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「おまえらはみな死ぬんだ」と乱射 生徒は死者の血を塗り死んだふり 米学校銃撃事件の背後にある同調圧力

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 小学生19人、教師2人が亡くなった米テキサス州の小学校銃乱射事件。 

 地元の高校に通うサルバドール・ラモス容疑者(18歳)は5月16日の誕生日後に購入した銃で、同容疑者が高校を卒業できなかったことをめぐって口論になっていたという祖母(66歳)の顔を撃った後、自宅近くにあるロブ小学校に行き、4年生の教室でバリケードを作って、銃を乱射した。ラモス容疑者は現場に突入した警官と銃撃戦の末、射殺された。 

 今、現場を目の当たりにした生徒たちが、ラモス容疑者の銃乱射時の状況を語り始めている。

生徒たちは死んだふり

 生徒のサミュエル・サリナス君(10歳)は、ABCテレビのGood Morning Americaというモーニングショーで、銃乱射時の状況をこう話している。

「彼(ラモス容疑者)は教室に入るとドアを閉め、『おまえらはみな死ぬんだ』と言った。先生を撃ち、それから生徒を撃った。彼が僕を狙っていた。でも、銃弾は、彼と僕の間にあった椅子に当たり、銃弾の破片が僕の腿に当たった。僕は撃たれないよう、死んだふりをした。他の生徒たちも同じようにしていた。床には子供たちが倒れていて、たくさんの血が流れていた」

 撃たれて亡くなった生徒から流れ出た血。CNNは、隣で亡くなっている同級生の血を身体中に塗って死んだふりをした女子生徒もいたと報じている。

 また、撃たれて倒れている女子生徒の上に覆いかぶさり、2人とも撃たれたように見せかけてサバイブした女子生徒もいるという。

ひどいイジメにあっていた

 ラモス容疑者はなぜこんな惨劇を起こすに至ったのか?

 彼のことを知る友人や親類が、米メディアにラモス容疑者について話しているが、そこからはイジメという問題が浮かび上がってくる。

 ラモス容疑者はミドルスクールや中学校時代、吃音という言語障害があることや舌足らずの発音でイジメられ、学校に行くのがいやだと話していたという。「彼はひどいいじめにあっていた。たくさんの人にいじめられていた。ソーシャルメディアやゲームなどすべてで」とラモス容疑者の親友だったという人物が米紙ワシントン・ポストでコメントしている。

 ラモス容疑者は、着ている服や家庭の経済状況をめぐってもいじめられていたようだ。黒い服を全身にまとい、軍隊用のブーツを履いていたという。事件当日もラモス容疑者は黒い服を着ていた。また、黒いアイライナーを入れた画像をSNSに投稿したこともあり、それに対して、ゲイの蔑称入りのコメントをつけられたこともあったという。ナイフで自分の顔を傷つけたこともあり、その理由を友人に問われると「楽しいからやったんだ」と答えていたという。SNSには銃の画像も投稿していた。孤立していたラモス容疑者はだんだん不登校になっていった。

 また、ラモス容疑者の家庭は隣人も心配するほど荒れており、ドラッグ問題を抱えているという母親と警官がかけつけて来ることもあるほどの喧嘩をしたこともあったようだ。母親を罵っている動画をインスタビデオに投稿したこともあったとも報じられている。

銃乱射事件の背後にある同調圧力

 黒い服というと、思い出すのは、1999年にコロラド州で起きたコロンバイン高校銃撃事件の犯人エリックとディランが黒いトレンチコートを着て学校に通っていたこと。2人は“トレンチコート・マフィア”という、メイン・ストリームから外れていたグループの一員で、生徒たちから気持ち悪い、非常に違っている異様な存在だとみなされ、からかわれたり、仲間はずれにされたりしていた。

 実際、米国でこれまで起きてきた学校銃乱射事件を振り返ると、その背後には“違っている存在”だと周囲の生徒たちから見られて、からかわれたり、いじめられたりしていたという状況が横たわっている。

 拙著『そしてぼくは銃口を向けた』で取材した、アラスカ州べセル高校銃乱射事件の銃撃犯エヴァン・ラムジーは「他の生徒たちと違っているから、いじめられていた。学校ではいつも孤独だった。いじめられるので、学校に行くのがいやになり、さぼるようになった」と筆者に話した。

 べセル高校の教師たちも、筆者にこう指摘した。

「いじめの原因は、ルックスがおかしいとか、服装がみんなと違うとか、にきびがいやだとか、成績が良くないとか、良い友達と一緒にいないとか、親がどうだとかいろいろあります。生徒同士がそういうのを細かくチェックしていて、何か違うといじめの対象になるのです。ピア・プレッシャー(同調圧力)と言うんですが、子供たちの間には、“みんな一緒でなくてはならない、ある一定の枠に当てはまらなくてはならない”という暗黙のルールみたいなものがあるんです」

「着ている服や聴く音楽、ヘアスタイル、考え方、行動が、周囲の子供たちとは大きく違っている子供たちは、メイン・ストリームにフィット・イン(適合)していないと見なされ、学校ではいじめられる傾向があります。特に、ハイスクール時代はピア・プレッシャー(同調圧力)が強く、子供たちは違いを受け入れない傾向があります」

 様々な人種や背景の人々で構成されている米国は、同調圧力が強い日本社会とは違い、個人の違いを個性として尊重し、多様性を重視する社会だと考えられているが、必ずしもそうではないのだ。米国の学校銃乱射事件は、米国にも違いを受け入れない同調圧力が存在していることを証明している。言い換えると、米国には違いを受け入れない同調圧力が存在しているからこそ、多様性を尊重する姿勢が重視されているのかもしれない。

 ラモス容疑者も、言語障害や周囲の生徒たちとは違う服装、家庭の事情、銃の愛好、孤立していることなどから、学校のメイン・ストリームにフィット・インしていない、他の生徒たちとは違っている生徒と見なされていたのではないかと推測される。そのため、他の生徒たちから、いじめという同調圧力を受けていたのではないか?

被害者から報復者へ

 銃撃が起きるメカニズムについて、ある専門家はこう指摘している。

「いじめられた子供の中には被害者意識が生まれます。しかし、それはある時点で、報復心へと変わり、銃撃を引き起こすのです」

 悲劇的なのは、米国の学校銃撃事件の場合、現実的に銃撃を受けるのは、銃撃犯をいじめていた生徒ではなく、たまたま、その時間にその場所に偶然居合わせた人々であるケースが多いことだ。今回の銃乱射事件もそうだろう。亡くなった21人の生徒や教師は、偶然、その場に居合わせてしまった。つまり、銃のある世界では、誰もが、偶然、銃撃の場に居合わせ、撃たれる可能性があるということだ。そして、銃のある世界では、銃による悲劇がこれからも繰り返されることになる。

 バイデン政権が徹底した銃規制に本腰を入れて乗り出すことをただただ祈るばかりだ。

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在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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