背水の陣を敷いたか?フランスの司法VS日本の司法
フーテン老人世直し録(416)
睦月某日
フランスのメディアによって「東京オリンピック招致疑惑」に再び火がつけられた先週11日は、「日産ゴーン特別背任事件」で東京地検特捜部がゴーン追起訴を予定していた日であった。
いやでも2つの疑惑が重なり合うタイミングでの報道の背景には「ナニカアル」と前回のブログに書いたが、連休明けの15日にまた「東京オリンピック招致疑惑」と「日産ゴーン特別背任事件」が並んでニュースになった。そのことで日仏両捜査当局の相対する動きが国民の意識の中に刷り込まれる。
この日、フランスの捜査当局から贈賄の疑いをかけられた竹田恒和JOC会長は潔白を主張するため記者会見を開いたが、疑惑を否定するどころか疑惑を国際社会に広める結果をもたらし、一方で東京地裁はゴーン被告側から出された保釈申請を却下、無実を訴えるゴーン被告の拘留は長期化し国際社会の批判の目にさらされることになった。
フーテンの目には、フランスの司法と日本の司法の鎬を削る戦いの火ぶたが切って落とされたかのように見える。そしてこの勝負は両者とも一歩も引くことのできない背水の陣の構えである。
フランスの捜査当局がどれほどの証拠を握っているのか分からないが、東京オリンピックが終わってからではなく、開かれる前に贈収賄疑惑の捜査開始を公表したことにフーテンは驚かされた。
2016年にブラジルで開かれたリオ・オリンピックでは、東京オリンピック招致と同じシンガポールの振込先に同じ金額の賄賂が渡されたとして、ブラジルオリンピック委員会の会長がブラジルの捜査当局によって逮捕されたが、それはオリンピックが終わった翌年のことであった。
この場合、フランスの捜査当局からブラジルの捜査当局に情報が寄せられ、逮捕に至ったとみられるが、それを開催の前に行えば、オリンピックの開催自体が危うくなる。従ってそれなりの配慮を行い、終わってからの逮捕になったと想像する。ところが東京オリンピックに対してはその配慮がない。
それでもここまでくれば東京オリンピックは開催されることになると思うが、しかしフランスの捜査当局のためにスポーツの祭典には暗い影が付きまとう。仮に確たる証拠もなく捜査開始を宣言したとなればフランスの捜査当局は世界から激しい批判を浴びる。従ってフランスの捜査当局にとって捜査開始宣言は後ろに引くことのできない背水の陣である。
そう考えると竹田恒和JOC会長の記者会見は、疑惑を否定するに足る内容ではまるでなく逆に疑惑を広めた。会見時間はわずか8分足らず、紙を読み上げるだけで、記者の質問を受けなかった。紙を配布すればこと足りる内容で記者会見と呼べるものではない。
その内容も「契約は正当なもので支払ったのはコンサルティング料」と言うだけで、何の対価として支払ったのか具体的内容は一切ない。そのうえ「数人が契約書に押印した後に自分も押印したが、決定のプロセスには全く関わっていない」と逃げを打った。また支払った相手のことを「全く知らない」と言うのだから責任者失格である。
ただ竹田氏の話を聞いてフランスの捜査当局はこの事件を全く諦めていなかったことが良く分かった。最初に疑惑が伝えられたのは東京オリンピック招致が決まった2年後の2015年5月である。竹田会長は国会に招致されたが疑惑を全面否定した。その後第三者委員会の調査でも疑惑は否定され幕引きが図られた。
そして翌2016年、リオ・オリンピックが始まると誰もが疑惑を忘れた。ところがリオ・オリンピックが終わった翌2017年2月に竹田会長は東京地検から事情を聞かれたという。おそらくフランスの捜査当局からの依頼で日本の検察が事情を聞いたのだろう。
そしてその年の10月にブラジルのオリンピック委員会会長が贈賄容疑で逮捕された。次に2018年12月10日に竹田会長はフランスの捜査当局に呼ばれて事情聴取され、2019年1月11日にフランスメディアが本格捜査開始を明らかにしたのである。東京オリンピック終了後ではなく開催前の事件着手の意図がフーテンは気になる。
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