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屋久島沖米軍オスプレイ墜落、ギア亀裂とパイロットの飛行継続の判断が原因と発表 故障の原因は特定できず

高橋浩祐米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員
横田基地で訓練飛行する米空軍のCV22オスプレイ(福生/東京都)(写真:イメージマート)

米空軍は8月1日、2023年11月に鹿児島県屋久島沖で起きた米空軍オスプレイ墜落事故は、金属製ギアの亀裂と、「速やかに着陸」との度重なる警告に従わずにパイロットが飛行継続を決断したことが原因であるとする調査結果を発表した。

この米空軍横田基地所属のCV22Bオスプレイの墜落事故では、空軍特殊作戦司令部(AFSOC)の隊員8人が死亡し、米軍全体で約3ヵ月に渡るオスプレイの飛行停止につながった。

米空軍は過去数ヵ月間、墜落事故の原因は前例のない部品の故障であるとしか説明していなかったが、1️日発表の事故調査報告書ではナセル(エンジンを収容する両翼端の円筒部分)内部の「プロップローター・ギアボックス」(PRGB)という、エンジン動力をローターに伝える装置内にあるハイスピード・ピニオンギアの1つにひびが入ったことが原因だと説明された。プロップローター・ギアボックスは飛行機の変速装置として機能する。このギアボックス内では、5つのハイスピード・ピニオンギアが激しく回転し、エンジンの動力をオスプレイのマストとローターブレードに伝達する。

ただし、米空軍はピニオンギアが故障したと確信しているものの、その「故障の正確な根本原因は、初期の故障の証拠を不明瞭にする二次的な損傷のために特定できなかった」とし、事故の根本原因はいまだ分かっていない。

プロップローター・ギアボックスのイメージ図は次のようになっている。

プロップローター・ギアボックス(PRGB)のイメージ図(米空軍事故調査報告書より)
プロップローター・ギアボックス(PRGB)のイメージ図(米空軍事故調査報告書より)

事故報告書では、ハイスピード・ピニオンギアの1つにひびが入り、破断したギアの破片が他のピニオンギアとサンギアの間に挟まってサンギアの歯車が摩耗、エンジンからの動力を伝達することができなくなったと説明されている。サンギアとハイスピード・ピニオンギアのイメージ図は次のようになっている。

プロップローター・ギアボックス(PRGB)にあるハイスピード・ピニオンギアとサンギアのイメージ図(防衛省資料より)
プロップローター・ギアボックス(PRGB)にあるハイスピード・ピニオンギアとサンギアのイメージ図(防衛省資料より)

破断したハイスピード・ピニオンギアは次のようになっている。

新品のハイスピード・ピニオンギア(右)と破断したハイスピード・ピニオンギア(左)(米空軍事故調査報告書より)
新品のハイスピード・ピニオンギア(右)と破断したハイスピード・ピニオンギア(左)(米空軍事故調査報告書より)

事故報告書では、V22オスプレイを担当する米国防総省のプログラムオフィス自体も、乗員にプロップローター・ギアボックスの部品が故障した場合のリスクの深刻さを教育できたはずの安全データを共有していなかったと指摘された。

米空軍特殊作戦軍の司令官を務め、主任調査官のマイケル・コンリー中将は米メディアに対し、「パイロットが飛行続行を決断したのは軍事演習を完遂したいという本能だったと考えている」と述べた。

2023年11月に鹿児島県屋久島沖に墜落した米軍機オスプレイの残骸
2023年11月に鹿児島県屋久島沖に墜落した米軍機オスプレイの残骸提供:海上保安庁/ロイター/アフロ

昨年11月29日の墜落当日、CV22Bオスプレイは岩国基地から九州の東海岸沿いを通り、沖縄の嘉手納基地に向かって飛行していた時に、最初のトラブルの兆候が見られ始めた。

航空機では、潜在的なトラブルの兆候として振動が監視される。データレコーダーは、2つのエンジンを連結し、片方のエンジンが動力を失った場合のフェイルセーフ(安全性制御)として機能するドライブシャフトの左側に振動を記録した。

2回目の振動が続き、左プロップローター・ギアボックス内の5つのピニオンギアのうちの1つが振動した。

しかし、パイロットのジェフ・ホーネマン空軍少佐と他の乗組員は、その振動について知ることはなかった。そのデータは飛行の最後にしかダウンロードできないからだ。

最初の振動から5分後、左プロップローター・ギアボックスのチップバーン警告(発生した金属片を燃焼した旨を伝える警告)がコックピットに表示された。この警告は、オスプレイのギアから金属が剥がれ落ちていることを乗組員に知らせるものだ。

防衛省担当者によると、ギアボックス内では、ギアが高速で回転しているため、様々な部品が消耗し、金属片が発生する。金属片の状況に応じて、各種の警告灯が表示される。焼き払うことに成功すれば、警告は解除される。

日本でも昨年8月、陸上自衛隊のMV22オスプレイでギアボックス内の金属片を知らせるランプが点灯し、航空自衛隊静浜基地(静岡県焼津市)に予防着陸した。同年11月の屋久島沖での米空軍オスプレイの墜落事故後、日本もオスプレイの飛行を停止した。

防衛省は、ひび割れの根本原因は特定されていないが、チップ探知機による予防的点検と維持整備の頻度の増加、航空機の整備記録の確認、通常時・緊急時の搭乗員の手順の更新、日々の飛行の際に事前に作成する運用計画の更新徹底といった、新しい予防措置で安全対策を十分に講じていると説明した。

●20ヵ月で4件の墜落事故、20人が死亡

米軍のオスプレイをめぐっては、2022年3月以降の20カ月以内に墜落事故が4件発生し、乗組員20人が死亡した。米海兵隊は、5人が死亡した2022年の米カリフォルニア州での墜落事故に関する報告書の中で、「ハード・クラッチ・エンゲージメント」(HCE)というプロペラとそのエンジンをつなぐクラッチが離れ、再結合する際に衝撃が発生する現象が起きたが、米軍もメーカーもその根本原因を特定できていないため、さらなる事故が起こる可能性があると警告していた。海兵隊は、将来の事故は「飛行制御システムのソフトウェア、駆動系部品の材料強度、厳格な検査要件の改善なしには防ぐことは不可能」と述べていた。

V22オスプレイはベルフライトとボーイングが共同で製造している。米軍では現在、空軍も海兵隊も海軍もオスプレイの新規生産の発注を計画していない。陸軍はそもそもオスプレイを採用していないが、UH60ブラックホークヘリコプターの後継機としてベルV280バローの購入契約をベルフライトと結んだ。

ベルV280バロー(写真:ベル)
ベルV280バロー(写真:ベル)

ベルV280バローはオスプレイと同じくティルトローター機だが小型で、エンジンが水平に固定されるという重要な設計変更が加えられている。オスプレイでは、ヘリコプターモードで飛行する際、ローターとエンジンとプロップローター・ギアボックスを収納するナセル全体が垂直に傾く。

米国以外でオスプレイを運用しているのは日本だけだ。陸上自衛隊が計17機を木更津駐屯地に配備済みだ。インドネシアやイスラエル、インドなど調達に興味を示していた国々も最終的には導入を見送り、海外では買い手がほとんど見つかってこなかったのが実情だ。ネックとなってきたのが輸送機としては割高な価格だ。1機あたり8400万ドル(125億円)と伝えられている。

以下に、防衛省が作成した米空軍CV22オスプレイの屋久島沖墜落事故調査報告書の概要を掲載する。関係する地方自治体の人々をはじめ、より多くの方に実際に読んでいただければと願う。

防衛省が作成した米空軍オスプレイ屋久島沖墜落事故調査報告書の概要の1ページ目
防衛省が作成した米空軍オスプレイ屋久島沖墜落事故調査報告書の概要の1ページ目

防衛省が作成した米空軍オスプレイ屋久島沖墜落事故調査報告書の概要の2ページ目
防衛省が作成した米空軍オスプレイ屋久島沖墜落事故調査報告書の概要の2ページ目

防衛省が作成した米空軍オスプレイ屋久島沖墜落事故調査報告書の概要の3ページ目
防衛省が作成した米空軍オスプレイ屋久島沖墜落事故調査報告書の概要の3ページ目

防衛省が作成した米空軍オスプレイ屋久島沖墜落事故調査報告書の概要の4ページ目
防衛省が作成した米空軍オスプレイ屋久島沖墜落事故調査報告書の概要の4ページ目

防衛省が作成した米空軍オスプレイ屋久島沖墜落事故調査報告書の概要の5ページ目
防衛省が作成した米空軍オスプレイ屋久島沖墜落事故調査報告書の概要の5ページ目

防衛省が作成した米空軍オスプレイ屋久島沖墜落事故調査報告書の概要の6ページ目。日本の安全対策が記されている
防衛省が作成した米空軍オスプレイ屋久島沖墜落事故調査報告書の概要の6ページ目。日本の安全対策が記されている

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米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員

英軍事週刊誌「ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー」前東京特派員。コリアタウンがある川崎市川崎区桜本の出身。令和元年度内閣府主催「世界青年の船」日本ナショナルリーダー。米ボルチモア市民栄誉賞受賞。ハフポスト日本版元編集長。元日経CNBCコメンテーター。1993年慶応大学経済学部卒、2004年米コロンビア大学大学院ジャーナリズムスクールとSIPA(国際公共政策大学院)を修了。朝日新聞やアジアタイムズ、ブルームバーグで記者を務める。NK NewsやNikkei Asia、Naval News、東洋経済、週刊文春、論座、英紙ガーディアン、シンガポール紙ストレーツ・タイムズ等に記事掲載。

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