衝撃ニュースのタイミングの裏には必ずナニカアル
フーテン老人世直し録(415)
睦月某日
11日に衝撃的なニュースが2つ飛び込んできた。1つはフランスのルモンド紙が「フランスの捜査当局が東京オリンピック招致に絡む贈収賄容疑で、日本オリンピック委員会(JOC)の竹田恒和会長に対する本格捜査を開始した」と報じたことである。捜査が長引けば2020年開催の東京オリンピックは大いに傷つく。
もう1つは厚生労働省が作成する「毎月勤労統計」に不正があり、失業保険や労災保険を少なく支給された国民が延べおよそ2千万人、総額537億円に上ることが明らかになった。国家の根幹の数字に不正があったため、閣議決定した31年度予算案は修正せざるを得なくなり、国際社会での日本の信用は傷ついた。
ニュースの中身も重大だが、フーテンは「なぜこの時期にニュースになったか」という「タイミング」により重大さを感じる。見えないところで何かが動いている。それがこの時期にあってはならないことを表に出した。まだ判断する材料が出揃ってはいないが、それぞれの背景を探ってみる。
東京オリンピック招致を巡る贈収賄疑惑は3年前の5月に一度ニュースになった。フランスの捜査当局がロシアのドーピング疑惑を調べる中、セネガル出身の国際陸上競技連盟前会長ラミアン・ディアク氏の息子の会社の銀行口座に、日本の招致委員会から2億2300万円の送金があった事実を突き止めた。
送金時期がオリンピック招致決定と近いことから、フランス検察は開催地決定に影響力を持つ国際オリンピック委員会(IOC)の委員を買収する目的ではないかと疑った。それが海外メディアで報道され、日本でも国会が竹田会長を呼んで事情を聞いた。
竹田会長は「正当なコンサルティング料を支払っただけ」と疑惑を否定したが、ディアク氏の息子の会社はテレビで見た限り実体のないペーパーカンパニーで、週刊誌では実際に交渉を担当した電通関係者に問題があると報じられた。しかし第三者委員会の調査でも不正はないと結論付けられ日本国内では幕引きが図られた。
ところが2年前の10月、2016年のリオ・オリンピック招致を巡り、ブラジルの実業家からディアク氏の息子の会社に金を振り込ませた容疑で、ブラジル・オリンピック委員会会長がブラジル捜査当局に逮捕された。元特捜検事の郷原信郎弁護士によれば振込先も金額も日本のオリンピック招致と全く同じ構図である。
そこで今回の話だが、沈黙を守っていたフランス捜査当局が動き出したのは昨年の12月10日と報じられている。その日は保釈されると見られていたカルロス・ゴーン容疑者が東京地検特捜部によって再々逮捕された日であった。
フランス捜査当局の竹田会長事情聴取と東京地検特捜部のゴーン再々逮捕が同じ日だったことは偶然かもしれない。しかし11月19日のゴーン逮捕の時点からフランス捜査当局が対抗措置を準備した可能性は否定できない。そして今回のルモンド紙報道が1月11日だったのは偶然と思えない。明らかにゴーン追起訴の日を選んで報道したとフーテンは考える。
追起訴だけなら保釈の可能性が出てくる。しかし4度目の逮捕もありうるとの見方があり、それを裏付けるようにオマーンの知人からのキックバックという「新たな疑惑」が直前までメディアで報道された。しかし4度目の逮捕はまだない。ルモンド紙の報道があったからかもしれない。裁判所は来週保釈を認めるか決定を下すが、そのタイミングを狙ったニュースだと思う。
フーテンはゴーン逮捕の直後から、これは自動車の覇権をめぐる「日仏戦争」と見てきた。ルノーの筆頭株主であるフランス政府が日産の工場をフランス国内に作り、英国のEU離脱後の欧州経済の拠点としてフランス経済を発展させようとするのに対し、米国のトランプ政権や日本の安倍政権はそれを阻止する側に回ったと考えたからである。
一般の民間企業が独裁的経営者を追い落とすために初めから東京地検特捜部と手を組むことなど考えられない。東京地検特捜部の捜査はすべて政府の指揮下にあり、日産は民間企業と言っても経済産業省から取締役が派遣される準国策会社である。
官邸も経産省も民間企業の話だと言って政治の関与を強く否定するが、フランス政府はそう見ていない。対抗措置として日本政府の最も痛い東京オリンピックを人質に、水面下での政治闘争に入ったとフーテンは見る。それが竹田会長に対するフランス捜査当局の本格捜査開始宣言である。
被疑者が無罪を訴えているうちは決して保釈を認めず、精神的に追い詰められた被疑者が罪を認めれば保釈し、しかし裁判で検察に自供したことを否認しても有罪となる。それが日本特有の「人質司法」と呼ばれるやり方だが、フランスは自分たちの司法のやり方で東京オリンピックを人質に取った。
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