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『緊急事態宣言延長』の中、飲食店が営業するのは「悪」なのか?

山路力也フードジャーナリスト
営業している飲食店には誹謗中傷が相次いでいる(写真:アフロ)

『緊急事態宣言』延長により飲食業界にさらなるダメージ

 安倍晋三首相は30日夜、新型コロナウイルスの感染拡大に備える改正特別措置法(新型コロナ特措法)に基づく緊急事態宣言について、「5月7日から、かつての日常に戻ることは困難」との認識を示した。これは事実上の緊急事態宣言延長を意味することになる。翌5月1日、政府の専門家会議においては「全国で一ヶ月の延長」が必要との方針が打ち出された。

 4月8日に東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡の7都府県を対象にして発出された『緊急事態宣言』は、17日からは全国に拡大。北海道や愛知、京都など新たに6道府県を加えた13都道府県を「特定警戒都道府県」と位置づけて、仕事は極力テレワークにシフトすることと、不要不急の外出を極力控えるように要請した。

 これらの13都道府県は人口もさることながら、人の往来が特に激しい地域であるために特定警戒エリアに指定されたのだろう。それは同時に飲食店や小売店などの数が多い地域でもある。これらの地方自治体では『緊急事態宣言』に沿った形で独自の『緊急事態措置』を講じているが、それによって飲食業界は今までにない大打撃を受けている。

 緊急事態宣言措置については、それぞれの地方の実態に合わせて各地方自治体に決定の権限があるが、上記地方自治体に関しては概ね足並みが揃っており、一般的な飲食店に関しては原則として営業を継続するが、営業時間の短縮を要請することとなっている。簡単に言えば「バーやクラブなどの遊興施設は休業を要請。居酒屋を含む飲食店に関しては営業時間の短縮を要請。テイクアウトやデリバリーについては要請をしない」ということになる。

この一ヶ月で飲食店から人が消えた

 『緊急事態宣言』が発出されて約一ヶ月。政府及び地方自治体による「外出自粛要請」は一定の効果を得て、繁華街など人がこれまで密集していた都市部から人が消えた。都市部に店を構える飲食店では、例年と比べて売り上げが50%〜90%減少しているところも少なくない。足りない売り上げを埋めるべく、テイクアウトやデリバリー、通販などにシフトしている店も増えてきたが、減少した売り上げの補填とまではなり得ていないのが現状だ。

 その一方で、家から徒歩や車で行けるような、地方都市のロードサイド店やベッドタウンなどにある飲食店などは、都市部の店に比べるとまだ客が足を運んでいるケースが多い。しかし、営業している店にはクレームの電話や張り紙がされたり、また店に足を運ぶ客に対してもSNSなどで誹謗中傷が浴びせられているような現実もある。

 キャバレーなど地方自治体より休業要請が出されている業種が、要請を無視して営業しているのであれば、そのような反応があることは分からなくもない(しかし、個人的にはそれは行政の仕事であり、一般市民が己の正義感を振りかざして行動するべきではないと思っている)。しかしながら、飲食店は先に述べたように営業そのものを自粛するようには要請されていない。あくまでも、営業時間の短縮や、酒類の提供時間の制限が要請されているだけだ。要請の範囲内で営業していることが咎められる理由はどこにもない。

 そんな状況で『緊急事態宣言延長』が現実的なものとなり、飲食業界を取り巻く環境はさらに悪化するのは自明である。飲食店は店を営業して客が来ることではじめて売り上げが立つ。現在休業しているところは売り上げがゼロであり、営業しているところでも半減もしくはそれ以下になっている。このままでは飲食業界が消えてしまうのも時間の問題だ。

 飲食店が休業や廃業になることで、従業員たちの生活にも影響が出るのはもちろん、生産者をはじめとする取引業者や流通業者にもダメージを与える。日本の外食市場規模はおよそ26兆円、そのうちレストランなどの「営業給食」と居酒屋や喫茶店などの「料飲主体部門」の市場規模は22兆円ほどになる。これらの大半が焼失してしまうばかりか、関連する産業の市場にも多大な影響を与えることは必至だ。

今、飲食店に足を運ばなければ飲食業界が消える

 繰り返すが、飲食店には営業自粛の要請は出ていない。今こそ、飲食店はウイルス感染拡大の防止に細心の注意を払った上で営業をすべきである。店内の換気を徹底し、客席のソーシャルディスタンスを確保するなど「3密」を避けた環境を構築し、さらに店内外の消毒除菌を徹底して行い、客に対しても手指の消毒やマスク着用をお願いするなどして、客も従業員も安心安全に過ごせる環境を整える責務がある。

 同時に、店に足を運ぶ客にも高い衛生管理意識が求められる。マスクを常用し、こまめな手洗いや消毒を励行し、店内でもお喋りをしたり長居をせずに食事し、行き帰りも極力移動を少なく済む近くの飲食店を利用するなど、「うつらない、うつさない」という意識を持った行動が必要だ。店と客で感染拡大を防ぐ協力体制を構築しなければならない。

 もちろん、上記のような対策が取れない飲食店は営業をすべきではないし、このような行動が取れない人は外出すべきではない。しかし、店も客もしっかりとした知識と意識を持って営業、行動すれば、感染リスクは著しく低い。もしそれでも飲食店に行くのが悪というのならば、スーパーやコンビニでの買い物も問題視すべきであり、飲食店だけが目の敵にされているのはおかしいと言わざるを得ない。

 一種の同調圧力的な思考停止状態での自粛は百害あって一利なし。過度の自粛によって、コロナウイルスによる死亡は防げるかも知れないが、その代償として生活が成り立たなくなったり、精神的にダメージを受けてしまう人が増えてしまっては元も子もない。

 飲食業界の灯を消してはならない。外出自粛要請を出している中で、なぜ飲食店には営業自粛の要請が出ていないのか。それは都市をロックダウンさせない中で、最低限の自由な経済活動をして欲しいという苦渋の判断によるものだ。ならば、開けたくても開けられない他の業種の分までも、休業要請の出ていない飲食業は積極的に店を開けて、この国の経済を回していく責務がある。そして私たちも出来る範囲で飲食店に足を運び、この国の経済を下支えしていくべきなのだ。

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フードジャーナリスト

フードジャーナリスト/ラーメン評論家/かき氷評論家 著書『トーキョーノスタルジックラーメン』『ラーメンマップ千葉』他/連載『シティ情報Fukuoka』/テレビ『郷愁の街角ラーメン』(BS-TBS)『マツコ&有吉 かりそめ天国』(テレビ朝日)『ABEMA Prime』(ABEMA TV)他/オンラインサロン『山路力也の飲食店戦略ゼミ』(DMM.com)/音声メディア『美味しいラジオ』(Voicy)/ウェブ『トーキョーラーメン会議』『千葉拉麺通信』『福岡ラーメン通信』他/飲食店プロデュース・コンサルティング/「作り手の顔が見える料理」を愛し「その料理が美味しい理由」を考えながら様々な媒体で活動中。

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