環境審議会で若者委員の意見を封殺?複数委員から審議会の進め方に対して疑義
2050年カーボンニュートラル実現に向けて、忌憚のない意見をお願いしたいと委員を引き受けたにもかかわらず、環境省に都合のよくない意見はコメントできない。議論のパフォーマンスだけを行う場にこれだけの有識者の方々の時間を使うのはもったいないのではないか。
11月25日に開かれた、中央環境審議会地球環境部会2050年ネットゼロ実現に向けた気候変動対策検討小委員会・産業構造審議会イノベーション・環境分科会地球環境小委員会中長期地球温暖化対策検討WG 合同会合(第6回)で、会議のあり方について疑問を呈したコメントが委員から投げかけられた。
発言したのは、ハチドリソーラー株式会社代表取締役 兼 ハチドリ電力事業責任者の池田将太委員。まだ26歳の若者委員の一人だ。
合同会合では、2025年2月までに国連に提出する予定の2035年NDC(温室効果ガス削減目標)や地球温暖化対策計画の改訂に向けた議論が行われており、今後の日本の気候変動対策を決める非常に重要な会議となっている。
その場で、なぜこうした強い批判が投げかけられたのか。
その理由を読む解くために、発言の全てを引用しよう。
前回の会議に欠席するため、コメントを事前に送ったが、取り扱われなかったという。
会義体のあり方とより野心的な目標設定をすべきであるという内容だったというが、そうした“本音”を議事録に残すことを避けようとしているのであれば、会議を設置している省庁側の結論ありきで進めようとしていると批判されても仕方ないのではないだろうか。
ではその内容は一体どんなものなのだろうか。
池田委員本人の許可を取った上で、掲載したい。
意見書
提出日:2024 年10 月30 日
審議会の進め方について
これまで2050 年ネットゼロ実現に向けた気候変動対策検討小委員会に参加させていただき、このままでは我が国の気候変動に対しする目標とそれを達成するための具体的な政策が前進しないのではないかと課題感を感じ、以下の意見を述べさせていただきます。
⒈ 現状の会議の進め方では論点が多岐にわたっており、総論としての大きな方向性の合意がないまま各論の議論に終始してしまうことを危惧しています。各委員の意見をしっかりと集約して、これまでの方向性を見直すという判断になるのであれば、その前提に立った議論ができるようにしていただきたいと考えています
⒉ ほとんどの委員が「目標の野心度引き上げ」を主張していると認識しているため、2035年の目標をより野心的なものに変更する方向性に全体で合意するプロセスを踏んでいきたいです。具体的には2035年再エネ比率を60%、GHGの削減を2013年比75%を目指すという目標感を共有したうえで、想定される課題に対してどのように対処するか議論を行わなければ、建設的な議論にはならないのではないかと考えております
⒊ 上記、具体的な数字に今合意が難しくとも、現状の延長線上よりも引き上げることに賛成であれば、どのくらい引き上げるべきかをこの場で議論したいです
ハチドリソーラー株式会社
代表取締役 池田将太
内容としては、すごい突飛なものではなく、まずは全体の方向性=2035年再エネ比率を60%、GHGの削減を2013年比75%を目指すという目標を合意した上で、各論を詰めていくべきではないかという、戦略会議をする上では至極真っ当なことを訴えただけとも言える。
しかし25日に事務局が提出した削減目標の数字は2035年度に60%削減(2013年比)、40年度に73%減と、もっと高めの数字を設定しようという池田委員の発言は都合が悪かったのかもしれない。
NDCの目標は30分で確定?
さらに、25日の審議会で、政府から削減目標案が提示されたのは、終了のわずか30分前。事前に目標案が提示されることもなく、当日議論された内容やシナリオへの疑問点も実質的には反映・消化されず、丁寧な議論とは程遠い。(ちなみにリアルタイムで審議を見ていたが、政府のホームページに公表されたのも、他の資料とは異なり、審議の途中であり、事前に見せたくないという強い意図だけは伝わってくる)
産業構造審議会の委員を務める、株式会社住環境計画研究所 研究所長の鶴崎敬大氏は、自身のブログにて、もっと早い段階でシナリオを披露し、「多様な専門性や経験を持つ委員から出てくる疑問点を丁寧に検討することで、目標の水準の厳しさ(どの経路も大変厳しいと思います)について、委員・事務局・聴講者・関係者の共通認識が形成されていく場にできたのではないか」と指摘している。
マイク音切り問題と同じ性質?
環境省のこうした対応を見て思い出すのは、水俣病患者団体と環境大臣の懇談の場で起こった、発言途中にマイクを切った問題だ。
その時にも、環境省は意見を聞いたふり、懇談が形骸化しているという批判の声が集まったが、都合の良い意見は聞き、都合の悪い意見は封殺する、今回の審議会での対応と性質は同じかもしれない。
合同会合では、この池田氏の発言に同調する委員も複数存在し、以前から同様の意見が出ているにもかかわらず、環境省側からは何も応答がないという発言もあった。
11月29日に行われた浅尾環境大臣会見では、「議題が異なるので次回にしてほしいと促した」という説明をしているが、削減目標の議論を第6回会合(11月25日開催)のみで行ったという認識なのであれば、あまりに重要な決定をたった一回で決めるという非常に乱暴な審議プロセスであるし、進め方に対する意見に対しては結局対応していない。
そもそも、有識者会議の委員が自由に発言できないこと自体おかしいのではないだろうか。
日本の省庁に設置される有識者会議は、事務局を担う省庁側が議論をリードし、政府の方針に批判的な有識者は委員として登用されにくいことは長年批判されてきたが、少数与党となり、国会審議のあり方も変わろうとしている今、行政側の審議プロセスも見直す時期が来たかもしれない。
政府から独立した第三者機関設置の必要性
例えば、2035年までに81%削減するという高い目標を一歩先に発表したイギリスは、国会に設置されている、第三者機関である気候変動委員会の勧告を受けて、この数字を設定している。気候変動委員会は、毎年、イギリス議会に対し対策の進捗状況の報告書を提出し、政府はこの報告書に対する返答を議会に提出する義務がある。
このように、イギリスでは科学的に現状を分析し、共通のデータを用いて議論しているのに対し、日本は複数の政府系研究機関(公益財団法人 地球環境産業技術研究機構&国立環境研究所)から角度の異なるシナリオが出され、その間(真ん中)を取るような雑な議論に終始している。
その目標値は結局、2030年目標46%削減をそのまま2050年100%削減まで直線的に引き、単純に割った数字(2040年73%=残り54%を2で割り、46に27を足したのが73%)になっている。
本来は、イギリスが現状の分析を踏まえて、現行の78%から目標値を引き上げたように、きちんと分析した上で目標値を設定すべきである。
はたしてこれで納得できる国民がどれほどいるのだろうか。
このまま原案通りに目標値が決まってしまうようでは、日本の政策決定プロセスはあまりに非科学的、形式的すぎると言わざるを得ない。