東京五輪2ヵ月前にして、米「日本への渡航中止勧告」が意味すること
東京オリンピックを2ヵ月(8週間)後に控えた24日、アメリカ国務省は、日本で新型コロナウイルス感染者が増加し緊急事態宣言の延長が検討されている状況を鑑み、国民に対して日本への渡航中止を勧告した。
この勧告は、CDC(アメリカ疾病予防管理センター)が日本への渡航警戒を最高レベルの4(Do Not Travel)へ引き上げたことを受けたもの。
この日、渡航中止勧告(レベル4)を受けたのは日本だけではない。感染が拡大するスリランカもそうだ。レベル4の対象国は現在かなりの数となっており、メキシコ、ブラジル、トルコ(すべて2021年4月20日)、インド(2021年5月5日)など、さまざまな国が渡航を控えるよう勧告を出されている。
ただしレベル4だからといって、その国への渡航が禁止されているわけではない。国務省のウェブサイトには「(それでも)もし渡航する際は、するべきこと」とした上で、例えば日本への渡航が避けられない場合は、在日米国大使館やCDCが発信する関連情報を注意深くチェックした上で、健康管理に留意し、かかりつけの医者に渡航について相談することなどを勧めている。
米英メディアは渡航中止勧告をどう報じたか?
日本にとって今回の渡航中止勧告で気になるのは、オリンピックからわずか2ヵ月(8週間)前という微妙なタイミングだろう。米英メディアはこの勧告がオリンピック・パラリンピックに与える影響についてどう見たのだろうか?
「US issues Japan travel warning weeks before Olympics」(オリンピックの数週間前に米国が日本旅行を警告)と報じたのは英BBC。「レベル4の勧告にも拘らず、米オリンピック関係者は、米代表選手が安全に大会に参加できると確信している」とした。また、IOCのコーツ副会長による「東京がまだ非常事態下にあってもオリンピックは(開催に向け)進むだろう」とのコメントにも触れ、「日本の人々は外部からのプレッシャー、つまり"gaiatsu"(外圧)なくしてオリンピック中止はないだろうと考えており、今回の渡航中止の勧告が、米国代表チームがオリンピック出場を取りやめる前兆になることを望んでいるだろう」と報じた。
また記事では、「アスリートではなく人として考えるならば、もし人々が安全を感じることができない大会ならば、それは大きな懸念事項だ」と、日本に住む人々の気持ちに寄り添ったテニスの大坂なおみ選手のコメントも改めて紹介した。
米メディアもこぞってこの件について報道している。
CNNは「US citizens warned not to travel to Japan as Tokyo Olympics near」(東京オリンピックが迫る中、米国市民に日本への渡航中止を警告)という見出しで、大会開催は「ますます高いハードルに直面している」と報じた。まだ5%にも満たない日本でのワクチン接種の遅れを指摘し、オリンピック反対の声が上がっている日本の現状も触れた上で、前述のレベル4の意味合いなどを紹介した。
ニューヨークタイムズ紙は「With Tokyo Olympics Weeks Away, U.S. Warns Americans Not to Travel to Japan」(東京オリンピックが数週間後となり、米国は国民に日本に旅行せぬように警告)という見出しで、日本の感染者数は欧米基準で考えると低いとしながらも、人々の多くはワクチン接種の遅れなど、政府の反応に不満を抱えていると報じた。
「米国からの選手団の派遣は関連しない」
ワシントンポスト紙は「Japan says US travel warning for virus won't hurt Olympians」(日本は、ウイルスに対する米国の渡航警告はオリンピック選手に影響しないと言っている)という見出しで、今回の渡航中止勧告がオリンピック選手に与える影響について、日本政府がすぐに否定したことに注視している。
今回の勧告を受け、加藤勝信官房長官は記者会見でこのように答えている。「今回の渡航情報をレベル4に上げる判断と、米国からの選手団の派遣は関連していないとの説明を、米国から受けている」。また、開催を実現するとの日本政府の決意をアメリカのオリンピック委員会が支持するという立場に何ら変更はなく、アメリカ代表選手の出場にも影響はないとの声明が出されていることも強調した。
(Text by Kasumi Abe)無断転載禁止