日本にも広がる「不満を抱く若者」(Disaffected youth)。2025年はさらに拡大へ
年末、Financial Timesで「Disaffected youth」(不満を抱く若者)というタイトルの記事が掲載されていた。
11月に行われたアメリカ大統領選では、従来の支持者に加えて、黒人やヒスパニックを含めた若年男性の支持がトランプ次期大統領に集まったことが注目を集めたが、世界的にこの傾向が広がっている。
下図は年代と性別による右派ポピュリストへの支持動向を2024年と2014年で比べたものだが、アメリカだけでなく、イギリスもEUも同様の傾向になっている(特にEUの変化はすさまじい)。
その背景は、物価高騰による経済的な困窮、ジェンダー平等が進む中で「男性差別」だと感じていることなどが挙げられる。
さらに、アメリカやヨーロッパをはじめ、西側先進国では若年層の間で「民主主義」への満足度が大きく下がっており、強権的なリーダーを志向しつつある(ただし、スウェーデンやデンマークなど民主主義が浸透した国々では満足度が大きく上回っていることは付記しておきたい)。
日本でも「Disaffected youth」(不満を抱く若者)が広がる
そして、上図の中段にあるように、日本(Japan)はアジア諸国の中で、例外的に、民主主義への不満の方が高い国となっている。
その調査結果を裏付けるように、日本でも「Disaffected youth」(不満を抱く若者)、ポピュリズム傾向が可視化された2024年であった。
ただ、日本の場合は、主権者教育が不十分であり、政治と実生活の関係を理解するようになるのが学校を卒業してから、つまり他国に比べて10年ほど遅い印象のため(会社で働いたり子育てを始めてから実感する)、ここでいう若者は20歳代〜40歳代だと理解すると世界的な傾向と合致しやすい。
実際、子育て環境や可処分所得の厳しさなどから、近年もっとも投票率が上がっているのが30歳代であり、それは2024年7月に行われた都知事選でも確認された。
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7月7日に行われた東京都知事選では、候補者が乱立したこともあり、大きく注目を集め、全体の平均投票率(60.62%)が5.62ポイント前回よりも上昇したが、もっとも上昇したのが30歳代の7.52ポイント増(57.75%)であった。
石丸伸二候補者がオンライン上で注目を集めたため、10代や20代も上がったと思ったが、20歳代は平均の上昇率を下回る、3.78ポイント増(44.95%)、19歳は1.95ポイント増(49.87%)、18歳は0.59ポイント減(59.99%)であった。
他方、10月に行われた衆院選では、投票先に大きな変化が見られた。
30歳代以下では、国民民主党やれいわ新選組が支持を広げた。
自民党への若年層の支持率は大きく減っており、「右派ポピュリスト」への支持が広がっている世界的な傾向と違うではないかと感じるかもしれないが、日本の場合は保守政党である自民党が常に与党にいることでジェンダー平等があまり進んでおらず、政権に入っていない、経済的なポピュリストに流れやすい素地ができていると考えると理解しやすい。
「103万円の壁」の議論においても、財源や負の影響といった難しい話はあまりせず、大衆へのメリットばかりを強調している姿勢を見ていると、自民党より、国民民主党の方が大衆迎合型になっていると言って良いであろう。
ただし、かといって、不満を抱く若者・現役世代の声に他の政党が応えているかと言えば、決して十分ではなく、前回の衆院選からずっと訴えてきた、若年層の可処分所得が少ないという課題をアジェンダ化した国民民主党に支持が集まるのは自然なことであり、それは国民民主党の功績である。
選挙の勝者は誰が若者の支持を獲得するかで決まる
2024年は世界的にも選挙の多い「選挙イヤー」だったが、2025年7月には参院選と都議選が行われるなど、日本では選挙イヤーが続く。
その時、議席を大きく伸ばすには、比較的投票先を変えやすい若年層・現役世代の票を獲得するのが重要になるだろう。
特に、不満が高まっているのに加え、今回の総選挙や兵庫県知事選で「成功体験」を得つつある、若者の投票率が高まる可能性は高い。
これまで、「誰に投票しても変わらない」と言われ、実際投票率の低かった若者の投票率だが、今回若者を筆頭に投票先を変えたことで、自公政権の過半数割れと少数与党になり、野党が提示したアジェンダがずっと議論されるなど、若者世代にとって初めて「投票したら生活がこう変わった」という非常にわかりやすい成功体験になりつつある。
いつでも政治を学べる場所を
他方、上図の民主主義への満足度調査で見たように、日本の民主主義への不満の高さは、強権的なリーダーを招く可能性を秘めており、選挙以外の日常生活に民主主義を浸透させていかなければ、両極端に揺れる、不安定な社会になりかねないと危惧している。
それを防ぐためには、経済的な不満や格差拡大などの目の前の課題に対処しつつ、全世代向けに民主主義教育を強化していく必要があるだろう。
日本では、学校で(過度な)政治的中立性の確保のため、近年「公共」や「探究学習」によって少しずつ変わりつつあるとはいえ、まだまだ現実社会からは遠い概念的なところでとどまっており、体系的に民主主義や政治を学ぶことはできていない。
もちろん若者が政治に関心を持ち、投票に行くようになることは望ましいが、興味を持った時に、政治や社会参加の方法などについて学べる場所がほとんどないのが現状だ。
そこで筆者が代表理事を務める日本若者協議会では、「民主主義とは何か?」「子どもの権利とは?」「人権とは?」など、基礎的な内容から、社会運動の歴史を学べるドキュメンタリー、日本と欧米・台湾・韓国等で民主主義の発展度合いが違う理由、具体的な社会の変え方まで、政治や民主主義などについて学ぶことができる常設型の「民主主義博物館」を2025年3月頃にオープンしようとしている。
「民主主義博物館」ではワークショップなど、様々なイベントも行いながら、より実践的に学び、対話をすることができる場所にしたいと思っている。
様々な人々の考えに触れ、意見の異なる相手と対話できるようにするためには一定の技術が必要であり、そうしたことも学べる場所を作っていく必要がある。
これまでも著書『子ども若者抑圧社会・日本 社会を変える民主主義とは何か』(光文社新書)をはじめ、様々なところで民主的な形での「社会の変え方」をきちんと教えないと、政治的暴力事件が増えると警告してきたが、政治への関心が高まってきた昨今、本格的に民主主義教育に注力しなければならないと強く感じている。