児童手当、年収1,200万円以上への特例給付廃止。高所得者の負担増は本当に小さい?
児童手当のうち、高所得者向けの「特例給付」について、年収1,200万円以上の世帯への支給を廃止することが2021年5月21日の参院本会議で可決、成立しました。高所得者層へのインパクトを考えてみましょう。
●児童手当とは?
児童手当は、中学校卒業まで(15歳の誕生日後の最初の3月31日まで)の児童を養育している、一定以下の所得の世帯に支払われる手当です。子どもが誕生後、自治体等に「認定請求」の申請を行い、また、毎年6月頃に受給要件を満たしていることを確認する「現況届」を提出することで受給できます。
支給額は下記の通り。
<支給額(子ども1人)>
3歳未満:月15,000円
3歳~小学校修了前:月10,000円(第3子以降月15,000円)
中学生:10,000円
*所得制限限度額以上の場合、特例給付として月額5,000円を支給
支給されるタイミングは、年3回で、それぞれの前月分までの4ヵ月分が支払われます。
<支給タイミング>
6月(2~5月分)
10月(6~9月分)
2月(10月~1月分)
所得制限は下記の通り。今回の改正でも、所得基準を夫婦合算の世帯収入で計算する方向で議論がなされていましたが、見送られました。
児童手当の所得制限
*「扶養親族等」は所得税法上の同一生計配偶者と扶養親族(施設入所等児童を除く)、扶養親族等でない児童で前年12月31日に生計を維持した者の数で、限度額は1人につき38万円(70歳以上の同一生計配偶者や老人扶養親族は44万円)を加算。
(内閣府サイトより)
●2022年10月以降はどうなる?
現在、上記を超える所得がある世帯には、子ども1人あたり月5,000円の特例給付が行なわれています。しかし、5月21日に成立した改正児童手当法により、2022年10月からは、年収1,200万円以上の世帯への支給が廃止されます。
報道によると、手当が出なくなる子どもの数は約61万人(全体の約4%)で、年間で約370億円の資金が浮くとのこと。この資金は、保育所整備など待機児童対策に充てられる予定だそうです。
●年収1,200万円以上世帯へのインパクト
特例給付は月5,000円なので、年間で6万円。高所得の方には大きな痛みはないのでは?とも思われがちですが、実際のところはどうなのでしょう。
2022年10月以降は、子ども1人月5,000円の特例給付がもらえなくなる。
↓
累計でみると・・・
子ども1人につき約90万円のマイナス。
▲5,000円×12カ月×15年=▲約90万円(誕生月で異なる)
高所得者にとっても、「子ども1人につき90万円」と言われると、決して小さくはないでしょう。
●中長期でみると、負担増はさらに大きい
しかし、さらにさかのぼって考えると、負担増はより大きなものとなります。
民主党時代に「控除から手当へ」ということで、児童手当(当時は「子ども手当」)が拡充され(1人13,000円、所得制限なし)、一方で、年少扶養控除が廃止されるなどの変化がありました。累進税率は控除だと高所得者に有利となるため、定額の手当に置き換えるという趣旨でした。
控除縮小はあくまでも手当を受け取る前提だったものが、政権交代により、「子ども手当」が現状の「児童手当」になって所得制限が設けられ、さらに今回の特例給付の廃止によって、年収1,200万円以上の高所得者は「控除も手当もなし」となってしまうわけです。控除縮小分も含めて試算すると、負担増は大きなものとなります(注・あくまでも概算です)。
所得税・住民税
平成23年(2011年)、所得税において16歳未満の年少扶養控除38万円が廃止され、16~18歳未満も控除額が63万円⇒38万円へと25万円減額されました。控除廃止・減額の影響を試算すると、所得税率23%のケースで、38万円×0.23×15年+25万円×0.23×3年=131.1+17.25=148.3万円となります。所得税率40%で試算するなら258万円の負担増です。
住民税は平成24年(2012年)、年少扶養控除33万円⇒廃止、16~18歳も45万円⇒33万円へと12万円減額されました。住民税を10%で概算すると、33万円×0.1×15年+12万円×0.1×3年=49.5+3.6=53.1万円となります。この分が負担増と考えられます。
特例給付分と合計すると・・・
特例給付の廃止によるマイナスの約90万円に、控除廃止等の負担増分を足すと、子ども1人につき約290万~320万円のマイナスとみることができます。高所得者であっても、この負担増は大きなものです。
高所得者世帯こそ、家計管理が重要になっているのかもしれません。
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