【東京五輪】開会式当日と翌日、米主要紙の一面を飾った話題は?
波乱の東京オリンピックがいよいよ始まった。
すでに日本をはじめとする各国選手が金メダルを獲得したり、メダルの有力候補と言われていた選手が思わぬ不調だったりと、感動や驚き、失望が起こっている。
筆者はこれまで、アメリカ在住の立場、およびUSチームのオンラインサミットに参加した経験から、日本のメディアにこのように聞かれることが度々あった。東京オリンピックについて「アメリカではどのように受け止められているのか?」「アメリカの人はどう思っているのか?」。
筆者の答えはこのようなものだった。
「春以降、少しずつメディアがオリンピック関連の話題を取り上げるようになった。特に主要紙のスポーツ記者は、金の亡者であるIOCの腐敗について非難し、コロナ禍での開催反対の立場を取っている。一方で一般の人々はと言うと、多くの人がオリンピックに関心を寄せていない。日々アメリカ国内の問題が山積みなので、オリンピックまで気持ちが届かないのだろう。しかし、大会が始まって自国の選手がメダルを取ったら目を向け始めるだろう」
これは街頭インタビューや、友人やパーティーで出会った人との会話から、筆者が感じたリアルな感想だった。日々さまざまな人に話を聞いてみても、オリンピックが直前に迫った時期でさえ「今度のオリンピックは北京だよね?」「今年開催?来年に再延期では?」など、日本からすると到底信じられないようなコメントが返ってくるのが1人、2人のレベルではなかった。それほどアメリカの一般の人々は、(開催まで)オリンピックへの興味や関心がもともと薄い。
もちろんすべての人ではない。少数派ながら「誰がメダルを取るかなど、オリンピックは気になる」と言う人や、「関心はあったけど、昨年延期が決まった時点で関心の糸が切れた。今年開催なら好きな競技はチェックする」と言う人もいる。
開会式の2週間前から、アメリカでの放映権を持つNBCがオリピック関連のCMを大々的に放送するようになり、機運が高まってきた。地方紙や深夜帯のテレビ番組までもが東京オリンピックのさまざまな問題やゴシップ(緊急事態宣言や選手の陽性判定、担当者解任・辞任、トイレ臭、選手村の簡易ベッドなど)を取り上げるようになり、(ネガティブな話題も含んだ)オリンピックムードが出てきたところだった。
実際に開会式が終わり、日本では評価が二分している。大絶賛する声が多いが、中には否定的な意見もあるようだ。果たしてアメリカは他国開催の開会イベントに興味を持ったのだろうか?
筆者は、東京オリンピック開催日の米主要紙の朝刊がどのような話題なのか気になり、いくつかかき集めてみた。
開会式当日の各紙朝刊一面
ニューヨークタイムズ
- (新型コロナ)ニューヨークが新型コロナでロックダウンをした時期に支えてくれたエッセンシャルワーカーの特集
- (国際)アメリカ軍のアフガニスタン撤退関連
- (新型コロナ)ワクチン未接種者が感染拡大につながっている、など
ウォール・ストリートジャーナル
- (国際)香港で子どもを扇動する絵本の発行団体が逮捕
- (ビジネス、製造)世界的な半導体不足が2023年まで続く可能性
- (経済)経済回復においての有価証券取引について、など
ニューヨークポスト
- (セレブ、ゴシップ)ラッパー、ドクター・ドレーの離婚した元妻の慰謝料
- (新型コロナ、スポーツ)ナショナル・フットボール・リーグが選手に新型コロナワクチン接種を促す
- (同紙の裏表紙=日本の新聞の一面にあたる右サイドは、スポーツ記事の一面だ。この日の話題はMLBのヤンキース対レッドソックス戦で、ヤンキースのブルックス・クリスキー投手の負け試合について)
これらの新聞は、ニューヨークエリアで流通している主要メディアの一部だが、一面にオリンピック関連の見出しは見当たらなかった。
スポーツ記事も、どちらかというとNFLやMLBの方に関心が寄せられているようだ。
ならば中面はどうか?
スポーツ面でやっとオリンピックの話題を見つけた。
これらの紙面を見る限り、主にUSチームの選手にフォーカスした記事だ。日本で大騒ぎになったオリンピック・スキャンダルに関する否定的な記事は見なかった。
開会式翌日の各紙朝刊一面
開会式の様子はNBCにて、朝の時間帯に生放送、そして午後7時30分からダイジェスト版で流れた。
その翌朝の新聞は・・・。
ニューヨークタイムズ
- (オリンピック)東京オリンピックが厳粛な空気に包まれ、無観客でいよいよ開幕
- (国際)ハイチのモイーズ大統領埋葬など、暗殺事件続報
- (新型コロナ)ワクチンのブースター(追加免疫。接種完了から数ヵ月経った後に再び接種するワクチン)の必要性
- (新型コロナ)ニューヨーク市長が市の職員にワクチン接種を義務付け、など
ウォール・ストリートジャーナル
- (オリンピック)1年遅れの東京オリンピック、空の会場で開始
- (経済)暴落から一転し、NYダウが3万5000ドル超え
- (ビジネス、製造)電気自動車への移行
- (新型コロナ)科学者による長引く新型コロナの謎解き
デイリーニュース
- (オリンピック)史上もっとも奇妙な五輪が開幕
- (事件、ローカル)ブロンクスの住宅敷地内から、幼児の歩行に必要な特別なスニーカーが盗まれる
オリンピック関連は開会式の翌日、一面および中面で大きく取り上げられていた。記事の内容は「無観客の中で行われた、オリンピック史上稀に見る奇妙な大会」という趣旨だった。開催国からするとオリンピックが世界の一大行事よろしく思うかもしれないが、アメリカではほかにも新型コロナや経済ニュースなど、新聞が伝えたい話題や事件が山ほどあるため、俯瞰して見てみると開会式はほんの1つのイベント扱いだ。
ドローンやピクトグラムの演出を賞賛する声がソーシャルメディアで話題になっていたり、無観客で寂しい、奇妙、長いなどのハイライト記事、『イマジン』の歌詞についての否定的な記事などを見たが、日本の一部のメディアや知識人のようなネガティブな評価をしている記事は筆者が確認する限り見なかった。(専門家や批評家でもない限り、人々はそこまで他国開催の「開会式」に注視していない)
最低の視聴率か?
CNNは23日、FOXスポーツの元幹部で、メディアコンサルタントのパトリック・クレイクス氏のコメントとして「今大会はこれまでの夏季オリンピックで、おそらく史上最低のテレビ視聴率になるだろう」との分析を紹介した。
ただし、あくまでもテレビ視聴率の低迷の危惧であり、ストリーミングやソーシャルメディアなどでの視聴や、ハイライト、選手のインタビューなどのコンテンツの視聴などが悪いとは限らない。
CNNによると、もし視聴率が大きく低迷すればメイク-グッズ、つまり広告主に無料広告で補償しなければならなくなる可能性があるという。ただし低迷といえども、今夏にテレビ放送されるほかのどの番組よりもオリンピックの視聴率は高くなるだろうと予想している。
今後メダル獲得数が増えるにつれ、オリンピックが気になってしょうがないという人も必ずや増えていくだろう。
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(Text and photos by Kasumi Abe) 無断転載禁止