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オスプレイの事故率は本当に低いのか 米軍の最新データで読み解く

高橋浩祐米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員
米空軍CV22オスプレイ(写真:米空軍)

米軍オスプレイの事故率は他の軍用機と比べても高くないとの言説があちこちで見受けられる。本当なのだろうか。

米空軍安全センターの最新の事故統計データによると、鹿児島県屋久島沖に墜落した事故機と同じ米空軍仕様のCV22オスプレイの「クラスA」と呼ばれる重大事故の発生率(10万飛行時間あたりの事故件数)は2021年12月末時点で6.00に及んでいる。この事故率は2023年9月時点の米空軍全体の有人機の1.35、無人機の2.58と比べても極めて高くなっている。

また、同センターによると、CV22のクラスAの事故数は過去20年間で上昇傾向にある。下図は2000年度以降のCV22のクラスAの事故件数(青色の縦棒)と事故率(オレンジ色の丸)、そして事故発生のトレンドライン(黒い斜線)を示している。トレンドラインが2002年度から右肩上がりになっていることが分かる。

CV22オスプレイの最も深刻な航空事故である「クラスA」の事故は2002年度から上昇傾向にある。上図の黒い斜線が事故発生のトレンドライン(傾向線)で右肩上がりになっている。(出典:米空軍安全センター)
CV22オスプレイの最も深刻な航空事故である「クラスA」の事故は2002年度から上昇傾向にある。上図の黒い斜線が事故発生のトレンドライン(傾向線)で右肩上がりになっている。(出典:米空軍安全センター)

クラスAとは10万飛行時間当たりで総額250万ドル(約3億7000万円)以上の機体への損害か、乗員の死亡または後遺障がいをもたらした重大事故の場合に指定される。

●クラスBの事故数も上昇傾向

CV22は、クラスAに次いで深刻なクラスBの事故数でも上昇傾向を見せている。クラスBは被害額60万ドル以上で250万ドル未満か、障がいの残るけが人が出た事故が当てはまる。やはりトレンドラインは右肩上がりだ。

CV22オスプレイの「クラスB」の事故も2002年度から上昇傾向にある。上図の黒い斜線が事故発生のトレンドライン(傾向線)で右肩上がりになっている。(出典:米空軍安全センター)
CV22オスプレイの「クラスB」の事故も2002年度から上昇傾向にある。上図の黒い斜線が事故発生のトレンドライン(傾向線)で右肩上がりになっている。(出典:米空軍安全センター)

直近のクラスBの事故率は2.00になっている。なお、米空軍の他の軍用機のクラスBのデータは示されていなかった。

●日本配備のオスプレイ

陸自初導入のオスプレイは2020年7月に木更津駐屯地に到着した(高橋浩祐撮影)
陸自初導入のオスプレイは2020年7月に木更津駐屯地に到着した(高橋浩祐撮影)

在日米軍のオスプレイは現在、横田基地に空軍仕様のCV22が6機、普天間飛行場(沖縄県)に海兵隊仕様のMV22が24機それぞれ配備されている。CV22とMV22は機体構造が約9割共通する。CV22は米空軍特殊作戦コマンド(AFSOC)に属している。

また、陸上自衛隊も14機のV22オスプレイを木更津駐屯地(千葉県)に暫定配備している。最終的に計17機を導入する。基本構造はMV22と同じだ。それではMV22の事故発生率はどうなっているのか。

●米海兵隊仕様のMV22の事故率

「MV-22 OSPREY」と題された在沖縄海兵隊のMV22オスプレイの紹介サイトには「MV22は安全である」と記され、2010年度以降のクラスAの事故発生率が10万飛行時間当たり3.27であり、他の海兵隊の軍用機と同レベルであることが強調されて書かれている。また、2022年6月に米カリフォルニア州の砂漠にMV22が墜落して隊員5人が死亡した事故を受けて2023年7月に公表された事故報告書によると、MV22の過去10年間のクラスAの平均事故発生率は10万飛行時間当たり3.16となっている。これは、戦闘攻撃機のAV-8BとF/A-18A-C、ステルス戦闘機F-35B、大型輸送ヘリコプターCH-53E、空中給油機KC-130Jを含む海兵隊軍用機の平均事故発生率が3.1であることから確かに同レベルとなっている。

2022年6月に米カリフォルニア州の砂漠にMV22が墜落して隊員5人が死亡した事故を受け、同年7月に米海兵隊が説明資料として作成したMV22の「クラスA」と呼ばれる重大事故の発生状況(出典:米海兵隊)
2022年6月に米カリフォルニア州の砂漠にMV22が墜落して隊員5人が死亡した事故を受け、同年7月に米海兵隊が説明資料として作成したMV22の「クラスA」と呼ばれる重大事故の発生状況(出典:米海兵隊)

しかし、米陸軍戦闘即応センターが発行する航空安全に関するオンライン雑誌フライトファックスによると、米陸軍が運用する有人機の重大事故率は2023年11月現在で1.62となっており、これと比べてオスプレイの重大事故率(CV22の6.00とMV22の3.16)が依然高いことがわかる。

また、防衛省はかねて基本性能騒音などの面でオスプレイと陸自の従来の輸送ヘリコプター「CH47」をしばしば比べてきた。2021年1月発行のフライトファックスによると、CH47を含むH47系ヘリコプターのクラスAの事故率は1.29にとどまり、オスプレイの事故率と比べてもかなり低いことが分かる。

防衛省は「離島防衛や災害救援には速さが重要で、機動展開能力が高い」とアピールし、オスプレイ導入を推し進めてきた。しかし、オスプレイはもともと空気力学的に既存の回転翼機よりも複雑な構造設計になっているため、事故率が高いままとなっている。いったん事故が起きれば、今回の米空軍の日本配備のCV22や陸自のV22のように飛行停止されることになる。いかに最大速度や航続距離などの面で高い性能を有していようが、飛行見合わせが多く起きればそのメリットは減殺される。

1機当たり100億円超という高コストに加えて飛行停止が頻繁に起きることが、米軍以外でオスプレイ導入を決めた国が日本だけになっている主な理由だ。オーストラリアやインドネシア、イスラエルなど調達に興味を示していた国々も最終的には導入を見送り、海外では陸自の17機しか買い手が見つからなかったのが実情だ。しかも、米国では陸軍がオスプレイを採用していない。

海外の航空防衛ニュースサイトは今年6月、米国防総省からの発注不足の中、V22向けの機体や主要機器を生産する米ボーイング社の工場が2026年に閉鎖される予定であると報じている。

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米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員

英軍事週刊誌「ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー」前東京特派員。コリアタウンがある川崎市川崎区桜本の出身。令和元年度内閣府主催「世界青年の船」日本ナショナルリーダー。米ボルチモア市民栄誉賞受賞。ハフポスト日本版元編集長。元日経CNBCコメンテーター。1993年慶応大学経済学部卒、2004年米コロンビア大学大学院ジャーナリズムスクールとSIPA(国際公共政策大学院)を修了。朝日新聞やアジアタイムズ、ブルームバーグで記者を務める。NK NewsやNikkei Asia、Naval News、東洋経済、週刊文春、論座、英紙ガーディアン、シンガポール紙ストレーツ・タイムズ等に記事掲載。

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