「パパの死、どうか無駄にしないで…」 事故多発の交差点、警察が現場診断
「6月8日、父が交通事故で亡くなった交差点に、静岡県警本部の交通課、三島警察署、交通安全協会、三島市役所などから、約20名の方々が集まってくださり『現場診断』が行われました。死亡事故はもちろん、同じような交通事故が二度と起きることのないよう、ぜひ具体的な対策を取っていただきたいと思います」
そう語るのは、2019年1月、三島市の交差点で赤信号無視の乗用車に衝突され死亡した仲澤勝美さん(当時50)の長女・杏梨さん(29)です。
この日、母親の知枝さんとともに事故現場を訪れた杏梨さんは、安全対策を検討する話し合いに参加し、警察官らと意見交換しました。
■5年間に7件の事故が発生していた死亡事故現場
「静岡県警によると、この交差点では過去5年間に7件の交通事故が発生しており、そのうち5件が出合い頭の事故だったそうです。父の死亡事故が何件目に発生したのかはわかりませんが、もともと、危険性の高い交差点だったことだけは間違いないようです」(杏梨さん)
信号のある交差点で「出合い頭の事故」が起こっているということは、どちらかの車が信号無視をしていることになります。
なぜ、この交差点で信号の見落としが多発しているのでしょうか?
参加者からは「手前の信号が目に入りづらく、ひとつ先の信号を見て進んでしまうのではないか」という意見が出されたため、今よりも見やすい位置への信号移設も検討されることになったそうです。
次に上がったのは、「見通し」の問題です。
現場の幹線道路には防音のために大きな壁があり、これによって見通しが悪くなっているという指摘もあったようです。
杏梨さんは語ります。
「これについては、注意を呼び掛ける表示が検討されるとのことですが、ここに設置されている防音壁は、そもそも防音の効果はあまりないという意見も出されました。私たちとしてはまず、この交差点で重大な死亡事故が発生したということを伝える看板の設置など、何らかの表示を行ってもらいたいと思っています」
仲澤さんの事故については、2年前に以下の記事で報じて以来、複数回にわたってその経緯をレポートしてきました。
事故死した父の走行ルートが違う! 誤った捜査と報道を覆した家族の執念(柳原三佳) - 個人 - Yahoo!ニュース
当初、乗用車を運転していた女性が「自分は青信号だった。対向の原付バイクが右折してきた」と供述したことから、警察は当初、原付バイクに乗っていた仲澤さんに重大な過失があると判断しました。
しかし、疑念を感じた遺族が独自に目撃者や防犯カメラを捜し、再捜査が行われ、女性の赤信号無視が判明。女性は過失運転致死罪で起訴され、今年3月、有罪判決を受けたのです。
■「人間工学」の視点取り入れ、事故多発現場の見直しを
赤信号の無視は、ドライバーのミスです。しかし、同じ交差点で、事故が繰り返し発生する場合は、今回のような視点から、すみやかに「現場診断」を行うことが重要です。
つまり、その交差点の構造、信号や標識の表示に、人間のミスを誘発する何らかの原因が潜んでいる可能性があるからです。
私はかつて、事故が多発していた、極めて複雑なかたちの横浜市内の交差点において、「人間工学」の視点から改善を行ったケースを取材したことがあります。
以下をご覧ください。
『横浜市内変形六角橋交差点のリスクと改善』
人間工学の研究者と警察が協力して改善に取り組んだことで、事故を大幅に減らすことができたという好事例です。
ちなみに、『人間工学』とは、以下のように解説されています。
「交通事故をなくす」という視点から見れば、「ドライバーが安全に走行できるような車や道路環境を、生理学や心理学なども取り入れながら整備することが重要」ということです。
■信号の位置の変更や注意喚起の看板設置を検討
6月8日の「現場診断」の模様は、当日のNHKニュース(以下)でも報じられました。
三島の交通死亡事故現場で対策検討 表示や信号設置し直しなど|NHK 静岡県のニュース
この中で、三島警察署交通課の神尾健司課長は、「見通しが悪い道路なので、信号の位置や注意喚起の看板などでの対策を考えたい」とコメントしていたとのことです。
仲澤さんの死亡事故現場で、過去5年に7件の交通事故が発生していたという事実は、人間工学的な視点から見ればどうとらえるべきなのか。
今回、20名が集まって行われた「現場診断」の結果が、事故の再発防止のために有効に生かされることを期待したいと思います。
杏梨さんは、語ります。
「加害者に有罪判決が下された後、静岡県警は私たち遺族に対し、初動捜査が不十分だったことを謝罪してくださいました。私たちからは、父の事故のように『死人に口なし』の二次被害が起こらないよう、防犯カメラの設置と、事故の再発防止対策を要望していました。現状では、防犯カメラは難しいようですが、事故から2年半経って、こうして現場診断をしていただけたことは、本当にありがたいと思っています。ただ、なにをしても、どこまでいっても、父が戻ってくるわけではありません。今後も父の死を無駄にしないよう、できることを精一杯頑張りたいと思います」
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