若者が投票に行ったら選挙結果が変わる、を証明した統一地方選挙
全体的に低投票率となった、2023年4月の統一地方選挙。
4月9日に投開票が行われた、統一地方選前半戦の9道府県知事選の投票率は、統一選として過去最低だった2015年の47.14%を0.36ポイント下回り、46.78%となった。
41道府県議選は41.85%。過去最も低かった前回2019年の44.02%から2.17ポイント落ち込んだ。
4月23日の後半戦も、55の町村長選挙の平均投票率は60.79%とこれまでで最も低かった前回2019年を4.32ポイント下回ったほか、280の市議会議員選挙が44.26%、250の町村議会議員選挙が55.49%と、いずれも過去最低となっている。
全体的な底上げをするためには、抜本的に主権者教育(民主主義教育)を強化する必要性があることは以前記事を書いた通りだ。
統一地方選、致命的な投票率の低さ。どうしたら投票率は上がるのか?フィンランド主権者教育との比較から(室橋祐貴)
投票率が大幅に増加した東京の選挙
一方、部分的に見ると、大きな変化の兆しが生まれつつある。
今回の統一地方選挙では、東京・杉並区や武蔵野市などの議会で、過半数を女性議員が占めるなど、女性議員の当選者が増えたことは広く報道されている通りである(地方議会の女性当選者の割合が過去最高の約20%に)。
杉並区では、自民党が改選前の16議席を9議席に減らし、新人候補者の当選率は前回の43%から65%に上昇した。
その背景にあるのは、大幅な投票率の増加である。
杉並区の投票率は43.66%。前回と比べて4.19ポイント上昇し、人数で見れば、約2万票が増えている。
東京新聞の取材によると、その約2万票は、新人候補者などの非自民候補に流れた可能性が高いという。
同じく女性議員が過半数を占めた武蔵野市でも4.23ポイント、投票率が上昇。
これも女性議員の増加を後押しした可能性が高い。
自民党候補者19人中、会派幹事長ら現職5人を含む7人が落選した東京・足立区(5月21日投開票)では、投票率こそ増えていないものの(42.79%で、前回から0.1ポイント減)、自民、立憲、公明、共産の既成政党が軒並み得票数を減らし、変革を期待する国民の声が聞こえてくる。
年代別に見ると若者の投票率が大幅に上昇
さらに興味深いのが、東京・練馬区だ。
練馬区議選では、毎回全員当選している公明党の候補者11人中4人が落選。
落選した4人の候補者の得票数は、いずれも当選ラインから50票差程度に収まっており、当選ラインが上がったことがその大きな要因となっている。
投票率は、前回から1.55ポイント増加。人数にして、約1.2万人増えている。
興味深いのは、その内訳だ。
年代別投票率、投票者数を調べると、若い世代が大幅に上昇している。
もっとも投票率が上がったのは、30歳代。前回から4.28ポイントも上昇している。
次に20歳代で、3.45ポイントの上昇。
その次も40歳代と、若い世代が投票率を伸ばしている。
有権者数の変化から、40歳代の投票者数は前回よりも減っているものの、全体の増加分(約1.2万人)のうち、約半数(約6,000人)を20歳代〜30歳代が占める結果となっている。
この若い世代の投票率上昇、投票者数の増加が、選挙結果に大きな変化をもたらしたことは間違いなさそうだ。
それも、練馬区でも自民党の現職が何人も落選している状況を見ると、既成政党ではなく、新しい政党や、女性、若者といった、新しい属性に流れている可能性が高い。
他の自治体の年代別投票率は調査できていないが、もしかしたら同様の傾向にあるかもしれない。
しかも、練馬区では、今回の区議選に限らず、2022年4月17日に行われた練馬区長選挙でも、若い世代の投票率が上昇している。
練馬区長選の全体の投票率は31.95%、過去最低だった4年前(31.38%)とほぼ変わらない結果になっているが、年代別で見ると、20歳代は1.81ポイント上昇、30歳代も1.67ポイント上昇している。
区長選は、自民、公明、国民民主、都民ファーストの会が推薦した現職が再選したものの、票差はわずか約2,000票と、接戦となっていた。
大きな変革の兆し
これまで、若者の人口が少ないことから、「若者が投票に行っても意味がない」と言われてきた。
しかし、今回の統一地方選挙では、「若者が投票に行ったら選挙結果が変わる」ことが明らかになった。
しかも、既成政党ではなく、新しい政党や、女性、若者といった、現状の議会にほとんどいない、新しい属性に流れている可能性が高い。
そこにあるのは、コロナ禍や物価高による生活状況の悪化、少子化対策(子育て政策)や労働政策(賃上げの低さ)、ジェンダー政策などへの期待の低さ、将来の見通しの悪さによる、既成政党、政治家への不満の高まりであろう。
一方、新しい女性首長を選んだ東京品川区(森澤恭子区長)や杉並区(岸本聡子区長)では、すぐに小中学校の給食費の無償化が実現するなど、「新しい選択」が生活に大きな変化をもたらしつつある。
国政においても、これまでは若者の政権支持率が高かったものの、そこにも陰りが見え始めている。
なぜ岸田内閣の若者支持率は低いのか?「改革」か「非改革」かという対立軸(室橋祐貴)
来年2024年9月の自民党総裁任期までに行われる可能性の高い、衆議院総選挙。
ひょっとすると、そこでも若者が大きな変化をもたらすかもしれない。