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60%削減では1.5度目標に整合しない?科学者からも目標引き上げを求める声(2035年NDC)

室橋祐貴日本若者協議会代表理事
日本若者協議会

2025年2月までに国連に提出する2035年温室効果ガス削減目標(NDC)の原案が年内にまとめられようとしている。

現状審議会で示されている数値目標は、60%削減(2013年度比)。

同時に策定が進められている第七次エネルギー基本計画における2040年の電源構成は、再生可能エネルギーの比率が4〜5割程度、原子力は2割程度、残りの3〜4割程度は火力などと、2050年カーボンニュートラルでさえ達成が困難になりそうな数値が報道されている。

はたして、これらの目標はパリ協定で掲げられた1.5度目標達成と整合しているのだろうか。

筆者が代表理事を務める日本若者協議会では、12月12日に緊急院内集会を開催。

気候科学の観点から見て、政府の言う「60%削減は1.5度目標と整合している」という主張は正しいのか、与党や野党議員はこの数字をどう見ているのか、それぞれに発言をしてもらったため、ポイントを紹介したい。

院内集会の様子はこちらから全編見れる。

1.5度目標と2050年カーボンニュートラルは違う

地球環境戦略研究機関(IGES)リサーチマネージャー/理学博士である、岩田生氏が強調したのは、1.5度目標と2050年カーボンニュートラルは異なる点。

IGES・岩田生氏
IGES・岩田生氏

気温上昇は、累積排出量(面積)で決まるため、気温上昇を抑えるためには、2050年時点だけでなく、その経過が重要となり、なるべく早期かつ大量に削減量を減らしていく必要がある。

1.5度目標までにCO2を排出してもよい量を「カーボンバジェット」と言うが、それを考慮に入れると、直線的削減では1.5度目標に整合しているとは言えないという。

以前の記事でも紹介しているように、今回新たに結ばれた自公連立政権合意文書には新たに1.5度目標が明記されており、2050年カーボンニュートラルを目指して直線的に削減するだけでは不十分で、1.5度目標を目指し、早期に削減量を減らしていく必要がある。

関連記事:自公連立政権合意文書に「1.5度目標」が明記!なぜ「1.5度目標」が重要なのか?(室橋祐貴)

60%削減では1.5度目標と整合とは言えない

また政府の資料では、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が2023年3月に発表した第6次統合報告書で示した、「1.5度に気温上昇を抑えるためには、2035年までに世界全体で60%の削減が必要である」(2019年比)(日本が基準年にしている2013年比で計算すると66%)という数値には幅があり、2035年60%削減でも、1.5度目標に整合していると説明がなされている。

第6回中央環境審議会地球環境部会2050年ネットゼロ実現に向けた気候変動対策検討小委員会・産業構造審議会イノベーション・環境分科会地球環境小委員会中長期地球温暖化対策検討WG 合同会合
第6回中央環境審議会地球環境部会2050年ネットゼロ実現に向けた気候変動対策検討小委員会・産業構造審議会イノベーション・環境分科会地球環境小委員会中長期地球温暖化対策検討WG 合同会合

しかし、岩田氏によると、幅(上図でいう2035年49-77%)に入っていれば1.5度目標に整合しているわけではないという。

「(下図)緑色のシェードがかかっていますが、これはIPCCの報告書の中で検討されたシナリオのうちの9割がこの中に入っていることを示しているものであって、この範囲に入っていれば、1.5度目標に整合しているというものではありません。

「日本を含めて国際合意しているのは、2035年66%削減(2013年比)」

IGES・岩田生氏
IGES・岩田生氏

またさらに細かく分析すれば、日本政府が示している60%削減は、1.5度整合経路のうち最も削減量が少ないシナリオに相当し、世界各国がこの程度の削減しかできなければ、1.5度目標が達成できる見込みはほぼないと分析する。

IGES・岩田生氏
IGES・岩田生氏

その上で、日本の先進国としての責任を考えれば、世界に先んじて削減を進める必要があり、IGESでは、1.5度目標を達成するためには76%削減が必要だと分析しているという。

IGES・岩田生氏
IGES・岩田生氏

60%削減で1.5度目標に整合していると主張するのは「恥ずかしい」

続いて登壇したのは、前回のNDC策定時に中央環境審議会の委員を務めていた東京大学未来ビジョン研究センター教授の江守正多氏。

「1.5度に整合しているか、整合していないかは、世界で合意された明確な定義がないため、言ったもん勝ちみたいになってしまうが、60%という数字は、IPCCのシナリオの中央値には全然足りていない。先進国の責任ということを考えると、全く足りない。こういう状況で、日本が整合していると言い張るとすれば、それは日本の

勝手な解釈であって、国際的には通用しない議論になるのではないかと危惧する。」

「先進国の責任を考えると、もっと減らすべきだということを全く理解していないような印象を与えるのではないか。それによって、日本が国際的な常識を理解していない国であるというような、とても傲慢な態度になってしまうのでは。個人的には、日本が60%を掲げて、1.5度目標に整合していると国際的に主張するのであれば、恥ずかしいからやめてほしいと思う。」

公明党は最低でも66%以上削減、自民党再エネ議連は70%削減を求める

その後、各出席議員からも発言をもらい、翌日(13日)石破首相に提言が出されたように、公明党の谷合正明参議院議員(地球温暖化対策本部長)は最低でも66%以上の削減が必要と主張した。

また自民党からは、再生可能エネルギー普及拡大議員連盟(会長・柴山昌彦衆議院議員)の事務局長を務める三宅伸吾参議院議員が出席し、議連として、2035年NDCを2013年度比で70%以上とすること、再生可能エネルギー比率は60%以上を求める提言をまとめ、近日中に担当閣僚に手交することを発表した。

日本若者協議会主催「決定直前!温室効果ガス削減目標66%以上を求める緊急院内集会」にて
日本若者協議会主催「決定直前!温室効果ガス削減目標66%以上を求める緊急院内集会」にて

衆議院本会議と時間が被ってしまったため、最後駆けつけた数名の議員以外は衆議院議員の参加が難しかったが、多くの政党から議員が出席し、目標の引き上げを求める発言がなされた。

出席議員:三宅伸吾 参議院議員(自民党)、笹川博義 衆議院議員(自民党)、谷合正明 参議院議員(公明党)、竹谷とし子 参議院議員(公明党)、山崎誠 衆議院議員(立憲民主党)、岩淵友 参議院議員(日本共産党)、吉良よし子 参議院議員(日本共産党)、嘉田由紀子 参議院議員(日本維新の会)

関連記事:環境審議会で若者委員の意見を封殺?複数委員から審議会の進め方に対して疑義(室橋祐貴)

日本若者協議会代表理事

1988年、神奈川県生まれ。若者の声を政治に反映させる「日本若者協議会」代表理事。慶應義塾大学経済学部卒。同大政策・メディア研究科中退。大学在学中からITスタートアップ立ち上げ、BUSINESS INSIDER JAPANで記者、大学院で研究等に従事。専門・関心領域は政策決定過程、民主主義、デジタルガバメント、社会保障、労働政策、若者の政治参画など。文部科学省「高等教育の修学支援新制度在り方検討会議」委員。著書に『子ども若者抑圧社会・日本 社会を変える民主主義とは何か』(光文社新書)など。 yukimurohashi0@gmail.com

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