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『コロナショック』で急増する飲食店のテイクアウトや通販への懸念

山路力也フードジャーナリスト
「弁当」を製造販売するにも厳密に言えば許可が必要となる場合がある(写真:アフロ)

飲食業界がテイクアウトに舵を切った

 新型コロナウイルスの感染拡大を抑えるために、4月7日に「緊急事態宣言」が出されて2週間ほどが経った。当初の対象地域は東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡の7都府県だったが、17日からは全国に拡大し、北海道や愛知、京都など新たに6道府県を加えた13都道府県を「特定警戒都道府県」と位置づけて、仕事は極力テレワークにシフトすることと、不要不急の外出を極力控えるように要請した。

 このことによって飲食業界がこれまでにない大打撃を受けている。外出自粛の状況であっても飲食店は「社会生活を維持する上で必要」という位置づけにはなっている。しかし実際には、各都道府県は飲食店に対して営業時間の短縮などの自粛を要請しており、外に出ている人が激減していることも影響し、通常の売上げの半減は当たり前、中には8割〜9割減という飲食店も少なくない。そんな中で少しでも売上げを確保するために、今多くの飲食店が「テイクアウト」「デリバリー」「通信販売」へとシフトしている。

 2019年10月の軽減税率導入のタイミングから、さまざまな飲食店が工夫して、個性豊かなテイクアウトメニューや通販メニューを開発、販売を開始するケースが増えていたが、今回のコロナ不況でより加速化している現状がある。これまでお店でしか食べられなかった料理を自宅でも味わえるのは、私たち消費者にとっても飲食店の新たな楽しみ方として歓迎したいところだが、いささか懸念があることも否めない。

店で出しているものをそのまま売るのが原則

 仕事柄、多くの飲食店とおつきあいがあるが、そのほとんどのお店もテイクアウトや通販を開始している。しっかりと準備整備を進めて保健所の指導や許可を得て販売している店がある一方で、残念ながら慌ててテイクアウトなどに舵を切ったお店の多くは、「食品衛生法」などの法令を守っていないものを出している現状があるのも事実だ。

 多くの飲食店は一般的に「飲食店営業」の許可を得て営業しているはずだ。しかし、例えばお酒を出していて0時以降も営業する店の場合は「深夜酒類提供飲食店営業」の許可が必要であったり、一からの調理などを伴わない場合は「喫茶店営業」許可など、その業態や販売形態によって必要な営業許可は異なる。

 基本的には通常お店で出しているものをその場で調理して、お店で手渡し(もしくはお店から配達)するのであれば、原則として飲食店営業許可で販売が出来る。しかし、客が持ち帰った後に調理する必要があるものや、お店とは違う場所で販売する場合には、新たな許可が必要になるケースがほとんどだと思っていいだろう。

「飲食店営業許可」だけでは売れないものがある

 テイクアウトの多くで見られる「弁当」の販売は基本的に「飲食店営業」の範囲内ではあるが、作り置きして販売する場合には、対面販売であっても営業許可種目の中に「そうざい」「弁当屋」などを新たに追加する必要がある。また、焼肉店が生肉を販売する場合は「食肉販売業」「食料品等販売業」、タレを売る場合は「ソース類製造」「調味料等製造業」などの許可が必要になる場合がある。

 ラーメン店が自家製麺を生麺の状態で販売する場合には原則として「めん類製造業」の許可が必要になり、チャーシューを通販など対面販売以外の状態で販売する場合には「食肉製品製造業」の許可が必要となる。またスープや餃子などを冷凍して販売するには、「食品の冷凍または冷蔵業」の許可が必要になることがある。レストランがメニューで人気ケーキをテイクアウトで販売をする場合には「菓子製造業」の許可が要り、アイスクリームをテイクアウト販売するには「アイスクリーム類製造業」の許可が別に必要となる。

 また、これらの事例は地方自治体や保健所によって解釈が異なる。同じ商品を製造販売していても、店によって得ている許可が違うというケースも少なくない。いずれにせよ、テイクアウトや通販を始める場合には、まず管轄する保健所に事前相談するというのが鉄則。その上で必要な許可を得て製造販売を始めるべきである。

高いコンプライアンス意識が消費者と飲食店自身を守る

 「コロナショック」により客足が途絶えた飲食店が、テイクアウトや通販に活路を見いだすのは理解出来るし、応援していきたいと思っている。だからこそ、しっかりとルールを守った商品を提供してもらいたいと願っている。

 現実問題として、許可を得ずとも安全なものを提供している店はあるだろう。また弁当製造販売など飲食店営業許可の範囲内のものに関しては、申請だけで許可が得られるのだから実際の調理販売上は無許可と何も変わらないのも事実だ。しかし、万が一食中毒などのトラブルが出た場合はどうだろうか。

 もちろん許可があろうがなかろうが食中毒を出さないというのは、飲食店としては大前提である。しかしながら、もし保健所の指導下に置かれた環境や状況で許可を得て製造販売していれば、飲食店側のダメージは少なく済むかもしれないが、ルール違反した環境下で食中毒でも起こそうものなら申し開きが出来ない。こういう状況下だからこそ、しっかりとした高いコンプライアンス意識が飲食店には問われている。

 これまで飲食店しかやっていなかった人がテイクアウトや通販を始める場合、そのままでは始められないのがほとんどだと思った方がいい。もちろん実態に応じた法改正や規制緩和などは必要だろうが、現状のルール内でどうしたら製造販売が出来るのかは、飲食店側から保健所に相談をすることが第一だ。食品衛生法などの法律や条例は、消費者を守ると同時に飲食店側も守るルールでもある。法を守るということは法に守られるということでもあるのだ。

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フードジャーナリスト

フードジャーナリスト/ラーメン評論家/かき氷評論家 著書『トーキョーノスタルジックラーメン』『ラーメンマップ千葉』他/連載『シティ情報Fukuoka』/テレビ『郷愁の街角ラーメン』(BS-TBS)『マツコ&有吉 かりそめ天国』(テレビ朝日)『ABEMA Prime』(ABEMA TV)他/オンラインサロン『山路力也の飲食店戦略ゼミ』(DMM.com)/音声メディア『美味しいラジオ』(Voicy)/ウェブ『トーキョーラーメン会議』『千葉拉麺通信』『福岡ラーメン通信』他/飲食店プロデュース・コンサルティング/「作り手の顔が見える料理」を愛し「その料理が美味しい理由」を考えながら様々な媒体で活動中。

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