ゴーン事件を巡りいよいよ「日仏戦争」が表に出てきた
フーテン老人世直し録(417)
睦月某日
共同通信は20日午前、「フランス政府がルノーと日産との経営統合を日本政府に要求したことが分かった」と伝えた。フランス政府代表として来日したルノーのマルタン・ビアル取締役やルメール経済・財務相の側近らがマクロン大統領の意向として経済産業省に伝えたという。
日産はゴーン被告の不正を暴露することで経営統合を阻止してきたが、フランス政府はより圧力を強めた形だと共同通信は伝えている。いよいよゴーン事件の背後にある「日仏戦争」が表に出てきた。
東京地検特捜部がゴーン追起訴を予定していた11日に合わせて、フランスのルモンド紙は「東京オリンピック招致疑惑」でフランスの捜査当局が竹田恒和JOC会長を起訴するかどうかの本格捜査に入ったと報じた。フーテンはゴーン追起訴とオリンピック招致疑惑捜査は無関係でないとブログに書いた。
連休明けの15日、竹田会長は「私は全く関わっていない」と自身の関与だけを否定する会見を行い、一方で東京地裁はゴーン被告の保釈請求を認めず、国際社会の批判をよそに長期にわたってゴーン被告を拘留する決断を下した。フーテンはフランスの司法と日本の司法が背水の陣を敷いた戦いの火ぶたが切られたとブログに書いた。
すると翌16日から数々の動きが伝えられ、フーテンには戦いの激しさを物語るかのように思えた。まず16日にフランス政府はルノーのマルタン・ビアル取締役が日本を訪れていることを発表、ルモンド紙はフランス政府関係者が「ここ数週間続けてきた(日本側との)接触の一部だ。フランス政府はルノーの株主としての役割を果たす」と語ったと報じた。
この日にルメール経済・財務相もテレビで「ゴーン氏が長期にわたって職務から離れなければならないなら、新たな段階に移る必要がある」と述べ、ルノーの筆頭株主であるフランス政府がゴーン会長解任を要求、ルノーは20日に新体制に移る見通しとなった。
そして同じ16日、シンガポールの裁判所は東京オリンピック招致委員会が契約していた「ブラック・タイディングス社」の元代表に対し、虚偽報告の罪で禁固1週間の有罪判決を言い渡した。
この元代表は東京オリンピック招致疑惑で収賄側とされるセネガル人の知人で、東京オリンピック招致委員会は2013年に「ブラック・タイディングス社」の銀行口座に200万ドル(2億3千万円)を2度に分けて振り込んでいる。
今回の有罪判決は2014年に得た4400万円を、コンサルティング業務をしていないのにコンサルティング料と虚偽の報告をした罪である。4400万円は日本と無関係だと思うが、竹田JOC会長の「コンサルティング料として支払った」という説明に疑問符が付く。コンサルティング料と見せかけた賄賂の可能性を疑わせるのである。
翌17日に東京地裁はゴーン被告の弁護人から出されていた準抗告を棄却し、改めて長期拘留を認める決定を下した。そして18日には日産だけでなく三菱自動車もゴーン被告が約10億円の不正な報酬を受け取っていたことを明らかにした。益子修CEOは「日産と協議してゴーン被告の責任を追及していく」と損害賠償請求も検討する考えを示した。日本側は「ゴーン巨悪説」で結束する。
一方のフランス側は18日にルノーのラゲイエット会長代行がフィガロ紙に「ゴーン氏解任」を明言した。しかしその理由は「不正の有無ではなく職責を果たせないから」として、日本の日産や三菱自動車が会長を解任したのとは事情が異なることを強調した。
これまでルノーは「フランス国内で不正は確認されていない」とゴーン被告をルノーの会長に据えたままだったが、長期拘留が確定したため、むしろゴーン被告を会長にしておくより新体制に切り替えた方が、フランス政府の目的に適うはずだとフーテンは考えたが、フランス政府の動きはその方向になったのである。
フランス政府の目的は日産の完全子会社化だった。今回、フランス政府が経済産業省に要求したルノーと日産の経営統合は、両社を傘下に収める持ち株会社を作る構想のようだが、そもそも日産はマクロン大統領が考える完全子会社化を阻止するために独裁経営者ゴーン追放を防衛策の第一歩とした。そして東京地検特捜部の手を借りた。
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