口が堅かった」という。それで中曽根氏は塀の内側に落ちなかった。

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ジャーナリスト

1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。90年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■オンライン「田中塾」の次回日時:11月24日(日)午後3時から4時半まで。パソコンかスマホでご覧いただけます。世界と日本の政治の動きを講義し、皆様からの質問を受け付けます。参加ご希望の方は https://bit.ly/2WUhRgg までお申し込みください。

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