リクナビ、学生個人の「内定辞退予測」説明なく企業へ販売…。選考への影響、オワハラにもつながる不祥事
リクルートが運営する大手就活サイト「リクナビ」について、驚くべきニュースが飛び込んできた。
リクナビが会員の行動履歴に基づく「内定辞退率」予測を、採用側の企業に販売していたというニュースだ。
サービス名は「リクナビDMPフォロー」と名付けられ、「内定辞退率」はリクナビサイト上での行動履歴の解析結果に応じて5段階評価され、38社の企業に提供されていた。
DMPとは、Data Management Platform(データ マネジメント プラットフォーム)の略。企業が保有している行動履歴、興味関心、部署などのデータを蓄積・管理をするプラットフォームの事をウェブマーケティングのジャンルではそう呼ばれる事が多い。
企業側は「この学生は内定辞退する確率が高い/低い」という事を把握した上で選考時の対応を変えたり、内定後のフォローについて検討することができる。
リクルートの発表では「提供された情報を、合否判定に活用しないことに同意した企業にのみ提供していた」と説明しているが、企業側は内定が決定する前からそのような情報を参照できていたという事になる。
リクナビがどこで線引きするか?
リクナビは内定辞退率の予測を企業に提供するという事を、これまでに学生会員に説明して来なかった。
「自分が最終面接に落ちたのは、内定辞退率が提供されたせいなのでは…」事実かどうかはさておき、そう感じている学生もいる。
これは説明不足などという優しい言葉で表現して良いものではなく、「不祥事」といっても差し支えないレベルの事案だろう。
現在同データの販売は休止されているようだが、今後ナビサイトが企業と学生、どちら側に立つのか注目しなければならない。「企業からお金をもらっているのだから、ナビサイトが企業のニーズに応じるのは当然」という意見もあるが、だからといって線引きを間違えれば学生ユーザーが離反する原因にもなりかねない。それはリクナビにとっても望まない展開のはずである。
報道を受け、リクルートはプレスリリースにて「説明方法」を検討できるまで本サービスの提供を一時休止すると表明した。
しかし現時点で完全に廃止せず「一時休止」と表明されているのも企業倫理的に非常に危ういと言わざるを得ない。
しかし今回の件は本当に「説明方法」の問題だったのだろうか?
十分な説明がなされていればやっても問題ないビジネスだったのだろうか。
個人情報保護委員会(内閣府傘下組織)が問題にしたのは説明方法だったのかもしれない。しかし実際に利用する学生にしてみれば説明方法の問題ではなく、そもそもそのようなデータのやり取りを行う事自体やめてほしいと思うのではないだろうか。
就活においてナビサイトのエントリー機能はまだまだ必須に近い。
「説明に同意できないので登録しない」と突っぱねて就活できる学生など少数派であり、大半の学生は同意できなくとも登録するしかないだろう。
それを理解せず、説明方法の問題にするのは根本的な問題解決にはなっていない。
実際のところ、このビジネスがリクナビの売上に与える影響は軽微だろう。目先の収益を考えるなら、そこまで固執すべき収益源ではないはずだ。
にも拘らずこのようなサービスを作ってしまったのは、AIを活用した採用関連サービスの台頭にリクナビも焦っているという事かもしれない。旧態依然としたナビサイトビジネスは行き詰まりを見せており、学生に送信できるダイレクトメールも今や二束三文で叩き売られている。
「行動履歴データを持つという強みをAIで活かし、新たな収益源になるかを模索したい」という焦りと、「内定辞退を減らしたい」という企業側のニーズが合致してしまい、歪んだ形でサービス化されてしまったというのが実情ではないだろうか。
「昔のリクルートならこの企画にOKは出なかったはず」とこの事件を残念がるOBも少なくない。
「内定承諾したらリクナビ退会して…」人事からの圧力も
また内定辞退確率の予測は、選考に影響を与えるリスク以外にも「オワハラ」につながるリスクを含んでいる。
実際、このようなデータ販売が行われる前から「ウチの内定を承諾したらナビサイトは退会するように」などとナビサイト退会の圧力をかける企業もあったという。
こうした問題は去年も記事として取り上げたが、学生が就活終了を促すために内定者バイト/インターンを勧めてくる企業もある。
「オワハラ」の実態とは?他社の選考や内定辞退を強要する企業と就活生の駆け引き
辞退確率が高いからフォローをすると言えば聞こえは良いが、内定者フォローも一歩間違うとただのオワハラだ。
リクナビが今後「リクナビDMPフォロー」を提供再開するのであれば、選考への影響だけでなく就活生の意に沿わない形のオワハラに発展しないか、よく注意するべきではないだろうか。
説明方法だけでなく、「そもそもどこまではやってよいか、やってはいけないか」という線引きをよく検討していただきたい。